「オカリナはどこの国で生まれた楽器なんだろう?」「昔から土笛はあったはずなのに、なぜイタリア発祥といわれるの?」と疑問に感じることがありますよね。
結論からいうと、現在のオカリナにつながる近代的な楽器は1853年にイタリアで成立しました。発祥地はイタリア北部のブドリオで、ジュゼッペ・ドナーティという人物が陶製の笛を音階楽器として整えたことが大きな転機になっています。
ただし、ここで「それなら1853年より前にはオカリナのような楽器は存在しなかったの?」という疑問が出てきます。
実際には、中空の土製・陶製の胴体に息を吹き込み、内部の空気を共鳴させる容器型の笛は、古代から世界各地に存在していました。中南米、中国、日本などにも、現在のオカリナと共通する原理を持った古い楽器があります。
つまり、オカリナの歴史を理解するときは、「古代から存在した容器型の土笛」と「現在のオカリナへ直接つながる近代オカリナ」の2つを分けて考えることが大切なんですね。
さらに「オカリナ」という名前にも面白い由来があります。これは古代語ではなく、イタリアのボローニャ地方の言葉に由来し、「小さなガチョウ」という意味につながっています。
この記事では、オカリナの発祥国や発祥地、名前の語源、古代の土笛との関係、さらに日本で12穴式が発展していった歴史まで、混同しやすいポイントを分けながらわかりやすく整理します。
- オカリナの発祥国と発祥地
- 「オカリナ」という名前の語源と意味
- 古代の土笛と近代オカリナの違い
- 日本で12穴式オカリナが発展した経緯
オカリナはどこの国の楽器?
「オカリナはどこの国の楽器ですか?」と聞かれた場合、まず答えたいのはイタリアです。
現在一般的にオカリナと呼ばれている楽器の直接的な原型は、19世紀のイタリアで成立しました。そのため、オカリナの発祥国を尋ねる検索に対しては「イタリア」と答えるのが分かりやすく、歴史的な整理としても適切です。
ところが、オカリナの歴史を少し調べると、中国の塤や中南米の古い陶製笛、日本の土笛などが出てきます。そこで「では中国発祥なの?」「南米の楽器なの?」と混乱しやすくなります。
ここで区別したいのは、「容器型の笛という仕組みの歴史」と「オカリナという名称と近代的な楽器体系の歴史」は同じではないということです。
似た原理を持つ笛は世界の複数地域に古くからありました。一方で、「ocarina」という名称で呼ばれ、西洋音楽の音階を演奏できる現在のオカリナへつながる楽器は、19世紀イタリアで整えられています。
この違いを最初に押さえておくと、オカリナの歴史がかなりすっきり見えてきます。
発祥地はイタリアのブドリオ
現在のオカリナにつながる近代オカリナの発祥地は、イタリア北部エミリア=ロマーニャ州、ボローニャ県のブドリオ(Budrio)です。
ブドリオはボローニャ近郊に位置する町で、現在もオカリナの歴史と深く結び付いています。市内にはオカリナと陶製楽器の博物館があり、19世紀中頃に作られた初期のオカリナを含む歴史資料が保存されています。
また、ブドリオでは現在もオカリナが地域文化の一つとして扱われています。国際的なオカリナ関連行事も行われており、イタリア国内だけでなく、日本や韓国、中国、欧米などさまざまな地域から演奏家が集まる文化につながっています。
そのため、ブドリオは単に「昔オカリナが作られた場所」というだけではなく、現在までオカリナ文化とのつながりを保っている町と考えると分かりやすいでしょう。
ただし、「ブドリオが発祥地」という説明には一つ注意点があります。
ブドリオで世界初の土笛が発明されたわけではありません。土や陶器で作られた中空の笛は、それ以前から世界各地に存在していました。ブドリオが発祥地とされるのは、現在のオカリナにつながる名称と楽器の形式が成立した場所だからです。
「オカリナはイタリアの楽器」という説明と、「オカリナに似た古い土笛は世界各地にあった」という説明は、どちらかが間違っているわけではありません。
何を「オカリナの発祥」と呼んでいるのかを分ければ、両方を矛盾なく理解できます。
1853年に生まれた近代オカリナ
近代オカリナの歴史で重要な年が1853年です。
この年、ブドリオでジュゼッペ・ドナーティが、それまでの素朴な陶製の笛を改良し、音階を演奏できる楽器として整えたとされています。
一部の資料では1853~1854年頃という表現が見られることもありますが、ブドリオ市では1853年をオカリナの成立年として扱っています。そのため、歴史を簡潔に説明するときは「1853年、イタリアのブドリオで近代オカリナが成立した」と整理すると理解しやすいです。
初期のブドリオ型オカリナは、10穴式として発展しました。
複数の指穴を開閉することで音高を変えられるため、単に一つの音を鳴らす笛ではなく、西洋音楽の旋律を演奏するための楽器として使えるようになります。
さらにドナーティは、一つのサイズだけではなく、大きさと音域の異なる複数のオカリナを作りました。
小さな楽器は高い音域、大きな楽器はより低い音域を担当できるため、それぞれの音域を組み合わせれば合奏ができます。ここが、近代オカリナの発展を考えるうえでとても重要なところです。
1853年を「オカリナ発祥の年」とするときは、容器型の土笛そのものがこの年に初めて発明されたという意味ではありません。現在の西洋式オカリナへつながる楽器が体系化された年として理解しましょう。
それ以前にも中空の土笛は存在していました。しかし、既存の陶製笛を西洋音楽の旋律や合奏に対応できる形へ整え、一群の楽器として発展させたところに1853年の大きな意味があります。
「オカリナはいつ生まれたの?」と聞かれたら、「現在の近代オカリナなら1853年」と答え、そのあとに「ただし、似た原理の土笛はもっと古くから存在していた」と補足すると、誤解が少なくなります。
発明者ジュゼッペ・ドナーティ
近代オカリナの成立に最も重要な人物が、ジュゼッペ・ドナーティ(Giuseppe Donati)です。
ドナーティは1836年12月2日にブドリオで生まれ、1925年に亡くなっています。
1853年にオカリナを成立させた当時は17歳でした。かなり若い時期の仕事だったことに驚く人もいるかもしれません。
ドナーティは若い頃から音楽に親しみ、クラリネットやピアノ、オルガンなどを演奏していたと伝えられています。ブドリオ市の資料では、友人たちを楽しませるような「音楽的ないたずら」の発想からオカリナが生まれたという趣旨の説明もされています。
ただ、ドナーティの功績を正しく理解するには、「ドナーティが何を発明したのか」を丁寧に分ける必要があります。
ドナーティは、中空の容器に息を吹き込んで音を出すという仕組みそのものを世界で最初に発見した人物ではありません。
同じような仕組みの楽器は、それよりはるか以前から複数の地域に存在しています。
ドナーティの大きな功績は、陶製の容器型笛を西洋音楽の旋律や合奏に使える音階楽器として体系化したことです。
複数の指穴を持つ楽器として整え、異なる大きさや音域を持ったオカリナを作ることで、単純な玩具的な笛から、演奏や合奏に使える楽器へ発展させました。
このため「オカリナの発明者は誰?」という質問には、「近代オカリナの発明者はジュゼッペ・ドナーティ」と答えるのが適切です。
一方で、「ドナーティが世界初の土笛を発明した」と説明してしまうと、古代から存在する容器型笛の歴史と矛盾してしまいます。
人物の功績を大きく見せるために歴史を単純化するのではなく、「何を発明・改良した人物なのか」を分けて考えることが大切ですね。
オカリナという名前の由来
オカリナの発祥国と同じくらい気になるのが、「オカリナという名前は何を意味しているの?」という点ではないでしょうか。
「オカリナ」という響きだけを聞くと、古代文明の言葉や鳥の名前のようにも感じられるかもしれません。
しかし、現在使われている「ocarina」という名称は、近代オカリナが成立したイタリアに由来します。
しかも、その意味は楽器の音ではなく、見た目と関係しています。
語源は「小さなガチョウ」
イタリア語でオカリナはocarinaと表記します。
この名称は、ブドリオを含むボローニャ地方の方言「ucarina」に由来するとされています。
イタリア語で「oca」は「ガチョウ」を意味します。そして「ocarina/ucarina」は、その指小形として「小さなガチョウ」という意味で説明されています。
日本語では「ガチョウの子」「子ガチョウ」と訳されることもあります。意味をつかむうえでは大きな違いではありませんが、語源のニュアンスに沿って理解するなら「小さなガチョウ」と考えるのが分かりやすいでしょう。
ここで誤解しやすいのが、「鳥に関係する言葉なら、鳴き声から名付けられたのでは?」という考え方です。
オカリナという名称は、ガチョウの鳴き声に音色が似ていたから付けられたわけではないと整理されています。
「オカリナ=鳥笛」「オカリナ=小鳥」「ガチョウの鳴き声をまねる楽器」という意味ではありません。名称は、主として伝統的なオカリナの外形と結び付けて説明されています。
また、「オカリナ」という名前が古代から受け継がれてきた言葉だと考えるのも正確ではありません。
古代にはオカリナと似た容器型笛が存在しましたが、現在の名称まで古代から共通していたわけではないからです。
楽器の仕組みの歴史と、名称の歴史を別に考えると、この点も理解しやすくなります。
ガチョウと呼ばれた理由
それでは、なぜ陶製の笛が「小さなガチョウ」と呼ばれるようになったのでしょうか。
伝統的なブドリオ型オカリナを見ると、胴体は丸みを帯びた細長い卵形をしています。そこから吹き口が横方向へ突き出す独特の姿です。
この外形が、ガチョウのような姿を連想させたと説明されています。
ブドリオ市による説明では、楽器全体が「頭のない小さなガチョウ」のように見えることと、名称が結び付けられています。
辞書資料などでは、吹き口部分の形とガチョウの姿を関連付ける説明もあります。
細かな形のどこをガチョウになぞらえるかには説明の違いがあっても、共通しているのは「音ではなく外見から来た名称」という点です。
オカリナを手にしたことがなくても、横から見た伝統的な形を思い浮かべると、名前の由来を覚えやすいかなと思います。
丸みのある胴体と突き出した吹き口は、単なるデザインでもありません。
オカリナは中空の胴体内部の空気全体を利用して音を作る「容器型笛」なので、この独特な胴体そのものが楽器の構造に関係しています。
名前の由来を知ることで、形の意味にも目が向くようになりますね。
オカリナとオカリーナの違い
日本語では「オカリナ」だけでなく、「オカリーナ」という表記を見ることもあります。
初めて見ると、「オカリナとオカリーナは別の楽器なの?」と思うかもしれません。
結論としては、「オカリナ」と「オカリーナ」は基本的に同じ楽器を指します。
どちらもイタリア語の「ocarina」を日本語で表したものです。
一般的な日本語では「オカリナ」という表記が広く定着していますが、メーカーや団体によっては「オカリーナ」という表記が使われています。たとえば、アケタでは「オカリーナ」という表記が採用されています。
そのため、古い資料や製品、団体名などを調べていると両方の表記が出てくることがありますが、表記が違うだけで別系統の楽器という意味ではありません。
原語はイタリア語の「ocarina」です。「オカリナ」と「オカリーナ」のどちらがまったく別の楽器を示す、という関係ではありません。
歴史を調べるときには、この表記の違いを知っておくと検索もしやすくなります。
特に日本のオカリナ史では「オカリーナ」という表記を使う資料もあるため、「別物かもしれない」と除外しないようにすると情報を追いやすいでしょう。
古代の土笛とオカリナの歴史
オカリナについて調べていると、19世紀のイタリアよりはるか以前の遺物が「ocarina」と紹介されていることがあります。
それを見ると、「オカリナは本当は古代の楽器なのでは?」と感じるかもしれません。
ここはオカリナの歴史で最も混同しやすいポイントの一つです。
古代の土笛と近代オカリナには、構造上の共通点があります。一方で、名称、形、音階、文化的な背景、直接的な系譜まで同じとは限りません。
そのため、「似た楽器が昔からあった」という事実と、「現在のオカリナがどこで成立したのか」という問題は分けて考える必要があります。
世界各地にあった容器型の笛
オカリナは管楽器の一種で、より構造的に見ると容器型笛(vessel flute)に分類されます。
一般的な横笛やリコーダーのように細長い管を持つ笛とは異なり、オカリナは閉じた中空の胴体を持っています。
その内部にある空気全体を共鳴させて音を作るのが大きな特徴です。
この「中空の容器を使って音を鳴らす」という仕組みは非常に古く、世界の複数地域で独自に見られます。
中南米に残る古い容器型笛
中南米では、ヨーロッパ人が到来する以前から陶製の容器型笛が作られていました。
現在のコロンビアにあたる地域のタイロナ文化には、1300~1500年頃とされる陶製の楽器が残されており、博物館では「ocarina」や「vessel flute」として分類される例があります。
複数の指穴を持つものも確認されており、見た目や発音原理の一部が現在のオカリナを連想させます。
また、メキシコを含む中米にも、先コロンブス期の陶製笛が残されています。
ただし、これらをそのまま19世紀イタリアのブドリオ型オカリナの直接の祖先と断定することはできません。
中国の塤も同じ容器型笛の仲間
中国には古くから塤(しゅん/xun)と呼ばれる土製の管楽器があります。
塤も卵形や壺形の中空構造を持ち、指穴を開閉しながら音を変える点ではオカリナと似ています。
そのため、オカリナの歴史を調べていると塤が紹介されることがあります。
しかし、塤は中国独自の文化的背景を持つ楽器です。名称、形状、吹奏方法、音階体系などもドナーティが成立させたブドリオ型オカリナとは同一ではありません。
「塤こそオカリナそのもの」と考えるのではなく、同じ容器型笛という大きな仲間の中に、似た原理を持つ別の歴史的楽器が存在すると理解する方が安全です。
日本にも古い土笛がある
日本でも古代の土笛が発見されています。
つまり、土や粘土で中空の器を作り、息を吹き込んで音を鳴らすという発想そのものは、日本を含む複数地域で古くから存在していました。
このことからも、「土製の中空笛そのものをドナーティが1853年に初めて発明した」という説明では歴史を正確に表せません。
一方で、日本の古代土笛がそのままイタリアのオカリナへ技術的に継承されたと確認されているわけでもありません。
世界各地に似た原理の楽器が存在したことと、それぞれが直接つながっていることは別の問題です。
古代の容器型笛は世界各地に存在しましたが、それらすべてを近代オカリナの直接の祖先と断定することはできません。似た発音原理を持つ楽器が、複数の地域に存在したと考えるのが分かりやすいでしょう。
古代の土笛との違い
古代の土笛とドナーティ型オカリナには、似ているところと異なるところがあります。
共通する大きな特徴は、どちらも内部に空洞を持ち、その空気を共鳴させて音を作る容器型の管楽器であることです。
一方で、形、吹き口、指穴の数、音階、音域、演奏の目的、使われてきた文化などは同じではありません。
| 比較する点 | 古代からある容器型笛 | 近代オカリナ |
|---|---|---|
| 歴史 | 世界の複数地域に古くから存在 | 1853年のイタリア・ブドリオで成立 |
| 地域 | 中南米、中国、日本などさまざま | イタリアを中心に発展 |
| 名称 | 地域ごとに異なる | ocarinaという名称で定着 |
| 音楽体系 | 地域や楽器によって異なる | 西洋音楽の旋律や合奏に対応する形へ体系化 |
| 直接の系譜 | 近代オカリナとの直接的な継承を断定できない例もある | ブドリオ型として近代以降のオカリナへつながる |
この比較を見ると、「古い土笛があるのだからイタリア発祥ではない」という考え方が、少し単純すぎることが分かります。
逆に「1853年にオカリナが誕生したのだから、それ以前に似た楽器はなかった」という説明も正確ではありません。
発祥という言葉が、どの範囲を指しているのかが重要なんですね。
現在一般的にオカリナと呼んでいる楽器の歴史を尋ねるなら、1853年のイタリア・ブドリオを起点とするのが分かりやすいです。
一方、「閉じた空洞を利用する土笛の歴史」をたどれば、話は古代の世界各地まで広がります。
「祖先のような容器型笛は古代から存在したが、現在の名称と楽器体系を持つオカリナは19世紀イタリアで成立した」。この一文で整理すると、2つの歴史を混同しにくくなります。
なお、伝統的なオカリナには陶器製が多いものの、現代ではプラスチック、木、金属など、異なる素材で作られた製品も存在します。
そのため、「土や陶器で作られていなければオカリナではない」と材質だけで定義することもできません。
オカリナらしさを考えるときは、素材だけでなく、容器型の共鳴構造や楽器としての形式も見ていく必要があります。
ブドリオから世界へ広がった歴史
1853年にブドリオで形を整えられたオカリナは、その町だけで使われ続けたわけではありません。
ドナーティが複数の音域を担当できるオカリナを作り、演奏団体が活動するようになったことで、オカリナは合奏楽器としても発展していきます。
さらに製作者と演奏者の活動によって、19世紀後半にはブドリオの外へ広がっていきました。
合奏楽器として発展したオカリナ
ドナーティの重要な仕事の一つが、大きさの異なるオカリナを製作したことです。
一つの楽器だけで考えるのではなく、それぞれ異なる音域を担当する複数のオカリナを組み合わせることで、合奏が可能になります。
これはオカリナを単なる玩具的な土笛から、複数人で音楽を演奏できる楽器へ発展させるうえで大きな意味を持ちました。
1860年代になると、ブドリオではオカリナ合奏団が形成されます。
結成年については、1863年とする資料と1864年とする資料があり、表記に差があります。そのため、無理にどちらか一方だけを正解とするより、「1860年代前半に最初期のグループが形成された」と理解するのが安全です。
こうしたグループはヨーロッパ各地へ演奏旅行を行い、オカリナの存在を広めていきました。
演奏されたのは単純な民謡だけではなく、オペラの有名曲などを編曲したものも含まれていたとされています。
小さな陶製の楽器が複数集まり、役割の違う音域を担当しながら音楽を組み立てる。こうした演奏活動を通して、「オカリナでも本格的な合奏ができる」という印象が広がっていったと考えると、歴史の流れがつかみやすいですね。
19世紀後半には、ブドリオ以外でもオカリナの製作が広がりました。
初期の代表的な製作者には、ジュゼッペ・ドナーティのほか、チェーザレ・ヴィチネッリやアルベルト・メッツェッティなどがいます。
ヴィチネッリは20世紀初頭の優れた製作者として知られ、ブドリオの博物館では「オカリナのストラディバリ」と評される人物として紹介されています。
メッツェッティはブドリオ出身で、ロンドンでも活動しました。こうした製作者たちの存在からも、ブドリオで生まれたオカリナが国外へ広がっていったことが分かります。
演奏者だけでなく、楽器を作る人が別の地域へ移動したり、新たな製作文化が生まれたりすることで、オカリナはヨーロッパ各地へ浸透していきました。
オカリナが広まった背景には、楽器そのものの発明だけでなく、音域の異なる楽器を整えたこと、合奏団が活動したこと、製作者が各地で楽器を作ったことという複数の要素があります。
つまり、1853年は完成して終わりではなく、そこからオカリナ文化が展開していく出発点だったと考えることができます。
日本に伝わったオカリナ
イタリアで成立し、ヨーロッパへ広がったオカリナは、やがて日本にも伝わります。
日本のオカリナ史を見ると、「輸入された楽器をそのまま使った」というだけではありません。
日本国内で研究と改良が進められ、現在広く使われている12穴式の発展に重要な役割を果たしました。
この部分では、近代オカリナを生み出したドナーティと、日本で12穴式を発展させた明田川孝の役割を混同しないことがポイントです。
明田川孝と12穴式オカリナ
オカリナは、明治時代には日本へ入っていたことが確認されています。
ただし、「日本へ最初に持ち込まれた正確な年」や「最初に持ち込んだ人物」については、今回の歴史整理で一つの年や人物に断定できる情報は確認できません。
分からない部分を推測で埋めるより、「明治期には日本へ伝わっていたことが確認されている」とするのが適切です。
その後、日本のオカリナ文化で非常に重要な人物となるのが明田川孝(あけたがわ たかし)です。
明田川孝は1909年生まれで、新潟県出身。彫刻家、音楽研究家、オカリナ製作者として活動し、「日本のオカリーナの父」と呼ばれています。生涯と業績については明田川オカリーナ&アート記念館の明田川孝紹介でも確認できます。
少年期から土笛やオカリナに関心を持ち、1928年に本格的なオカリナの製作・研究を開始しました。
そして1948年、完全な半音階演奏に対応する12穴式オカリナを完成させたと、関連する公式資料で説明されています。
ここで特に注意したいのが、1928年と1948年の違いです。
1928年は明田川孝が本格的な製作・研究を始めた年で、12穴式の完成は1948年です。1928年を12穴式の完成年とする説明とは分けて確認する必要があります。
この20年の違いを知らないと、日本のオカリナ史の年表が大きくずれてしまいます。
さらに1950年には、12穴式に関連する実用新案を取得したとされています。
1952年からは、プリマ楽器が明田川孝の製作するオカリナの取り扱いを開始しました。プリマ楽器が公開するアケタオカリーナの歴史でも、1928年の研究開始、1948年の12穴式完成、その後の歩みが紹介されています。
その後も製作技術が受け継がれ、日本で12穴式オカリナが定着していきます。
10穴式と12穴式は歴史上の役割が異なる
ドナーティ型の代表的なオカリナは、10穴式として発展しました。
それに対して、明田川孝が日本で完成させた12穴式では指穴が追加され、10穴式より低い音を含む音域を扱いやすくし、完全な半音階演奏に対応する現代的な形へ発展しています。
現在、12穴式の横型オカリナは世界でも代表的な形式の一つとなっています。
そのため、「12穴式が日本で発展した」という事実から、「オカリナそのものが日本発祥」と誤解しないよう注意しましょう。
日本が重要な役割を果たしたのは、近代オカリナ成立後の12穴式への改良と発展です。
| 人物 | 主な役割 | 重要な年代 |
|---|---|---|
| ジュゼッペ・ドナーティ | 近代オカリナをイタリアで成立させる | 1853年 |
| 明田川孝 | 日本でオカリナを研究し12穴式を完成 | 1928年研究開始、1948年完成 |
この二人の仕事はどちらもオカリナ史にとって重要ですが、同じ功績ではありません。
「ドナーティ=近代オカリナの成立」「明田川孝=12穴式の発展」と役割を分けると覚えやすいですよ。
宗次郎と日本での認知拡大
日本でオカリナという楽器の名前や音色を一般層へ広く知られるようにした演奏家として、宗次郎も重要な存在です。
オカリナの歴史では、発明者、改良者、演奏を通じた普及者が同じ人物として語られてしまうことがあります。
しかし、それぞれの役割は分けて考えた方が歴史を正確に理解できます。
ジュゼッペ・ドナーティは、1853年にイタリアのブドリオで近代オカリナを成立させた人物です。
明田川孝は、日本でオカリナの研究・製作を進め、1948年に12穴式を完成させた人物として重要です。
一方、宗次郎はオカリナそのものや12穴式を発明した人物ではありません。
演奏活動を通して、ソロ楽器としてのオカリナの存在や音色を日本の多くの人へ広めた人物として位置付けると、三者の役割が整理できます。
ドナーティは「近代オカリナの成立」、明田川孝は「12穴式への発展」、宗次郎は「日本での認知拡大」。この3つを分けると、日本を含めたオカリナの歴史を混同しにくくなります。
オカリナの歴史を大きな流れで見ると、古代から世界各地に容器型笛が存在し、1853年にイタリアで近代オカリナが成立。その後ヨーロッパへ広がり、日本にも伝来し、20世紀には12穴式への改良が進んだことになります。
| 時期・年 | 主な出来事 |
|---|---|
| 古代 | 世界各地に陶製・土製の容器型笛が存在 |
| 先コロンブス期 | 中南米で陶製の容器型笛が作られる |
| 1853年 | イタリア・ブドリオでドナーティが近代オカリナを成立させる |
| 1860年代 | ブドリオでオカリナ合奏団が活動し、ヨーロッパへ普及 |
| 19世紀後半 | イタリア国外でも製作・演奏が広がる |
| 明治時代 | 日本にもオカリナが伝わっていたことが確認されている |
| 1928年 | 明田川孝がオカリナの本格的な製作・研究を開始 |
| 1948年 | 明田川孝が12穴式オカリナを完成 |
| 1950年 | 12穴式に関連する実用新案を取得したとされる |
| 1952年 | プリマ楽器が明田川孝製作のオカリナの取り扱いを開始 |
こうして時系列で見ると、オカリナは一人の人物が一度に現在の形まで完成させた楽器ではないことが分かります。
古い容器型笛という長い歴史があり、19世紀のイタリアで近代的な楽器として体系化され、その後各国の製作者や演奏者によって発展してきました。
現在見慣れている12穴式にも、日本で積み重ねられた研究と改良の歴史があります。
楽器の形だけを見ると小さくシンプルですが、その背景には複数の国と時代、人々の仕事が重なっているんですね。
まとめ
オカリナの歴史について最初に覚えておきたいのは、現在のオカリナの発祥国はイタリア、発祥地はブドリオという点です。
1853年、当時17歳だったジュゼッペ・ドナーティが、陶製の笛を西洋音楽の音階や合奏に使える楽器として整え、現在のオカリナへつながる近代オカリナを成立させました。
そして「ocarina」という名称もイタリアに由来します。
ボローニャ地方の方言「ucarina」と結び付けられ、イタリア語でガチョウを意味する「oca」から、「小さなガチョウ」という意味で説明されています。
名前の理由は鳴き声ではなく、伝統的なオカリナの丸みを帯びた外形が小さなガチョウの姿を連想させたためです。
一方で、土や陶器を使った容器型の笛そのものは、1853年よりはるか以前から存在しています。
中南米には先コロンブス期の陶製容器型笛があり、中国には塤、日本にも古代の土笛があります。
そのため、「オカリナはイタリア発祥」と「オカリナに似た笛は古代から存在した」という2つの説明は矛盾しません。
古代から存在したのは似た原理を持つ容器型笛で、現在の名称と西洋音楽用の楽器体系につながる近代オカリナが成立したのが19世紀のイタリアと分ければ理解できます。
その後、オカリナはブドリオの合奏団や製作者を通じてヨーロッパへ広がり、日本にも明治時代には伝わっていました。
日本では明田川孝が1928年に本格的な製作・研究を開始し、1948年に12穴式オカリナを完成。近代オカリナそのものを発明したわけではありませんが、現在につながる12穴式の発展に大きな役割を果たしました。
さらに宗次郎などの演奏活動によって、日本でもオカリナという楽器とその音色が広く知られるようになりました。
歴史を簡潔に整理すると、「古代の容器型笛」「1853年のイタリアでの近代オカリナ成立」「日本での12穴式への発展」という3段階で考えると分かりやすいでしょう。
オカリナは小さく素朴に見える楽器ですが、その背景には古代から現代まで続く容器型笛の文化と、イタリアや日本を含む各地での改良・普及の歴史があります。
由来を知ったあとにオカリナの丸い胴体や指穴を見ると、単なる形の違いではなく、長い歴史の積み重ねとして見えてくるかもしれません。

