ブルグミュラー25の練習曲の後半に登場する「タランテラ」。楽譜を見たときは「音そのものは読めそう」と感じたのに、実際に弾いてみると、テンポを上げた途端に左右がずれたり、手が固まったりして困っていませんか。
タランテラは、単純に指を速く動かせれば完成する曲ではありません。6/8拍子の大きな流れ、左右のタイミング、一貫した指使い、左手の軽さ、前打音の処理、中間部の表情の変化など、いくつもの要素を速い流れの中でまとめる必要があります。
そのため、ゆっくりなら弾けるのに速くすると崩れるのは、それほど不思議なことではありません。むしろ、どこで崩れているのかを細かく分けて確認すると、練習すべきポイントが見えやすい曲です。
「指定テンポまで上げないと完成ではないのかな」「ブルグミュラー25曲の中でもかなり難しい方なのかな」と不安になるかもしれませんが、数字だけで判断する必要はありません。まずは、自分がコントロールできるテンポで曲の仕組みを理解することが大切です。
この記事でわかること
- ブルグミュラー「タランテラ」の難易度の考え方
- 6/8拍子や左右が合わないときの練習方法
- 重点的に練習したい小節と攻略ポイント
- テンポを上げながらタランテラらしく仕上げる方法
タランテラの難易度はどのくらい?
ブルグミュラー「25の練習曲 Op.100」の第20番「タランテラ」は、教材や教育制度によって難易度の表示に幅があります。そのため、「初級なのか中級なのか」と迷ってしまう人もいるでしょう。
結論から言うと、一つの難易度表記だけを見て判断するより、この曲で求められる技術を、自分がどの程度安定して扱えるかを見るほうが実用的です。
譜読み自体はできても、速いテンポで左右をそろえ、6/8拍子の流れを保ち、さらに強弱やアーティキュレーションまで表現しようとすると、難しさは一段上がります。
難易度表記に幅がある理由
「タランテラ」は、日本の教材では初級、初中級などの表記が見られます。一方、ABRSMでは2025・2026年度のピアノGrade 5、List Aの課題曲として採用されています。
ここで注意したいのは、出版社や教育機関ごとに難易度を表す基準が違うことです。日本の教材に書かれた「初級」と、ABRSMの「Grade 5」を同じ物差しで直接比べることはできません。
たとえば、ある教材では「楽譜を読んで取り組み始められる段階」を基準に初級と表記しているかもしれません。一方で、試験制度では、テンポ、リズム、アーティキュレーション、表現まで含めた完成度が求められます。
この違いを理解せずに、「初級と書いてあるから簡単なはず」と考えると、実際に練習したときの難しさとのギャップに戸惑いやすくなります。
「弾き始められる」と「仕上げられる」は別
ピアノ曲の難易度では、「楽譜を読んで練習を開始できること」と「曲として高い完成度で弾けること」を分けて考えるとわかりやすくなります。
タランテラの場合、右手の音型そのものは、ゆっくりなら整理しやすい部分もあります。しかしテンポを上げると、右手だけでなく左手の和音、6/8拍子の流れ、前打音、強弱、音色まで同時に意識しなければなりません。
つまり、譜読みの入口だけを見れば取り組みやすく感じても、完成段階では要求されることが増えます。
| 見るポイント | タランテラで求められること | 練習時の確認 |
|---|---|---|
| 譜読み | ニ短調とニ長調、臨時記号を整理して読める | 音を探して止まらないか |
| リズム | 6/8拍子を大きな2拍として感じられる | 細かな8分音符だけを追っていないか |
| 右手 | 細かな音型を力まずそろえられる | 速くしたときに指が固まらないか |
| 左手 | 音価やスタッカートの違いを弾き分けられる | 右手を覆うほど重くなっていないか |
| 両手 | 速い流れでもタイミングを正確に合わせられる | 拍頭や同時になる音を理解しているか |
| 表現 | 短調の主部と長調の中間部で性格を変えられる | 最初から最後まで同じ音色になっていないか |
こうして見ると、「タランテラは初級か中級か」という一言だけでは説明しきれません。
記事内で実用的に整理するなら、初級後半から初中級あたりで取り組まれることがあり、完成度を高めるほどテンポ管理や左右の協調、表現力が求められる曲と考えるとわかりやすいでしょう。
完全なピアノ初心者が最初に選ぶ曲というより、両手である程度曲を弾けるようになり、速い音型や複合拍子にも少しずつ慣れてきた段階で取り組みやすい作品です。
ブルグミュラー25曲での位置づけ
「タランテラ」は、ブルグミュラーの「25の練習曲 Op.100」の第20番です。25曲のかなり後半に置かれているため、曲集前半の作品と比べると、一つの曲の中で複数の課題をまとめて処理する必要が出てきます。
ただし、第20番だから25曲中で20番目に難しい、という意味ではありません。曲番号をそのまま難易度ランキングとして扱うことはできませんし、25曲を公式に1位から25位まで並べた統一的な難易度順位も確認されていません。
ブルグミュラー25の練習曲は、単に曲が進むほど機械的に難しくなる教材ではありません。それぞれの曲に違う学習テーマがあります。
タランテラでは、特に高速での左右の協調、6/8拍子、アーティキュレーション、前打音、短調と長調の対比が重なります。
そのため、「指が速く動くから大丈夫」と思っていても、左手が重かったり、拍が安定しなかったりすると難しく感じます。逆に、極端に速い指の動きが得意でなくても、拍を理解し、左右を整理しながら練習できる人なら一つずつ攻略していけます。
「ブルグミュラー」と「ブルクミュラー」は、Burgmüllerという同じ作曲家を指す日本語表記の違いです。また、曲名も資料によって「La tarentelle」「La tarantelle」という表記がありますが、ここではどちらもOp.100第20番の「タランテラ」を指しています。
曲番号より「何ができるか」で判断する
自分がタランテラに取り組めるか迷う場合は、学習年数だけで判断する必要はありません。
「何年習えば弾ける」という公式な年数基準はなく、譜読みの速さや手の動き、リズム感、練習の進め方によって個人差があります。
判断材料としては、ニ短調やニ長調を大きく混乱せず読めること、6/8拍子を理解できること、両手で短い区間を合わせられること、決めた指使いを繰り返せることなどを見るとよいでしょう。
最初から原典テンポで弾ける必要はありません。ゆっくりでも音やリズムを自分で把握しながら進められるなら、練習の入口には立てています。
タランテラが難しいポイント
タランテラを練習していると、「片手なら弾けるのに両手だと急に崩れる」「テンポを上げると音が抜ける」「なぜか全体が重たく聞こえる」という問題が起こりやすくなります。
その原因は、指の速さだけではありません。拍の感じ方、左右のタイミング、運指、手の移動、音の長さなど、いくつもの要素が関係しています。
ここを理解すると、「とにかく何度も速く弾く」という練習から抜け出しやすくなります。
6/8拍子と両手の動きをそろえる
タランテラは6/8拍子です。楽譜上は1小節の中に8分音符が6つありますが、演奏するときに「1・2・3・4・5・6」と6個すべてを同じ重さで感じ続けると、音楽が細かく分断されやすくなります。
基本になるのは、1小節を大きく2拍として感じることです。1拍の中に8分音符が3つ入り、「1-la-li、2-la-li」というまとまりで捉えます。
もちろん、譜読みを始めたばかりの段階では8分音符を細かく数えても構いません。大切なのは、慣れてきたら少しずつ「6個の細かい音」から「2つの大きな拍」へ意識を移すことです。
細かく数える段階から大きな2拍へ移る
最初から大きな2拍だけで数えようとして、音の位置がわからなくなるなら無理をする必要はありません。
まずは8分音符の位置を理解し、「どの音が拍頭なのか」「1拍目の3つと2拍目の3つがどこまでなのか」を確認します。
それができたら、今度は拍頭だけを少し意識し、1小節の中に大きな山が2つあるように感じます。
この切り替えができると、細かな音符を一音ずつ追いかける感覚が減り、先へ進む流れを作りやすくなります。
6/8拍子を安定させる練習
最初は片手ずつ、1小節に大きな拍が2つあることを確認します。次に両手でゆっくり合わせ、左右で同時になる音を整理します。安定してきたら、細かな音符ではなく大きな拍を意識して流れを作ってください。
両手が合わない場合は、曲全体を最初から何度も弾くより、1〜2小節の短い単位に区切るほうが問題を見つけやすくなります。
「右手だけなら弾ける」「左手だけなら弾ける」という状態でも、両手で合わせた瞬間に崩れることがあります。
これは、それぞれの手が独立して弾けていても、左右でどの音が同時になるかを理解していない場合に起こりやすいです。
片手練習のときから、拍頭になる音や相手の手と同時になる場所を意識しておきましょう。
両手で弾きながら片方ずつ聴く
左右を合わせられるようになったら、両手で弾きながら「今は右手だけを聴く」「次は左手だけを聴く」という練習も使えます。
両手を動かしているのに片方の手へ耳を向けることで、普段は勢いの中に隠れている音の不ぞろいや、左手が大きすぎる場所に気づきやすくなります。
右手ばかりに注意が向いていると、左手が無意識に短くなったり、逆に重く残ったりすることがあります。左右を別々に聴く時間を作ると、伴奏と旋律のバランスも整えやすくなります。
速くした瞬間に毎回同じ場所でずれる場合は、その小節だけではなく、直前の動きも確認してください。
たとえば、失敗する音の一つ前で手の移動が間に合っていないと、問題の音だけ何度練習しても安定しません。ミスした音ではなく、ミスが始まる前の動きを探すことが大切です。自分だけでは原因を切り分けにくい場合は、オンラインのピアノレッスンで演奏を見てもらい、運指や左右のタイミングを確認する方法もあります。
左手と前打音を軽く処理する
タランテラの印象を大きく左右するのが左手です。右手の細かな動きに目が向きやすい曲ですが、左手が重くなると、全体も一気に重たく聞こえます。
特に9小節付近と33小節付近では、左手の音価やアーティキュレーションの性格が変化します。
9小節以降では左手の音の長さを確認し、33小節付近ではそれまでと同じ感覚で弾き続けないように注意します。
すべての和音を「伴奏だから短く」と決めつけるのではなく、楽譜上の音価やスタッカートの違いを見て弾き分けることが必要です。
左手は「強く弾く」より、「大きな拍を支えながら右手の動きを邪魔しない」ことを優先すると、タランテラの軽さを作りやすくなります。
左手だけでも2拍子の流れを作る
左手だけの練習では、和音の位置を覚えるだけで終わらせないようにします。
左手だけで弾いたときにも、「1小節に大きな2拍がある」と感じられるか確認してください。
左手だけで拍の骨格が安定すると、右手を加えたときに右手へ引っ張られにくくなります。
逆に、左手が右手の細かな音についていくだけの状態だと、右手が少し走ったときに両手とも一緒に速くなってしまいます。
左手が一定の拍を保つ役割を持つことで、曲全体のテンポを支えやすくなります。
前打音は「速く入れる」より位置関係を確認する
41小節以降では短い前打音が登場します。
前打音を見ると、「できるだけ速く入れなければ」と考えてしまうかもしれません。しかし、速さだけで処理すると、前打音が入るたびに拍が前後したり、右手と左手がずれたりすることがあります。
まず右手だけで前打音を含む形を確認し、そのあと左手の拍頭との位置関係を整理します。
ピティナの演奏解説では、41小節以降の短前打音を左手の拍頭に合わせる考え方が示されています。前打音を単独の大きな音として扱うのではなく、主音へ向かう装飾として流れの中に収める意識が大切です。
前打音を別の一拍のように感じてしまうと、そこで流れが止まりやすくなります。前打音の速さだけに集中せず、左手との位置関係と、その後の主音までを一つの動きとして確認しましょう。
45小節以降では、タランテラ特有のリズムとの性格の違いも意識したいところです。
「前打音がある場所」「リズムそのものが特徴的な場所」を同じ感覚で処理すると、音楽の違いが伝わりにくくなります。
音符を正しく並べることに加えて、「ここでは何が変わったのか」を耳で聴き分けることも、仕上げの重要なポイントです。
難所を小節ごとに攻略する練習法
タランテラは、最初から最後まで同じ難しさが続く曲ではありません。
特に崩れやすい区間を先に切り出して練習すると、通し練習だけを繰り返すより効率よく精度を上げられます。
ABRSMの指導資料で重点的な箇所として挙げられているのが、1〜5小節、19〜24小節、29〜32小節、60〜64小節です。
これらに加えて、9小節以降の左手、41小節以降の前打音、56小節以降のコーダも意識しておくと、曲全体を整理しやすくなります。
1〜5・19〜24小節の練習
1〜5小節は、曲が始まってすぐに技術的な課題が現れます。
つまり、「弾き始めてから調子を整える」という余裕があまりありません。最初の音を出す前に、手の位置、最初に使う指、どちらの方向へ動くかを頭の中で準備しておくことが重要です。
冒頭は弾く前の準備から練習する
冒頭で毎回つまずく場合は、音を出すところだけでなく、「手を鍵盤へ置くところ」から練習してみてください。
一度弾いたあとすぐにもう一度始めると、手がすでに正しい位置に残っているため、本当に冒頭から安定しているのか判断しにくくなります。
いったん手を離し、改めて最初の位置を作り、最初の数小節を弾く。この流れを何度か確認すると、本番で最初から弾く状況に近づきます。
また、毎回違う指使いをすると、テンポを上げたときに動きが安定しません。
市販楽譜の運指をそのまま使う場合でも、自分の手に合わせて変更する場合でも、重要なのは採用した指使いをできるだけ一貫させることです。
速い場所ほど、「その場で空いている指を使う」という弾き方では再現性が下がります。
19〜24小節は「同時になる音」を先に決める
19〜24小節では、左右のタイミングがずれやすくなります。
片手では問題なく弾けても、両手にすると崩れるなら、一度テンポを大きく落として、左右で同時になる音だけに注目してみましょう。
すべての音を均等に意識するのではなく、「この右手の音とこの左手が一緒」「ここが次の拍頭」という基準点を作ります。
基準点がわかると、その間にある細かな音を入れやすくなります。
短い区間で試したい練習
ゆっくり両手で弾く、特定の音へ軽くアクセントを置く、リズムを一時的に変える、左右で同時になる音だけを確認する、といった方法を目的に合わせて使います。
たとえば21〜24小節で崩れるなら、21小節から何度も始めるだけではなく、20小節から21小節へ入る流れも確認します。
難所は、その場所だけを弾けても、前の小節からつながらなければ実際の演奏では使えません。
「難しい小節そのもの」と「難しい小節への入り口」をセットにして練習すると、通したときの成功率を上げやすくなります。
リズム練習は最後に元へ戻す
ABRSMの指導資料では、異なる音へアクセントを置く練習や、短い区間でのリズム練習なども紹介されています。
こうした練習は、指の動きを機械的に速くするためではなく、音の並びや動きのまとまりを整理するために使います。
大切なのは、練習用に変えたリズムのままで終わらないことです。
変化を付けて何度か練習したら、必ず元のリズムへ戻し、楽譜どおりの音楽で動きやすくなったか確認してください。
29〜32・60〜64小節の練習
29〜32小節も、左右の同期がはっきり表れやすい区間です。
勢いだけで通そうとすると、最初は合っていても少しずつ左右がずれたり、片方の手だけ先へ行ったりすることがあります。
ここでも重要なのは、速く繰り返すことより、どの音が同時なのかを低速で正確に確認することです。
遅いテンポでも本番と同じ音楽を作る
ゆっくり練習するとき、「今は音だけ合えばいい」と考えて強弱やスタッカートを全部なくしてしまうと、テンポを上げたあとで表現を付け直す必要が出てきます。
ABRSMの指導資料でも、スロー練習の段階からクレッシェンド、ディミヌエンド、アーティキュレーション、ダイナミクスを含めて練習する考え方が示されています。
もちろん、最初の譜読みで全要素を完璧にする必要はありません。
ただし、「遅いときと速いときでまったく違う弾き方」にならないよう、できる範囲で本番と同じ動きや音の方向を作っておくことが大切です。
特にスタッカートや左手の音価を、遅いテンポだからと必要以上に伸ばしたり、逆に全部短くしたりしないようにしましょう。
60〜64小節は練習の最初にも弾く
忘れやすいのが60〜64小節です。
終盤にあるため、いつも曲の最初から通して練習していると、この区間を弾くころには集中力が落ちていることがあります。
しかも、1回の通し練習で終盤を弾ける回数は1回だけです。
冒頭は毎回弾くのに、終盤は疲れた状態で1回しか弾かない。この練習量の差が、「最初は弾けるのに最後だけ崩れる」という状態につながることがあります。
対策として、60〜64小節を練習の最初に取り出す時間を作ってみてください。
終盤だけを数回確認し、そのあと少し前からつなぎ、最後に全体を通します。
こうすれば、終盤をいつも疲れた状態でしか練習しない状況を避けられます。
56小節以降は曲の終わり方まで意識する
56小節の2番括弧以降はコーダとして捉え、曲が終わりへ向かう性格を意識します。
ここまで来ると「あと少しだから」と勢いだけで進みたくなりますが、最後まで拍を維持することが大切です。
最後の数小節だけ急に速くなったり、逆に慎重になりすぎてテンポが落ちたりすると、全体のまとまりが弱くなります。
終盤だけを練習するときにも、単に間違えないことだけでなく、「ここから曲がどのように終わっていくのか」を意識して弾くと、通したときに自然につながります。
通し練習だけでは、難しい場所の反復回数が足りなくなりやすいです。「通す日」と「難所を細かく直す時間」を分けるのではなく、1回の練習の中でも両方を組み合わせると効率よく進められます。
テンポと表現を仕上げるポイント
タランテラを練習していると、どうしても「どこまで速く弾けば完成なのか」が気になります。
原典にはAllegro vivo、付点4分音符=160という表示があります。
一方、教育やオーディションなどでは、作品の原典表示とは異なるテンポが基準として用いられる例もあります。
そのため、「160に届かなければ練習が失敗」という考え方ではなく、テンポを上げても音楽の要素を維持できるかを見ることが大切です。
メトロノームは確認用に使う
メトロノームはとても便利ですが、「毎日数字を上げるための道具」と考える必要はありません。
むしろ、テンポが一定か、苦手なところだけ遅くなっていないか、逆に弾きやすいところで走っていないかを確認する道具として使うと効果的です。手元に用意したい場合は、ピアノ練習用のメトロノームも確認できます。
数字を上げる前に確認したいこと
テンポを一段上げる前に、現在の速さで何ができているかを確認してみましょう。
音を大きく外さないことだけではなく、左右が合っているか、6/8拍子の2拍感があるか、左手が重くないか、強弱を保てるか、身体に余計な力が入っていないかを見ます。
テンポを上げた結果、手首や腕が固まる、音が抜ける、左右がずれる、強弱がなくなる、前打音で止まる、といった問題が急に増える場合は、そのテンポが現在の自分には速すぎる可能性があります。
一度テンポを下げることは後退ではありません。
むしろ、速くしたことで見つかった問題を、もう一度コントロールできる速さで直す作業です。
たとえば付点4分音符=120付近では安定しているのに、少し上げるだけで左右がずれるなら、速いテンポを何十回も繰り返すより、安定する範囲で手の動きを整理したほうが結果的に近道になる場合があります。
第一楽器のピアノオーディション用基準テンポでは、第20番タランテラに付点4分音符=120〜144という範囲が示されていますが、これは特定のオーディションでの基準です。
作品そのものに対する唯一の正解として扱うものではありません。
一方、原典の付点4分音符=160も、学習者全員に同じ時期の到達を義務付けるものとして考える必要はありません。
メトロノームも大きな2拍で使う
6/8拍子に慣れてきたら、メトロノームを付点4分音符単位で鳴らし、1小節に2回クリックする状態で練習すると、大きな拍を確認しやすくなります。
ただし、最初からこの設定だと音の位置を見失う場合は、より細かな単位で確認する段階を挟んでも構いません。
最終的には、クリックが鳴っていない細かな位置も自分の中で感じられることが目標です。
また、メトロノームに合わせることへ集中しすぎると、身体が固くなることがあります。
ABRSMの指導資料でも、指を速くすることだけを目的としてメトロノームを使うと緊張につながる可能性があると注意されています。
クリックへ必死についていく状態になったら、一度止めて、自分の拍で楽に弾けるか確認してみてください。
完成テンポは音楽を保てるかで判断する
実用的な完成テンポを考えるときは、数字だけではなく、音色、アーティキュレーション、左右の同期、拍感、強弱を保てることを判断材料にします。
速くなった瞬間に、スタッカートがなくなる、強弱が平坦になる、左手が大きくなるという状態なら、速度だけが先へ進んでいる可能性があります。
ABRSMの指導資料でも、速さそのものだけではなく、コントロール、音色、ダイナミクス、アーティキュレーションとのバランスが重視されています。
「今日は数字をいくつ上げたか」ではなく、「昨日より同じテンポを楽に、正確に、音楽的に弾けたか」を見るほうが、タランテラの仕上げには役立ちます。
中間部とタランテラらしさを弾き分ける
タランテラはニ短調を中心に進み、中間部では同主長調のニ長調へ移ります。
同主長調とは、主音が同じで長調と短調が切り替わる関係です。この曲ではニ短調からニ長調へ変わるため、音楽の明るさや響きの印象も変化します。
ここは、単に調号や臨時記号を間違えずに弾けばよい場所ではありません。
前後とは違う性格を耳で感じ、音色やフレーズの方向を変えることが重要です。
中間部だけ急に遅くしない
中間部で音型や調性が変わると、慎重になってテンポが落ちることがあります。
もちろん練習段階ではゆっくり確認して構いませんが、曲としてつなぐ段階では、主部と中間部で共通する拍の流れを維持してください。
性格を変えることと、テンポを大きく変えることは別です。
短調部分では緊張感があり、中間部では響きが変わったとしても、6/8拍子の大きな2拍は続いています。
音色は変わるけれど拍は途切れない。この感覚を作ると、曲の構成が伝わりやすくなります。
ニ短調とニ長調を耳で比べる
中間部の変化がわかりにくい場合は、練習前にニ短調とニ長調の主和音を弾き比べる方法があります。
難しい理論を考え続ける必要はありません。響きの違いを耳で確認してから中間部を弾くことで、「ここは前と同じ音色ではない」という意識を持ちやすくなります。
さらに、強弱の方向やフレーズのまとまりにも目を向けてください。
短調から長調へ移ったからといって、単純に「全部明るく大きく弾く」という意味ではありません。
楽譜の強弱やフレーズを優先しつつ、前後の性格の違いが自然に伝わる音色を探します。
「速い」だけではタランテラらしくならない
タランテラは南イタリアに由来する速く活発な舞曲で、6/8拍子による躍動的なリズムが特徴です。
そのため、速さは確かに重要な要素ですが、速ければそれだけでタランテラらしく聞こえるわけではありません。
細かな音をすべて同じ重さで打つと、テンポが速くても重たい印象になります。
反対に、大きな2拍の流れがあり、左手が軽く、強弱やフレーズに方向があると、少し遅めの練習テンポでも舞曲らしい動きが感じられます。
タランテラらしさの確認ポイント
速さだけでなく、大きな2拍の流れ、左手の軽さ、フレーズの方向、強弱の変化、短調と長調の対比がそろっているかを聴いてみましょう。
身体の力みも重要です。
テンポを上げるために指や腕へ力を入れ続けると、細かな動きがかえって動きにくくなることがあります。
手首や腕が自由に動ける範囲のテンポで練習し、無理なく弾ける動きを少しずつ速いテンポへつなげてください。
速い曲ほど、「力を増やす」より「余計な力を減らす」ことが大切になる場面があります。指の独立や脱力、速いパッセージの運指そのものを重点的に練習したい場合は、指・運指の技術課題に特化したピアノ教材を反復練習に取り入れる方法もあります。
仕上げ前に確認したいポイント
最後の仕上げでは、「一度も止まらず最後まで弾けたか」だけを基準にしないことが大切です。
タランテラは、音を並べる段階から一歩進み、速い流れの中で音楽をコントロールできるかを見ると完成度がわかりやすくなります。
まず、6/8拍子を大きな2拍で感じられているか確認します。
次に、19〜24小節や29〜32小節で左右が正確に合っているか、60〜64小節で疲れてテンポやタイミングが崩れていないかを聴きます。
さらに、9小節以降の左手の音価、41小節以降の前打音、中間部のニ長調への変化も確認してください。
| 段階 | 確認すること | 崩れる場合の戻り方 |
|---|---|---|
| 譜読み | 音・調号・臨時記号を迷わず読める | 片手で音と運指を確認する |
| リズム | 6/8拍子を大きな2拍で感じられる | 拍頭を意識して低速で弾く |
| 技術 | 速い音型を過度に力まず弾ける | テンポを落として動きを整理する |
| 協調 | 難所でも左右のタイミングが合う | 同時になる音を確認する |
| 表現 | 短調と長調で音楽の性格を変えられる | 各部分を別々に弾いて聴き比べる |
| 通し | 終盤まで拍と表現を大きく崩さず演奏できる | 終盤を単独で練習してからつなぐ |
毎日通すだけでは難所の練習量が足りない
曲がある程度弾けるようになると、最初から最後まで通す練習が楽しくなります。
ただし、毎回通すだけでは、得意な場所と苦手な場所を同じ回数しか弾けません。
1〜5小節は毎回必ず弾きますが、60〜64小節も通し1回につき1回です。
ところが難しさが違うなら、本来は必要な反復回数も同じとは限りません。
「今日は19〜24小節を先に確認する」「次は60〜64小節から始める」というように、その日の重点区間を決めてから通すと、苦手な場所へ練習時間を配分しやすくなります。
毎回違う場所で間違えるときは運指を確認する
いつも同じ場所を間違える場合は、その箇所の動きを重点的に直せます。
一方で、毎回違う場所で間違えると、「今日はたまたま失敗した」と考えやすいかもしれません。
しかし、ミスの場所が一定しない場合は、運指や手の移動がまだ固定されていない可能性もあります。
速いテンポでは、毎回違う指を使ったり、鍵盤への移動方法が変わったりすると、成功する条件も毎回変わってしまいます。
まず指使いを確認し、変更した場合は変更箇所だけでなく、その前後数音も含めて反復してください。
指使いを変えた直後は、新しい指使いそのものより「元の動きから新しい動きへ切り替わる場所」で止まりやすくなります。
録音するならミスの数だけで判断しない
仕上げ段階では、自分の演奏を録音して聴く方法も使えます。
そのとき、間違えた音の数だけを数えるのではなく、拍の流れ、左手の重さ、中間部の変化、終盤のテンポなども聴いてみてください。
弾いている最中は指を動かすことに意識が向くため、左手が大きくなっていても気づきにくいことがあります。
録音で「音は合っているけれど重い」と感じるなら、速さを上げる前に2拍感や左手のアーティキュレーションを見直す価値があります。
反対に、少しテンポが控えめでも、拍が安定し、中間部の性格が変わり、最後まで余裕を持って進めているなら、仕上げの方向は見えています。録音だけでは力みや運指の原因まで判断しにくい場合は、ピアノ講師に演奏を見てもらって改善点を確認すると、自宅練習で直す場所を整理しやすくなります。
タランテラのよくある質問(FAQ)
Q1. ブルグミュラー「タランテラ」は初心者でも弾けますか?
A. 教材によっては初級とされることもありますが、完全なピアノ初心者が最初に取り組む曲というより、ある程度の譜読みや両手奏に慣れてから挑戦しやすい作品です。音を読むだけでなく、6/8拍子、左右の同期、速い音型、左手のアーティキュレーションなどを同時に扱う必要があります。最初から速く弾く必要はないので、ゆっくりしたテンポで音、運指、拍を整理できるかを目安にしてください。
Q2. 付点4分音符=160まで上げないと完成ではありませんか?
A. 原典には付点4分音符=160という表示がありますが、学習者全員が必ず同じ時点でその速度へ到達しなければならないという統一基準は確認されていません。教育やオーディションでは異なる基準テンポが使われる例もあります。まずは左右の正確さ、拍感、音色、強弱を維持できるテンポを優先し、速くしても演奏の質が大きく崩れない範囲を広げていきましょう。
Q3. 6/8拍子はどのように数えればよいですか?
A. 譜読みの段階では8分音符を細かく確認しても構いませんが、最終的には1小節を大きな2拍で感じます。1拍の中に8分音符が3つ入る形です。「6個の音符を一つずつ追う」状態から、「3つずつまとまった大きな2拍」へ意識を移していくと、タランテラらしい流れを作りやすくなります。
Q4. 特に難しい小節はどこですか?
A. ABRSMの指導資料では、重点的な箇所として1〜5小節、19〜24小節、29〜32小節、60〜64小節が挙げられています。さらに、9小節以降の左手、41小節以降の前打音、56小節以降のコーダも確認しておきたいポイントです。曲全体を何度も通すだけでなく、これらの区間を短く切り出して練習すると問題を整理しやすくなります。
Q5. メトロノームで毎日少しずつ速くすればよいですか?
A. 数字を上げることだけを目的にする必要はありません。メトロノームはテンポの揺れや拍の位置を確認するために使うのが基本です。速度を上げて身体が固まったり、左右がずれたり、強弱が消えたりした場合は、一度テンポを戻して動きを整理しましょう。安定して弾けるテンポを基準に、音楽性を保てる範囲で少しずつ速さへ慣れていく方法が使いやすいです。
楽譜の版によって運指や細かな強弱、アーティキュレーションの編集が異なる場合があります。使用している楽譜で迷う点がある場合は、その版の記載を確認してください。試験やオーディションなど特定の基準が必要な場合は、正確な情報を主催団体などの公式情報で確認することが大切です。演奏上の判断に迷う場合は、使用している楽譜を見てもらえるピアノ指導者へ相談すると整理しやすいでしょう。
まとめ
ブルグミュラー「タランテラ」は、速く弾けるかどうかだけで難易度を判断しにくい曲です。
6/8拍子の大きな2拍、左右の正確な同期、一貫した指使い、左手の軽さ、前打音、中間部の表情の変化を速い流れの中でまとめるところに、この曲の難しさがあります。
- 難易度表記は教材や教育制度によって異なるため、単純比較しない
- 6/8拍子は最終的に1小節を大きな2拍で感じる
- 1〜5、19〜24、29〜32、60〜64小節を重点的に練習する
- 9小節以降の左手と41小節以降の前打音も丁寧に確認する
- 運指は早い段階で決め、速くなっても同じ動きを再現できるようにする
- メトロノームは無理に加速するためではなく拍とテンポを確認するために使う
- ニ短調とニ長調の中間部で音楽の性格を弾き分ける
- 終盤だけを独立して練習し、疲れても拍が崩れない状態を目指す
原典には付点4分音符=160というテンポ表示がありますが、その数字だけを追いかけるより、まずは自分がコントロールできる速さで、左右の動きと音楽の流れを安定させることを優先してください。
速くして左右がずれたなら、左右が合うテンポへ戻る。前打音で止まるなら、右手だけで位置を確認してから左手と合わせる。終盤で崩れるなら、曲の最初ではなく終盤から練習する。
このように、「できないから最初からもう一度」ではなく、問題の原因に合わせて練習を小さく分けることが、止まらず弾き切るための近道です。
テンポを一度落とすことは後退ではありません。そこで指使い、拍、左右のタイミングを整えておけば、次にテンポを上げたときの土台になります。
最初は忙しい音符の集まりに見えていたタランテラも、大きな2拍の流れが身体に入り、左右の役割が整理されると、曲全体の形が見えやすくなります。
速さだけをゴールにせず、軽さ、躍動感、短調と長調の対比まで少しずつ整えていきましょう。あなたが音楽をコントロールできるテンポから積み重ねることが、タランテラを生き生きと仕上げるための大切な一歩です。

