定年後の新しい趣味としてサックスを検討されている方や、アルトサックスからステップアップを考えている方にとって、一番の懸念点はテナーサックスの重さではないでしょうか。首や肩への負担、持ち運びの大変さを考えると、なかなか一歩が踏み出せないという声もよく耳にします。
テナーサックスはアルトと比較してもサイズが大きく、数値以上の重量感があるのは事実です。この記事では、これからテナーを楽しみたいと考えている皆さんの不安を解消するために、モデルごとの重さの違いや、首ストラップ以外の便利な補助アイテム、さらにはケースを含めた総重量の目安まで詳しく解説していきます。
体の負担を最小限に抑えながら、テナーサックスの深みのある音色を楽しむコツを一緒に見ていきましょう。
- 主要メーカーや人気モデルごとの具体的な本体重量の目安
- アルトサックスから持ち替えた際に感じる体感重量の差
- 首や肩の痛みを防ぐための最新ストラップや便利グッズ
- ケースを含めた持ち運び時の重さと移動を楽にする方法
テナーサックスの重さと主要モデル別の重量傾向

テナーサックスを趣味にするなら、まずは「自分の体が支えられる重さなのか」を把握しておくことが大切ですね。メーカーや材質によって、手に持った時の感覚は驚くほど変わります。
アルトサックスとの比較で知る重量差
テナーサックスへの転向や、これからサックスを始めようとする方が最初に直面する壁が、アルトサックスとの圧倒的な「サイズ感と重さの違い」です。一般的にアルトサックスの本体重量は約2.2kg〜2.5kg程度ですが、テナーサックスになると約3.2kg〜3.8kgまで増加します。数値上は1kg程度の差に思えますが、「たかが1kg」と侮ることはできません。
モーメントの法則で増大する首への負担

テナーサックスは管体が長い分、重心が体から遠い位置にあります。物理学的な「モーメント(回転力)」の観点から言えば、重心が数センチ遠ざかるだけで、支点となる首にかかる荷重は数倍に跳ね上がります。実際にストラップで吊るしてみると、アルトに比べて1.5倍から2倍近く重く感じられるのはこのためですね。私自身の経験でも、アルトの感覚でテナーを構えると、あまりの「ずっしり感」に背筋が伸びる思いがしたのを覚えています。
| サックスの種類 | 本体重量の目安 | 体感的な特徴・補足 |
|---|---|---|
| ソプラノサックス | 約1.2kg〜1.5kg | 首への負担は少ないですが、指の操作が細かく、腕の筋肉を使います |
| アルトサックス | 約2.2kg〜2.5kg | サックスの標準。長時間の練習でも比較的身体への負担が穏やかです |
| テナーサックス | 約3.2kg〜3.8kg | 重さ対策が必須。シニア層や小柄な方は、補助器具の活用が上達の近道です |
| バリトンサックス | 約6.0kg〜7.0kg | もはや「吊る」のは限界。専用スタンドや全身ハーネスが必須の別格サイズです |
この重量差を理解せずに無理をすると、頸椎や腰を痛める原因にもなりかねません。テナーを選ぶ際は、楽器の性能と同じくらい「どうすれば楽に支えられるか」をセットで考えるのが大人の嗜みかなと思います。
ヤマハの主要モデルに見る本体重量の違い

日本が世界に誇るヤマハ(YAMAHA)のテナーサックスは、緻密な設計により、他メーカーの同重量モデルと比べても「重心バランスが良く、軽く感じる」という不思議な魅力があります。人間工学に基づいたキー配置が、持ちやすさに直結しているのでしょうね。
初心者・中級者向けモデル(YTS-380 / 480 / 62)
エントリーモデルである「YTS-380」や「YTS-480」は、約3.2kg〜3.3kgと、現行テナーの中で最軽量クラスです。不要な装飾やパーツを極限まで削ぎ落とし、管体そのものを鳴らしやすく設計しているため、これから肺活量を鍛えていこうというシニア世代にも非常に優しい楽器です。また、ベストセラーの「YTS-62」も約3.3kg〜3.4kgと標準的で、プロ志向の音色を持ちながらも、扱いやすさを犠牲にしない絶妙な重量設定になっています。
カスタムモデル(YTS-82Z / 875EX)
一方、最高峰の「カスタムモデル」になると、音の遠達性や重厚感を出すために支柱の数を増やしたり、金属パーツをより強固なものに変更したりするため、重量は約3.4kg〜3.5kgへとわずかにアップします。それでも、ヤマハの設計思想は一貫して「奏者の負担軽減」に重きを置いているため、重すぎて制御不能になるようなことはまずありません。段階を追って無理なくステップアップできるのがヤマハの強みですね。
ヤナギサワの軽量モデルとブロンズの差

サックス専門メーカーとして世界中から尊敬を集めるヤナギサワ(YANAGISAWA)は、「管体の材質」によって重量を明確に使い分けています。自分のプレイスタイルや体力に合わせて、最適な重さを選べるのが嬉しいポイントです。
軽快な操作性の「ライトタイプ(WO1 / WO2)」
真鍮製の「T-WO1」や、ブロンズ製ながら軽量設計の「T-WO2」は、約3.2kg〜3.3kg程度。管体の肉厚をあえて薄くし、支柱の配置を工夫することで、レスポンスの速さを追求しています。軽い息でパッと音が立ち上がる感覚は、体力温存を重視したいセカンドライフ奏者にとって大きな味方になるでしょう。
重厚な響きの「ヘヴィタイプ(WO10 / WO20)」
対照的に、プロ奏者が愛用する「ヘヴィタイプ」は約3.4kg〜3.6kg程度まで重量が増します。特に銅の含有率が高いブロンズブラスを使用した「T-WO20」などは、金属自体の密度が高いため、ずっしりとした手応えがあります。その分、ホール全体を包み込むような豊かな響きが得られますが、「音の深み」と「身体の持久力」のバランスをどう取るかが、選定時の大きなテーマになります。
セルマーの重厚な管体が生む重量感

「いつかはセルマー」と囁かれる憧れのブランド、H.セルマー(H.Selmer)。その音色の魅力の源泉は、実は他メーカーを圧倒する「金属の密度」と、それに伴う「重さ」にあります。
現行の主力である「シリーズII」や「シリーズIII」、そして最新のフラッグシップ「シュプレーム(Supreme)」などは、約3.5kg〜3.7kg前後の個体が多く、テナーサックス界でも重量級に属します。セルマーの楽器は、職人の手仕事による鍛造工程が多く、金属の組織が緻密に詰まっているため、同じサイズでも「身が詰まっている」ような重量感があるのです。この重さが、どんなに吹き込んでも音が痩せない、あの艶やかでリッチな「セルマー・サウンド」を生み出します。しかし、初心者がいきなりこの重量に挑むと、翌日にひどい首・肩の凝りに見舞われることも珍しくありません。まさに、素晴らしい音色を手に入れるための「試練」としての重みと言えるかもしれません。
素材や支柱構造が音色に与える影響

サックスの重さは、単に持ち運びやすさを左右するだけではありません。実は「音のキャラクター」を決定づける非常に重要な物理的要因なのです。メーカーがどこに重り(パーツ)を配置しているかを知ると、楽器選びがもっと楽しくなりますよ。
軽量なテナーがもたらす「反応の良さ」
管体が軽い楽器は、吹き込んだ息に対して金属が即座に反応し、震え始めます。これを「レスポンスが良い」と表現します。
重量感のあるテナーがもたらす「音の芯」
重い楽器は、管体を共鳴させるためにそれなりのエネルギー(息のスピードと圧力)を必要としますが、一度鳴り始めると圧倒的な「安定感」を発揮します。
- 大音量で吹いても音が割れにくい
- 音が遠くまで太く届く(遠達性)
- ダークで渋みのある、いわゆる「ジャズのヴィンテージトーン」に近い響きが得られる
重さは決して克服すべき障害ではなく、自分が目指す音を実現するための「重要な道具の一部」なのです。自分の体力と、出したい音のイメージを照らし合わせながら、納得の一本を見つけていきましょう。
次回の練習では、ぜひ愛機の支柱の数や管体の厚みをじっくり観察してみてください。その重みの中に、メーカーのこだわりが詰まっていることに気づくはずです。正確な重量やスペックについては、ヤマハやヤナギサワ、セルマーといった各メーカーの公式カタログも併せて参照してみてくださいね。
今の内容で気になる部分はありますか?もっと具体的な対策について知りたい、あるいは別の箇所を深掘りしたいなど、ご要望があれば何なりとお申し付けください。
テナーサックスの重さによる身体負担と解決策

せっかく始めた趣味で体を壊しては元も子もありません。テナーサックス特有の「重さ」と上手に、そして誠実に向き合っていくための具体的な解決策を、私の経験を交えて深掘りしていきましょう。
長時間演奏で首や肩が痛い時の対策
テナーサックスを吹いていると、どうしても首の後ろから肩甲骨、さらには腰にかけて疲れが蓄積しがちです。特に65歳を過ぎると、筋力の衰えだけでなく頸椎への負担が蓄積し、深刻な凝りや痛みを引き起こすこともあります。これらを防ぐには、何よりも「身体を楽器に合わせるのではなく、楽器を適切な位置に持ってくる」意識が重要です。
インターバル練習のすすめ
私のおすすめは、タイマーを使った「インターバル練習」です。例えば20分練習したら、必ず5分間は楽器をスタンドに置き、完全に身体から解放してあげましょう。この5分間に、首をゆっくり回したり、肩甲骨を寄せるようなストレッチをしたりするだけで、筋肉の緊張がリセットされ、翌日の疲れ方が劇的に変わります。無理をして1時間吹き続けるよりも、休憩を挟んだ方が集中力も維持できますよ。
練習環境の「高さ」を見直す
また、意外と見落としがちなのが譜面台の高さです。譜面台が低すぎると無意識に前屈みの姿勢(猫背)になり、首にかかる重量負担が数倍に増えてしまいます。顎が下がらない程度の高さに譜面をセットし、背筋をスッと伸ばした状態で、楽器の重さを骨盤や背骨全体で支えるイメージを持つことが、痛みを出さないための第一歩かなと思います。
負担軽減に効果的なストラップの選び方

初心者の方が陥りがちなのが、楽器購入時に付属していた細いナイロン製のストラップを使い続けることです。残念ながら、あの細さで約3.5kgのテナーを支えるのは、首に細い針金を食い込ませているようなもので、非常に負担が大きいです。
現在、楽器店には多種多様なストラップが並んでいますが、キーワードは「面分散」と「クッション性」です。首にあたる部分が幅広く設計されており、中に厚手のネオプレン素材や、高級なラムスキン(羊革)のパッドが入っているものを選びましょう。これにより、重さが首の一点に集中せず、肩周辺まで広く分散されます。たった数千円の投資で「テナーってこんなに軽かったっけ?」と感じるほどの変化があるはずです。ただし、首にかけるタイプである以上、喉の圧迫感は少なからず残るため、呼吸のしやすさも考慮して選ぶのがコツですね。
サックスホルダーやハーネスでの分散

「首ストラップではどうしても限界がある」と感じているシニア世代の奏者にとって、今や救世主とも言えるのが、荷重を肩や背中へ完全に逃がす補助アイテムです。これらは、もはや「ストラップ」というよりは「装着具」に近い感覚ですね。
| タイプ | 特徴とメリット | こんな方におすすめ |
|---|---|---|
| ハーネス型 | 両肩と背中全体で支える。首への負担がゼロになる | 立奏がメインの方、首に持病がある方 |
| サックスホルダー | 肩甲骨と腹部で支える。首を全く圧迫しない | 呼吸の深さを重視する方、身体を自由に動かしたい方 |
| バードストラップ | V字プレートで喉元の圧迫を解消する | 首の負担を減らしつつ、スマートな見た目を好む方 |
特に「ブレステイキング」などのサックスホルダーは、装着感に慣れが必要ですが、使いこなせれば驚くほど演奏が楽になります。「重さが消えたようだ」と表現する方もいるほどです。自分の身体を守り、10年後、20年後もテナーを吹き続けるための「未来への投資」として、ぜひ検討してみてください。
ケースを含めた持ち運び時の総重量

見落としがちなのが、自宅から練習場所やスタジオまでの「移動」です。テナーサックス本体が約3.5kg、そこに頑丈な純正ハードケース(約3.5kg〜4.5kg)を合わせると、総重量は簡単に7kgを超え、楽譜やアクセサリーを入れると8kg近くになります。この重量を片手で下げて階段を上り下りするのは、腰痛のリスクを伴う重労働です。
軽量ケース選びと移動時の注意点
移動の負担を減らす最も確実な方法は、ケースを「リュックタイプ(セミハード)」に変更することです。背負うことで両肩に均等に重さがかかり、両手も空くため安全性が格段に高まります。最近では、カーボンファイバーを使用した1.5kg程度の超軽量セミハードケースも登場しており、純正ハードケースから買い替えるだけで、移動時の総重量を2kg以上削減できることもあります。
移動時のトラブルを防ぐ豆知識
- ファスナーの確認:背負うタイプはファスナーの閉め忘れが落下事故に直結します。必ず目視で確認を。
- 雨対策:軽量ケースは防水性に欠ける場合が多いです。専用のレインカバーを常備しておくと安心ですよ。
- 衝撃への配慮:いくら軽量とはいえ、中身は精密機械です。公共交通機関では足元に置き、振動や接触から守りましょう。
初心者が試奏で確認すべき重量バランス

楽器店で憧れのモデルを試奏する際は、つい音色の良し悪しだけに集中してしまいがちですが、シニアの楽器選びでは「身体との相性」も同じくらい重要です。特に確認してほしいのが、構えた時の「重心の位置」です。
同じ重さのテナーでも、キーの配置や指かけ(サムレスト)の位置が数ミリ違うだけで、右手の親指にかかる負担が大きく変わります。試奏の際は、必ず普段使いの(または購入予定の)パッド付きストラップを持参しましょう。5分、10分と吹き続けていくうちに、どこか一箇所に重みが集中して痛くなってこないか、自分の指の長さで無理なくキーに手が届くかを冷静にチェックしてください。もし「重いけれど音が好き」という楽器に出会ったら、その時こそ店員さんに「これを楽に支えられるハーネスはありませんか?」と相談してみるのが正解です。
自分に合うテナーサックスの重さを選ぶコツ

最後になりますが、自分にぴったりのテナーサックスの重さを見極める最大のコツは、今の自分の体力に対して「少しだけ余裕を持つ」ことです。無理をして重厚なプロ仕様モデルを手に入れ、その重さが原因で練習が億劫になってしまっては、せっかくの趣味が続きません。
まずは自分が心地よく、30分程度は笑顔で構えていられる重量のモデルを基準にしてみてください。そして、「もっと太い音が出したい」という欲求が出てきたら、楽器を重くする前に、マウスピースのセッティングを変えたり、前述した補助具を導入したりして解決を図るのが、スマートな大人の楽しみ方かなと思います。正確な仕様や数値については、公式サイトのカタログを読み込んだり、実際に楽器店で手に持ってみたりして、納得のいく「相棒」を見つけてくださいね。あなたのサックスライフが、健やかで素晴らしいものになるよう応援しています。



