トランペットの楽譜を開いたとき、「五線のどこがドなの?」「B♭管だから音をずらして読まないといけないの?」「ピアノと同じドを吹いているはずなのに、違う音に聞こえる」と戸惑うことがあります。
この混乱の大きな原因は、譜面に書かれている音・トランペットで使う運指・実際に鳴っている音を一度に理解しようとしてしまうことです。
一般的なB♭トランペットは移調楽器なので、楽譜上の音と実際に鳴る音が一致しません。ただし、普段のB♭トランペット用楽譜を演奏するときに、すべての音を実音へ計算し直す必要はありません。
初心者のうちは、まず「譜面に書かれた音を読む→その記音に対応する運指で吹く」という流れを身につけ、そのあとで必要な場面だけ実音との関係を考えると理解しやすくなります。
この記事では、一般的な3バルブのB♭トランペットとト音記号の楽譜を前提に、五線譜の基本から運指、記音と実音、ピアノ譜を吹くときの移調まで順番に整理します。
- トランペット譜の五線上の音名と基本的な読み方
- B♭トランペットの記音と実音の違い
- すぐ確認できるB♭トランペット移調表
- ピアノ譜などをB♭トランペットで吹くときの考え方
トランペット譜の読み方の基本
トランペットの譜面を読むときは、音符だけを追いかけるより、最初に楽譜全体の情報を確認したほうが迷いにくくなります。
特に大切なのが、どの調のトランペット用に書かれた譜面なのかという点です。この記事で中心に扱うのはB♭トランペットですが、トランペットにはC管などもあるため、「トランペット用なら全部同じ読み方」と決めつけないことが重要です。
そのうえで、ト音記号、調号、拍子、テンポ、音符の高さ、音符の長さ、臨時記号と順番に確認していけば、譜読みで見るべき情報を整理できます。
初心者がまず意識したいこと
通常のB♭トランペット用パート譜なら、譜面はすでにB♭トランペットで演奏できるように書かれています。最初から毎音を実音へ直すのではなく、まずは譜面上の音名と運指を結び付けましょう。
最初に確認する楽器指定
楽譜を手にしたら、まずタイトル周辺やパート名を見て、どの楽器用に書かれているか確認します。
一般的なB♭トランペット用なら、「Trumpet in B♭」「B♭ Trumpet」などと表記されます。この表示があれば、この記事で説明する「記音より実音が長2度低く鳴る」というB♭管の関係で考えられます。
一方、トランペットにはCトランペットなど別の調の楽器もあります。Cトランペットの場合、基本的に記音Cを演奏すると実音Cが鳴るため、B♭トランペットと同じ移調ルールは使えません。
特にオーケストラの楽譜や古い作品では、B♭以外の調のトランペットが指定されることがあります。そのため、「トランペット=必ずB♭管」と考えず、譜面の楽器指定を最初に見る習慣を付けておくと安心です。
初心者向けの教則本や市販のB♭トランペット用楽譜を使っている場合は、それほど複雑に考える必要はありません。「B♭ Trumpet」と確認できれば、その譜面上のCはCとして読み、Cの運指で演奏します。
ここでよくある勘違いが、「B♭トランペットだから譜面上のすべての音を自分で全音ずらして読む」というものです。
これは、すでにB♭トランペット用として書かれているパート譜では不要です。もともと演奏者が読みやすいように移調して記譜されているため、さらに自分でずらすと二重に移調してしまいます。
「B♭管」と「B♭メジャー」は別の意味です。
B♭トランペットという名称は、その楽器の記音と実音の関係を示しています。「B♭管だから楽譜にはいつも♭が2個付く」「B♭メジャーの譜面しか吹かない」という意味ではありません。曲によって調号は変わります。
譜面を読み始めるときは、次の順番で確認すると整理しやすいでしょう。
- 楽器指定がB♭トランペットか確認する
- 音部記号を確認する
- 調号を確認する
- 拍子記号を確認する
- テンポを確認する
- 五線上の位置から音名を読む
- 調号や臨時記号を反映する
- 記音に対応する運指で演奏する
この順番を覚えておけば、「音符は読めたのに実際の演奏で間違える」というケースも減らしやすくなります。
ト音記号と五線の音名
一般的なB♭トランペットの楽譜ではト音記号が使われます。
五線は下から順番に「第1線・第2線・第3線・第4線・第5線」と数えます。線と線の間は「第1間・第2間・第3間・第4間」です。
ト音記号は、第2線がG、つまり「ソ」であることを示す記号です。第2線のGを基準として、線と間を1段ずつ上がれば音名も1音ずつ上がります。
| 五線上の位置 | 記音 | ドレミ |
|---|---|---|
| 加線1本下 | C4 | ド |
| 第1線より下の間 | D4 | レ |
| 第1線 | E4 | ミ |
| 第1間 | F4 | ファ |
| 第2線 | G4 | ソ |
| 第2間 | A4 | ラ |
| 第3線 | B4 | シ |
| 第3間 | C5 | ド |
| 第4線 | D5 | レ |
| 第4間 | E5 | ミ |
| 第5線 | F5 | ファ |
| 第5線より上の間 | G5 | ソ |
| 加線1本上 | A5 | ラ |
初心者向けの教本でよく出てくる低いC、つまりドは、五線の第1線よりさらに下にあり、五線の下に加線を1本付けた位置です。
五線の中だけで音を覚えようとすると、加線が出た瞬間に迷ってしまうことがあります。そのため、低いCから順番に「C・D・E・F・G・A・B・C」と追っていく練習をすると、五線の外まで含めて位置関係を理解できます。
線と間を分けて覚える方法
ト音記号の線上だけを見ると、下からE・G・B・D・Fです。ドレミでは「ミ・ソ・シ・レ・ファ」になります。
間だけを見ると、下からF・A・C・Eです。ドレミなら「ファ・ラ・ド・ミ」です。
最初は1音ずつ数えても問題ありません。譜読みを繰り返していると、第2線のG、第3間のC、加線1本下のCなど、よく使う位置から少しずつ反射的に読めるようになっていきます。
ドレミと英語音名の対応
トランペットの運指表や海外の教材を見ると、ドレミではなくC・D・Eのような英語音名が多く使われます。
| ドレミ | 英語音名 | 日本語音名 |
|---|---|---|
| ド | C | ハ |
| レ | D | ニ |
| ミ | E | ホ |
| ファ | F | ヘ |
| ソ | G | ト |
| ラ | A | イ |
| シ | B | ロ |
つまり、Cメジャーはハ長調、Fメジャーはヘ長調、B♭メジャーは変ロ長調です。
さらに吹奏楽やクラシックでは、B♭を「ベー」と呼ぶことがあります。これはドイツ音名の影響です。ドイツ音名ではBナチュラルをH、B♭をBと表します。英語音名やドイツ音名などの音名の呼び方の違いを整理しておくと、教材や合奏で違う呼び方が出てきたときにも迷いにくくなります。
「B♭トランペット」「変ロ調トランペット」「ベー管」という言い方が登場することがあります。文脈によって表現は違っても、B♭を基準とするトランペットを指している場合があります。
音名の呼び方が複数あると、最初は別の音のように感じるかもしれません。しかし「C=ド=ハ」「B♭=シ♭=変ロ」という対応を少しずつ覚えれば大丈夫です。
調号・拍子・音符の見方
五線上の位置から音名を読めても、それだけでは譜面を正確に演奏できません。
ト音記号の右側には調号があり、その後に拍子記号が書かれます。曲中には臨時記号、休符、タイ、スラー、スタッカートなども登場するため、それぞれの意味を分けて理解しましょう。
調号と臨時記号の違い
調号は、ト音記号の右側に並ぶ♯や♭です。たとえばF♯が調号に含まれている曲なら、原則として曲中のFはオクターブが違ってもF♯として扱います。
調号の数から長調を判断する考え方を詳しく確認したい場合は、調号の数から長調を覚える方法も参考にできます。
一方、音符のすぐ左側に付く♯、♭、♮などは臨時記号です。
♯はその音を半音上げ、♭は半音下げます。♮は、調号や先に付いた臨時記号による変化を取り消して、本来の幹音に戻す記号です。
通常、臨時記号は付いた音から、その小節内の同じ高さの同音名に作用します。小節線を越えると原則としてリセットされますが、タイで結ばれた音などでは注意が必要です。
音名を決める順番
まず五線上の位置からC・D・Eなどの音名を判断し、そのあとで調号と臨時記号を反映します。「位置を見る→調号を見る→臨時記号を見る」と順番を決めると混乱しにくくなります。
拍子記号を見る
4/4拍子なら、基本的に4分音符4個分が1小節に入ります。3/4拍子なら4分音符3個分です。
拍子記号の上側の数字は、小節の中の拍のまとまりを示します。下側の数字は、基準になる音符の種類を示します。
たとえば4/4なら、4分音符を基準として4拍分。3/4なら、4分音符を基準として3拍分です。
音符の長さも確認しておきましょう。4分音符を1拍とする場合、代表的な関係は次のようになります。
| 音符 | 4分音符を1拍とした長さ |
|---|---|
| 全音符 | 4拍 |
| 2分音符 | 2拍 |
| 4分音符 | 1拍 |
| 8分音符 | 1/2拍 |
| 16分音符 | 1/4拍 |
付点が付くと、元の音符の長さにその半分が加わります。たとえば付点2分音符なら、2拍に1拍を加えて3拍です。
ただし、何拍になるかは拍子の基準によって見え方が変わります。初心者の段階では、まずよく出てくる4/4拍子や3/4拍子で音価の感覚を身につけると理解しやすいでしょう。
タイとスラーを区別する
タイとスラーは、どちらも音符を曲線で結ぶため見た目が似ています。
タイは、同じ高さの音同士を結び、音の長さを足して1つの音として伸ばす記号です。
スラーは、異なる高さの複数の音を滑らかにつなげて演奏することを示します。
スタッカートは音を短く区切る指示、テヌートは音価を十分に保つよう促す指示です。
譜面を読むときは、音の高さだけではなく、こうした「どのように演奏するか」という情報も少しずつ拾っていきましょう。
最初から全部を一瞬で判断する必要はありません。音名、リズム、運指、アーティキュレーションと分けて練習すると、情報量の多い譜面にも対応しやすくなります。
B♭トランペットの移調とは
B♭トランペットの楽譜を理解するとき、初心者が最も混乱しやすいのが「楽譜に書いてある音と、本当に鳴っている音が違う」という部分です。
これはトランペットだけの特殊な間違いではなく、移調楽器として意図的にそのように記譜されています。
基本原則はシンプルです。
B♭トランペットでは、書かれた音より実際の音が長2度低く鳴ります。
記音から実音を求めるなら長2度下、実音からB♭トランペット用の記音を求めるなら長2度上です。
ヤマハの作曲入門講座でも、現在一般に使われるB♭トランペットについて、楽譜に書かれた音高は実際の音高より長2度高く記譜されると説明されています。
まずこの方向を理解してから、具体的な音名へ当てはめていきましょう。
記音と実音の違い
記音とは、演奏者が楽譜で見ている音です。「written pitch」と表現されることもあります。
実音とは、実際に空気中で鳴っている音の高さです。ピアノなどで同じ高さになる音を基準として考えます。「コンサートピッチ」と呼ばれることもあります。
B♭トランペットの場合、記音と実音の関係は次のようになります。
| 譜面上の記音 | B♭トランペットで鳴る実音 |
|---|---|
| C | B♭ |
| D | C |
| E | D |
| F | E♭ |
| G | F |
| A | G |
| B | A |
つまり、トランペット奏者が譜面上のCを「ド」として演奏していても、ピアノで同じ高さを探すとB♭になります。
ここで重要なのは、記音が間違っているわけでも、実音がずれてしまったわけでもないということです。それがB♭トランペットの正常な関係です。
同じB♭管の移調楽器でも、楽器によって記譜されるオクターブなどは異なります。別の例から記音と実音の違いを確認したい場合は、サックス運指表の見方でも移調楽器の考え方を解説しています。
「長2度」と「全音」の考え方
CからB♭へ下がると、鍵盤上では半音2個分下がります。そのため、初心者向けには「記音より全音低く鳴る」と説明するとわかりやすいでしょう。
ただし、譜面を書いたり調性を考えたりするときは、単に鍵盤で半音2個ずらすだけではなく、長2度という音程関係で考えることが大切です。
たとえば記音D♭を長2度下へ移すと、音名としてはC♭になります。C♭は鍵盤上ではBと同じ高さになる異名同音ですが、楽典上の綴りは文脈によって意味があります。
演奏だけなら「どの高さを出せばよいか」がわかれば対応できる場面もありますが、楽譜を書き直す場合には調号や音程関係まで保つ必要があります。
移調楽器を使う理由
トランペットには歴史的にさまざまな調の楽器が使われてきました。
バルブが一般的になる以前の金管楽器では、曲の調に応じて楽器や管を替える必要がありました。異なる調の同系統楽器を扱う際、記音と奏法の関係を一定にしやすくする考え方として移調譜が使われています。
初心者にとって大切なのは歴史を細かく暗記することではなく、「書いてあるCをCとして演奏できるようにするため、実際の高さとの違いを譜面側で整理している」と捉えることです。
この仕組みがわかると、「なぜわざわざ違う音で書くの?」という疑問も少し解消しやすくなります。
譜面のドは実音B♭
B♭トランペットの移調を理解するうえで、まず1つだけ確実に覚えるなら、記音C=実音B♭という関係です。
B♭トランペットの譜面にC、つまりドが書かれていたとします。
奏者はその音をCとして読み、Cの運指で演奏します。しかし、外で実際に鳴っている高さをピアノで確認するとB♭です。
B♭トランペットの基本
譜面:C(ド)
運指:Cの運指
実音:B♭
この3つは別々の情報です。
初心者がつまずきやすいのは、「実音がB♭なら、譜面のCを見たときにB♭の運指を使うのでは?」と考えてしまうことです。
しかし、通常のB♭トランペット用譜面ではそうではありません。譜面のCはCの運指で吹きます。その結果として実音B♭が鳴ります。
ピアノと同じCを出すならDを吹く
今度は反対に、「ピアノがCを鳴らしているので、B♭トランペットもまったく同じ高さのCを出したい」と考えてみましょう。
B♭トランペットは記音より長2度低く鳴るため、実音Cを出すには、長2度上の記音Dを演奏します。
つまり、次の関係です。
| 合わせたい実音 | B♭トランペットで吹く記音 |
|---|---|
| ピアノのC | D |
| ピアノのB♭ | C |
| ピアノのG | A |
合奏で「コンサートB♭を出してください」と言われた場合、B♭トランペットでは通常Cを吹きます。
ここでの「B♭」は譜面上の記音ではなく、全員で共有する実音としてのB♭です。
チューナーにB♭と出ても間違いではない
実音表示のチューナーでB♭トランペットの記音Cを吹くと、B♭と表示されます。
初心者だと「Cを吹いたのにB♭と表示されたから、音を間違えている」と思うかもしれません。しかし実音表示なら、これは正常な表示です。
一方、チューナーやアプリによってはB♭楽器向けの移調表示機能があり、同じ実音B♭を記音Cとして表示するものもあります。
チューナーを使うときは、表示が実音表示なのか、B♭楽器向けの移調表示なのかを確認してください。「Cと表示されたか、B♭と表示されたか」だけで演奏の正誤を判断しないことが大切です。
専用譜なら毎回移調は不要
「B♭トランペットは移調楽器」と知ると、今度は「では、楽譜を読むたびに全部の音を全音下げて考えないといけないの?」という疑問が出てきます。
答えは、通常のB♭トランペット用パート譜なら必要ありません。
「Trumpet in B♭」として用意されている譜面は、B♭トランペット奏者が書かれた音をそのまま読んで演奏できるように記譜されています。
譜面にCが書かれていればCとして読み、Cの運指で吹きます。譜面にDが書かれていればDとして読み、Dの運指で吹きます。
演奏中に一音ずつ「Cは実音B♭、Dは実音C、Eは実音D……」と変換していたら、譜読みがかえって複雑になります。
普段のB♭トランペット用楽譜
譜面の音名 → 対応する運指、でそのまま演奏します。
実音との換算が必要な場面
他楽器との音合わせ、ピアノ譜からの移調、編曲、耳コピー、コンサートピッチで音名を指定された場合などです。
初心者は「記音→運指」を先に覚える
トランペットを始めたばかりなら、まず譜面を見て運指が出てくることを優先したほうが練習しやすいでしょう。
たとえば譜面にCが出たら0、Dなら1+3、Eなら1+2というように、音符の位置と音名、運指を直接結び付けます。
そこに毎回実音まで同時に加えると、頭の中で処理する情報が増えてしまいます。譜読みと運指を一人で結び付けるのが難しい場合は、EYS音楽教室のようにトランペットを習える教室で、実際に音を出しながら確認する方法もあります。
実音の理解は大切ですが、演奏中に常に換算するためではなく、他の楽器と音高を共有するときに使う知識と考えると整理しやすいですよ。
自分で移調すると二重移調になる場合がある
B♭トランペット専用譜を見ながら、さらに各音を長2度上へ移して演奏すると、本来想定されている高さからずれてしまいます。
そのため「移調しなければ」と考える前に、必ず譜面の楽器指定を確認しましょう。
逆に、ピアノ用、ギター用、歌用などの実音譜をB♭トランペットで原曲と同じ高さに合わせたい場合は、自分で移調する必要があります。
この「B♭トランペット専用譜」と「実音で書かれた他楽器の譜面」の違いを区別できると、移調での失敗がかなり減ります。
B♭トランペット移調表
B♭トランペットの移調は、どちら向きに変換しているのかを最初に決めれば難しくありません。
トランペットの譜面から実音を知りたいなら長2度下。
実音をB♭トランペットで鳴らしたいなら長2度上。
この2つは逆方向なので、表を見るときも混同しないようにしましょう。
記音から実音への対応表
B♭トランペットに書かれた音から「実際には何の音が鳴っているのか」を調べる場合は、記音を長2度下へ移します。
| B♭トランペットの記音 | 実音 |
|---|---|
| C | B♭ |
| C♯ | B |
| D♭ | C♭ |
| D | C |
| D♯ | C♯ |
| E♭ | D♭ |
| E | D |
| F | E♭ |
| F♯ | E |
| G♭ | F♭ |
| G | F |
| G♯ | F♯ |
| A♭ | G♭ |
| A | G |
| A♯ | G♯ |
| B♭ | A♭ |
| B | A |
演奏上の高さだけを確認するなら、「トランペットに書かれた音から全音下」と覚える方法がシンプルです。
ただし、楽譜を書き直す場合は音名の綴りにも注意してください。
たとえばD♭を半音2個下げると鍵盤上ではBと同じ位置になりますが、長2度下という音程関係を保って書くならC♭です。
同じようにG♭の長2度下はF♭です。F♭は鍵盤上ではEと同じ高さですが、調性の中ではF♭とEが同じ意味になるとは限りません。
異名同音とは
鍵盤上では同じ高さでも、C♯とD♭、D♯とE♭のように異なる音名で書ける音があります。実際の高さだけでなく、その曲の調や音程関係を表すために音名を使い分けます。
記音Cメジャーは実音B♭メジャー
B♭トランペットで記音Cメジャーの音階を演奏すると、実際にはB♭メジャーとして鳴ります。
記音ではC・D・E・F・G・A・B・Cですが、実音ではB♭・C・D・E♭・F・G・A・B♭です。
「B♭トランペットのCメジャースケールは何調に聞こえる?」と聞かれたら、答えは実音B♭メジャーです。
この関係を理解すると、「B♭トランペット」という楽器名の意味もイメージしやすくなります。
実音から記音への対応表
今度は反対です。
ピアノ、ギター、フルート、歌などの実音と同じ高さをB♭トランペットで鳴らしたいときは、目的の実音より長2度上の音を記譜・演奏します。
| 欲しい実音 | B♭トランペットに書く音 |
|---|---|
| C | D |
| C♯ | D♯ |
| D♭ | E♭ |
| D | E |
| D♯ | E♯ |
| E♭ | F |
| E | F♯ |
| F | G |
| F♯ | G♯ |
| G♭ | A♭ |
| G | A |
| G♯ | A♯ |
| A♭ | B♭ |
| A | B |
| A♯ | B♯ |
| B♭ | C |
| B | C♯ |
たとえば、ピアノのCをB♭トランペットで同じ高さにしたいならDを吹きます。
ピアノのFならトランペットはG、ピアノのGならトランペットはAです。
音を1つずつ移すだけでなく、曲全体を移調する場合は調号も一緒に変えます。
| 実音の調 | B♭トランペット用の記譜調 | 主な調号 |
|---|---|---|
| Cメジャー | Dメジャー | ♯2個 |
| Gメジャー | Aメジャー | ♯3個 |
| Dメジャー | Eメジャー | ♯4個 |
| Aメジャー | Bメジャー | ♯5個 |
| Fメジャー | Gメジャー | ♯1個 |
| B♭メジャー | Cメジャー | 調号なし |
| E♭メジャー | Fメジャー | ♭1個 |
| A♭メジャー | B♭メジャー | ♭2個 |
| D♭メジャー | E♭メジャー | ♭3個 |
実音Cメジャーの曲をB♭トランペット用にするならDメジャーです。Dメジャーの調号はF♯とC♯の2個になります。
実音B♭メジャーなら、B♭トランペット側はCメジャーです。調号はありません。
実音E♭メジャーなら、B♭トランペット側ではFメジャーになり、♭が1個です。
「♯を2個増やす」とだけ覚えない
CメジャーからDメジャーへの移調を見ると、「B♭管にすると♯を2個増やす」と覚えたくなるかもしれません。
しかし、その覚え方だけでは♭系の調で混乱する可能性があります。
基本は実音の調からB♭トランペット用へ長2度上げることです。
五度圏を使う場合は、実音の調からB♭トランペット用の調を求めるときに時計回りへ2つ進める考え方もできます。反対に、B♭トランペット譜から実音の調を求めるなら反時計回りへ2つ戻ります。
最初は表を使い、慣れてきたら長2度や五度圏で関係を考えられるようにするとよいでしょう。
譜面と運指を結び付けるコツ
トランペットの譜読みで大切なのは、「譜面上の音」「運指」「実音」を別々の情報として整理することです。
初心者の場合、まず譜面上の音と運指を直接結び付けます。実音は、他楽器との音合わせや移調が必要な場面で確認すれば十分です。
低いC4からC5までの基本的なCメジャースケールを例にすると、次のような関係になります。
| 記音 | ドレミ | 代表的な運指 | B♭管で鳴る実音 |
|---|---|---|---|
| C4 | ド | 0(開放) | B♭3 |
| D4 | レ | 1+3 | C4 |
| E4 | ミ | 1+2 | D4 |
| F4 | ファ | 1 | E♭4 |
| G4 | ソ | 0(開放) | F4 |
| A4 | ラ | 1+2 | G4 |
| B4 | シ | 2 | A4 |
| C5 | ド | 0(開放) | B♭4 |
0はバルブを何も押さない開放です。1・2・3は、第1・第2・第3バルブを示します。
同じ運指でも音は1つではない
ここで知っておきたいのが、トランペットでは同じ運指から複数の高さの音を出せるということです。
たとえばC4、G4、C5は、いずれも代表的な運指では0、つまり開放です。
バルブを押していないのに違う音が出せるのは、金管楽器が倍音列を利用しているためです。唇の振動や息の使い方によって、同じ管の長さでも異なる倍音を鳴らせます。
そのため「0なら必ずC」「1+2なら必ずE」のように、運指だけで音の高さが完全に決まるわけではありません。
譜面上の高さを確認し、その高さを狙って音を出す必要があります。運指は合っているのに狙った高さにならない場合は、EYS音楽教室などで実際の音を聞いてもらい、息や唇の使い方も含めて確認する方法があります。
バルブの組み合わせを覚えるだけでは、正しい音高を自動的に出せるわけではありません。同じ運指から複数の倍音が出るため、譜面上の音の高さと耳で確認することも大切です。
初心者向けの半音階運指
低いC4からC5までの代表的な運指は次のとおりです。
| 記音 | 代表的な運指 |
|---|---|
| C4 | 0 |
| C♯4/D♭4 | 1+2+3 |
| D4 | 1+3 |
| D♯4/E♭4 | 2+3 |
| E4 | 1+2 |
| F4 | 1 |
| F♯4/G♭4 | 2 |
| G4 | 0 |
| G♯4/A♭4 | 2+3 |
| A4 | 1+2 |
| A♯4/B♭4 | 1 |
| B4 | 2 |
| C5 | 0 |
ただし、トランペットには替え指があります。音域や音程補正の都合で、同じ音に複数の運指が使われる場合があります。
ヤマハ公式のトランペットの運指表でも複数の音に替え指が示されているため、必要に応じて音符の高さまで確認してください。
また、低音域の一部では第3抜差管などを使って音程を補正することもあります。
つまり「この音名なら常にこのバルブだけ覚えれば完璧」というものではありません。初心者の段階では代表的な運指を覚え、必要になったときに音域まで含めた運指表を確認するとよいでしょう。
譜読みで迷ったときの確認順
実際の楽譜で迷ったら、次のように順番を固定すると判断しやすくなります。
- 「Trumpet in B♭」など楽器指定を見る
- ト音記号を確認する
- 調号の♯・♭を確認する
- 拍子とテンポを確認する
- 五線上の位置から記音を読む
- 調号と臨時記号を反映する
- 記音に対応する運指を選ぶ
- B♭トランペット専用譜ならそのまま演奏する
- 実音を知る必要がある場合だけ長2度下へ換算する
「最初から実音を考えない」というのが大きなポイントです。
普段のトランペット譜を読む場面では、記音と運指に集中します。実音は必要になったときだけ別に考える。この分け方ができると、譜読みの負担を減らせます。
ピアノ譜を吹くときの移調
ピアノやギター、フルートなどの一般的な譜面は、基本的に実際に鳴る高さで書かれています。
そのため、ピアノ譜のCを見てB♭トランペットでもCを吹くと、ピアノのCと同じ高さにはなりません。
B♭トランペットの記音Cから鳴る実音はB♭なので、ピアノより長2度低く聞こえます。
原曲と同じ高さで演奏したい場合は、ピアノなどの実音譜を長2度上へ移してB♭トランペットで演奏します。
| ピアノなどの実音 | B♭トランペットで吹く記音 |
|---|---|
| C | D |
| D | E |
| E | F♯ |
| F | G |
| G | A |
| A | B |
| B | C♯ |
Cメジャーのピアノ譜を移調する例
ピアノでCメジャーのメロディーが「C・D・E・F・G」と進んでいるとします。
B♭トランペットで同じ実音を鳴らすなら、それぞれを長2度上げて「D・E・F♯・G・A」とします。
曲全体の調もCメジャーからDメジャーへ変わるため、トランペット側ではF♯とC♯が調号に付きます。
音符だけを動かして調号をそのままにすると、途中の音を間違えやすくなります。曲全体を移調するときは、音符・調号・臨時記号をセットで考えることが重要です。
ピアノ側のト音記号や調号、音符の基本を確認したい場合は、ピアノ楽譜の読み方も合わせて確認すると、元の譜面を読む段階から整理しやすくなります。
ピアノ譜をそのまま吹いてはいけないのか
一人でメロディーを楽しむだけで、原曲と同じ高さである必要がなければ、そのまま音名を読んでB♭トランペットで吹くこと自体はできます。
ただし、全体が原曲より長2度低く鳴ります。
ピアノ伴奏、カラオケ音源、他の実音楽器などと一緒に演奏する場合は、そのままでは調が合いません。同じ高さで合わせたいなら、B♭トランペット側を長2度上へ移調します。
判断の目安
一人で旋律だけ吹くなら、元の譜面をそのまま読む方法でも演奏自体はできます。
他楽器や伴奏と原曲の高さで合わせるなら、B♭トランペット用に長2度上へ移調する必要があります。
移調表を使う場面
移調表は、普段のB♭トランペット専用譜を演奏するたびに見るものではありません。
役立つのは、たとえば次のような場面です。
- ピアノやギターのメロディー譜を原曲と同じ高さで吹くとき
- B♭トランペットのパートから実音を確認するとき
- 合奏でコンサートピッチの音名を指定されたとき
- 他の楽器と音高を合わせて耳コピーするとき
- 簡単な編曲や譜面作成をするとき
「B♭管だからいつでも移調表を見る」のではなく、記音と実音を行き来する必要があるときだけ使うと考えてください。
トランペット譜のよくある質問
Q1. B♭トランペットの楽譜の「ド」は何の音ですか?
A. B♭トランペット用譜面では、記音Cを「ド」として読み、Cの運指で吹きます。ただし実際に鳴る高さはコンサートピッチのB♭です。譜面上ではC、演奏に使う運指もC、実音だけがB♭になると分けて考えるとわかりやすいでしょう。
Q2. B♭トランペットで実音Cを出したいときは何を吹きますか?
A. 記音Dを吹きます。B♭トランペットは記音より実音が長2度低く鳴るため、記音Dを演奏すると実音Cになります。ピアノのCと同じ高さを出したい場合も、B♭トランペット側ではDを演奏します。
Q3. 普通のトランペット教本でも移調表を見ながら吹きますか?
A. 一般的なB♭トランペット用教本なら、通常は必要ありません。譜面に書かれている音名をそのまま読み、その記音に対応した運指で演奏します。移調表が必要になるのは、実音を確認したり、ピアノ譜などからB♭トランペット用に移調したりするときです。
Q4. B♭トランペットの譜面には必ず♭が2個付くのですか?
A. いいえ。B♭という名称は楽器の記音と実音の関係を示しており、曲の調号が常にB♭メジャーになるという意味ではありません。B♭トランペット用の楽譜でも、Cメジャー、Fメジャー、Dメジャーなどさまざまな調が使われます。
Q5. 合奏で「B♭を出して」と言われたら何を吹けばいいですか?
A. 指揮者などが「コンサートB♭」「実音B♭」という意味で指示している場合、B♭トランペットでは記音Cを吹きます。ただし、指示が記音なのか実音なのか曖昧な場合は確認したほうが確実です。
Q6. すべてのトランペットが書かれた音より長2度低く鳴りますか?
A. いいえ。この記事の長2度下という関係はB♭トランペットについてのものです。Cトランペットでは基本的に記音と実音が一致します。ほかの調のトランペットもあるため、譜面の楽器指定を確認してから移調関係を判断してください。
また、運指には替え指があり、音域によって代表的な運指が変わる場合もあります。低音域では抜差管による音程補正が必要になることもあるため、細かな運指や楽器固有の扱いはメーカーが公開している資料などで確認すると確実です。
楽譜作成や複雑な移調で判断できない場合は、音楽理論や楽器に詳しい指導者へ確認してください。正確な仕様や操作方法については、使用している楽器やアプリ、チューナーなどの公式情報も確認することをおすすめします。
まとめ
B♭トランペットの楽譜は、「記音」「運指」「実音」を分けて理解すると一気に整理しやすくなります。
- 一般的なB♭トランペット譜はト音記号で書かれる
- 譜面を見るときは最初に「Trumpet in B♭」などの楽器指定を確認する
- B♭トランペットは記音より実音が長2度低く鳴る
- 記音CをCの運指で吹くと実音B♭が鳴る
- 記音から実音へ換算するときは長2度下げる
- 実音からB♭トランペット用の記音へ換算するときは長2度上げる
- B♭トランペット専用譜は通常すでに移調済みなので毎音を換算する必要はない
- ピアノ譜などを原曲と同じ高さで吹く場合はB♭トランペット側を長2度上へ移調する
- 音だけでなく調号や臨時記号も含めて移調する
- 同じ運指から複数の高さを出せるため、運指だけで音の高さが決まるわけではない
初心者のうちは、演奏しながら実音まで毎回計算する必要はありません。
まずは五線上の音を読む→音名を判断する→対応する運指で吹くという流れを身につけましょう。
そのうえで、ピアノやギターと音を合わせるとき、コンサートピッチを確認するとき、他の楽器の譜面を移調するときに「B♭トランペットは記音より長2度低く鳴る」という原則へ戻れば大丈夫です。
譜面のド、運指のド、実際に聞こえる音を無理に1つの情報として覚えようとせず、それぞれの役割を分けて考えることが、トランペットの楽譜を迷わず読むための近道になります。

