サックスを始める年齢に60代は遅い？定年後の趣味に推す理由

定年を迎え、ふと「何か新しい趣味を持ちたい」と考えたとき、テレビやジャズバーで目にする、黄金色に輝くサックスが頭に浮かぶ方は多いものです。あの哀愁漂う音色や、力強いブロウ。自分で奏でられたらどんなに素敵だろうと憧れますよね。

しかし、いざ挑戦しようとすると「今からサックスを始める年齢として、60代は遅すぎるのではないか」「肺活量も落ちている私に、あんな大きな楽器が吹けるのだろうか」といった不安が壁となって立ちはだかります。私自身も、実際に始めるまでは「管楽器は学生時代にブラバンをやっていた人が続けるもの」だと思い込んでいました。

けれど、勇気を出して調べてみると、それは大きな誤解だと気づかされました。むしろ、経験や知識が豊富な今だからこそ、技術にとらわれず奥深い音色を楽しみ、自分のペースで向き合えるのがサックスという楽器です。人生の第2章を彩る相棒として、これほど適した楽器はありません。

• 60代から始めてもサックスが十分に上達できる具体的な理由
• 肺活量や体力が心配でも無理なく演奏を楽しむためのコツと呼吸法
• 自分のライフスタイルや予算に合った練習方法・教室の賢い選び方
• 年齢を気にせず、一生の趣味として長く続けるためのマインドセット

サックスを始める年齢に遅すぎるということはない

「若い頃からやっていないと無理だ」と、始める前から諦めてしまうのは本当にもったいないことです。実は、サックスは数ある楽器の中でも音が出しやすく、指使いもリコーダーに似ていて覚えやすいため、シニア世代の新たな趣味として非常に人気が高まっています。ここでは、なぜ今からでも遅くないのか、その理由を私の実体験や周囲の仲間の様子を交えてお話しします。

60代からでも遅くない理由と楽器の魅力

サックスという楽器を間近で見たことがありますか？黄金色に輝く管体、複雑に組み合わされたキーやメカニズム。「こんな精密機械みたいな楽器、機械音痴の私には無理だわ」と、見た目だけで怖気づいてしまう方も少なくありません。しかし、声を大にしてお伝えしたいのは、「サックスこそ、楽器未経験のシニアに最も優しい管楽器である」という事実です。

他の管楽器と比べてみましょう。例えばフルートは、ビール瓶の口を吹いて音を出すような原理ですが、唇の角度が数ミリずれるだけで音がスカスカになってしまいます。トランペットに至っては、唇自体をブルブルと振動させなければならず、まともな音が出るまでに数ヶ月かかることもザラです。

一方、サックスは違います。「リード」という植物（葦）でできた薄い板が、息を吹き込むだけで勝手に振動して音を作ってくれます。極端な言い方をすれば、「咥えて、息を入れる」という単純動作だけで、初日から誰でも『プー』と大きな音が出せるのです。この「最初の一歩」のハードルの低さが、挫折せずに続けられる最大の理由です。

そして何より、私たち60代だからこそ表現できる「味」があります。若い学生さんのような、指がパラパラと動く超絶技巧は必要ありません。人生の酸いも甘いも噛み分けたこの世代には、「サブトーン」と呼ばれる、あえて息の音を混ぜた、掠れたような渋い音色が驚くほど似合います。ムード歌謡やジャズのバラードを、このサブトーンでゆったりと吹く。技術よりも「心」や「人生経験」が音色に乗る、それが大人の趣味サックスの真骨頂なのです。

定年後の趣味として始めるメリットとは

現役時代、私たちは常に「効率」や「結果」を求められ、時間に追われて生きてきました。しかし、定年後の時間は、すべて自分の心の満足のために使っていいのです。サックスを始めることは、単なる暇つぶし以上の、人生の質（QOL）を劇的に高めるメリットをもたらしてくれます。

まず、生活に鮮やかな「彩り」と「リズム」が生まれます。「来週の教室までにここを吹けるようにしよう」「天気がいいから河川敷で練習しようか」――そんな小さな目標や予定が入るだけで、何気ない日常がワクワクするものに変わります。昨日の自分よりも少しだけ上手くなったと感じる「自己成長の喜び」は、何歳になっても心を若々しく保つ特効薬です。

さらに、医学的な見地からも、楽器演奏は「脳のアンチエイジング」として最強のトレーニングだと注目されています。サックスを演奏する時、私たちの脳内では驚くべき処理が行われています。

• 視覚：楽譜の音符や記号を目で追う
• 聴覚：自分の出した音程や音色をリアルタイムで聴き分ける
• 運動：両手の指を別々に、かつ複雑に動かす
• 呼吸：腹式呼吸で息のスピードをコントロールする

これら全てを同時に処理することは、脳の広範囲を活性化させます。実際、趣味や社会活動を持つ高齢者は生きがいを感じやすく、健康寿命が長いという傾向も報告されています（出典：内閣府『高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査』）。楽しみながら認知症予防ができ、心肺機能も鍛えられる。まさに、これからの人生を健康に楽しむためのパートナーとして、サックスは最適解と言えるでしょう。

肺活量や体力に自信がなくても大丈夫？

「サックス奏者＝肺活量お化け」というイメージをお持ちではありませんか？テレビで見るプロ奏者が、顔を真っ赤にして長いフレーズを吹いている姿を見ると、そう思うのも無理はありません。しかし、これは「全力疾走しているアスリート」を見ているようなもの。私たちが趣味としてジョギングを楽しむのに、オリンピック選手のような心肺機能が必要ないのと同じです。

趣味でサックスを楽しむために必要なのは、大量の息（肺活量）ではなく、「息の圧力のコントロール」です。太いパイプに大量の水を流すのではなく、「細いホースの先をつまんで、水を勢いよく飛ばす」イメージを持ってください。実は、効率よく音が出せるようになると、日常会話をするのと変わらないくらいの息の量で演奏できるようになります。

このコントロールの要となるのが「腹式呼吸」です。お腹の周りの筋肉を使って横隔膜を支える呼吸法ですが、これはヨガや座禅と同じく、自律神経を整える効果があります。深い呼吸を繰り返すことで、演奏しながらリラックス効果も得られるのです。

「体力がないから…」と心配される女性の方も多いですが、私の音楽仲間には、70代で小柄な女性の方も大勢いらっしゃいます。力任せに吹くのではなく、楽器の響きを上手く利用すれば、体力に自信がなくても豊かで大きな音は十分に出せます。

楽譜が読めない初心者でも上達できる？

「学校の音楽の授業が大の苦手だった」「オタマジャクシ（音符）を見るとアレルギー反応が出る」という方は非常に多いです。安心してください、私も最初はト音記号の「ド」の位置さえ怪しいレベルでした。それでもサックスは吹けるようになります。

その最大の理由は、サックスが「単音楽器」だからです。ピアノのように「右手でメロディ、左手で伴奏、足でペダル」といった聖徳太子のようなマルチタスクは不要です。「今の音はこの指！」と、一つずつ順番に追いかけていけば必ず曲になります。

また、サックスの指使い（運指）は、誰もが子供の頃に吹いた「リコーダー（縦笛）」と9割方同じです。「左手の指を全部塞げば『ソ』の音」。この感覚がそのまま使えます。体が覚えている記憶というのは凄いもので、楽器を持ってみると「あ、なんとなく指が動く！」という体験をされる方が多いのです。

最近では、「ドレミ」がカタカナですべて書いてあるシニア向けの楽譜も書店に溢れていますし、YouTubeでは楽譜を使わずに、画面に流れてくるバーに合わせて指を動かすだけの「ゲーム感覚の練習動画」も人気です。「楽譜が読めるようになってから楽器を買う」のではなく、「楽器を触って音を出しているうちに、記号の意味が後から分かってくる」というのが正解です。まずは理屈抜きで、音を出す楽しさを味わってみてください。

何歳まで吹ける？年齢による限界の真実

「せっかく安くない楽器を買っても、数年で吹けなくなったらもったいない…」と考えるのは当然です。しかし、サックスという楽器は、道具の進化と工夫次第で、文字通り「一生涯の友」として付き合っていける楽器です。

世界を見渡せば、80代、90代でも現役でステージに立つジャズ界のレジェンドたちがいますし、日本のアマチュアサークルでも、80歳を超えて元気に発表会に出ている方は珍しくありません。

もちろん、加齢とともに「重たい楽器を首から下げるのが辛い」「歯が弱くなって不安」という悩みは出てくるでしょう。しかし、現代にはそれを解決する便利なグッズがたくさんあります。

• ハーネス型ストラップ: 首一点ではなく、両肩と背中全体で楽器の重さを分散させるベルト。着用すると、楽器の重さが半分以下に感じられます。
• サックスホルダー: お腹と肩で支える新しい器具。首への負担は完全にゼロになります。
• 座奏（ざそう）スタイル: 立って吹く必要はありません。椅子に座り、楽器を太ももの横に置くスタイルなら、体への負担は最小限で済みます。
• 入れ歯・歯のケア: 総入れ歯でも演奏されている方はたくさんいます。マウスピースに貼る「パッチ」や、唇を守る「リップガード」を使えば、歯への負担も軽減できます。

サックスを始めるのに「遅すぎる」ということはあっても、楽しむことに「限界」はありません。自分の体の変化に合わせて、道具に頼りながら賢く楽しむ。そうすれば、サックスはあなたの人生の最後まで寄り添ってくれる、最高のパートナーになってくれるはずです。

サックスを始める年齢に合わせた無理のない楽しみ方

「よし、今日からサックス奏者だ！」と意気込んで始めたものの、自分の体力を過信して無理な練習スケジュールを組んで体を痛めてしまったり、なかなか思うような音が出なくて「やっぱり歳には勝てないのか」と挫折してしまったりしては、せっかくの決意が水の泡です。

私たち60代以降の世代には、体力と根性で乗り切る若者とは違う、この世代なりの「賢く、長く、優雅に楽しむための戦略」があります。ここでは、無駄な回り道をせず、最短距離でサックスライフを充実させるための具体的な方法を、私の経験に基づきご紹介します。

初心者に適した音楽教室の選び方と費用

「最初は独学でやってみて、ある程度吹けるようになってから教室に通おうかな…」と考える方は非常に多いのですが、正直に申し上げますと、その順序は逆です。

サックスなどの管楽器は、ピアノの鍵盤を押せば正しい音程が出る楽器とは異なり、奏者の口の形（アンブシュア）や息の支え方で音程も音色も決まります。最初こそ、プロの手ほどきを受けて「正しい型」を身につけるのが、変な癖がつかずに上達する一番の近道であり、結果的にレッスン代の節約にもなります。教室選びに迷ったら、以下の比較表を参考にしてみてください。

最近は「60歳からの音楽レッスン」といったシニア向けのコースを設けている教室も増えており、講師も高齢者の身体的特徴（歯の状態、肺活量、指の動きなど）を理解した上で、無理のない指導をしてくれます。

また、「サックス 始める 年齢」で検索して出てくる大手教室の中には、入会すると「楽器プレゼントキャンペーン」を行っているところもあります。「いきなり高い楽器を買うのは怖い」という方は、こういったキャンペーンを利用して初期費用を抑えるのも賢い手です。まずは「無料体験レッスン」に行き、教室の雰囲気や先生との相性を肌で感じてみてください。どこの教室が良いか迷っている方は、EYS音楽教室の評判は？楽器プレゼントと料金の真実を解説なども参考にしてみてください。マンツーマンでじっくり見てくれる教室は、マイペースに進めたい私たち世代には特にありがたい存在です。

独学でマイペースに練習する方法はある？

  　サックス用消音機「e-SAX」

近くに通える教室がない、あるいは決まった時間に外出するのが億劫という場合は、もちろん独学という選択肢もあります。幸いなことに、現代はYouTubeでプロ奏者が「音の出し方」から「運指」、「かっこいいアドリブの方法」まで丁寧に解説してくれていますし、DVD付きの文字が大きい教則本も非常に充実しています。

独学で成功するための最大のコツは、「毎日5分でもいいから楽器に触れること」です。休日にまとめて3時間練習して唇を腫らすよりも、毎日5分、テレビのCMの間だけ吹いてみる方が、口の周りの筋肉（口輪筋）や指の神経が養われ、確実に上達します。楽器をケースにしまい込まず、スタンドに立ててすぐに吹ける状態にしておくのもポイントです（転倒には十分注意してくださいね）。

ただし、独学の弱点は「自分の音が客観的に聴けない」ことです。時々はスマホのボイスメモで自分の演奏を録音し、聞いてみる習慣をつけてください。「あれ、思っていたよりリズムが遅れているな」「音が震えているな」といった気づきが、先生代わりになります。