バリトンサックスの重さは何キロ?移動の負担を減らす対策【完全版】

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【この記事の30秒まとめ】

  • 本体重量は約6kg、ケース込みで最大16kg。米袋や幼児を常に抱えているのと同じ負荷がかかる。
  • 「Low A」モデルは重いが現代の主流。軽量なLow Bbはバンド活動には不向きな場合があるため注意。
  • 女性でも運搬可能。ただし、純正ケースは卒業し「リュック型ケース」と「分散型ストラップ」への投資は必須。
  • 演奏中の腰痛対策には、首への負担がない「ブレステイキング」や、重量ゼロの「ペグ(支柱)」活用が最強の手段。

憧れのバリトンサックスを始めたいけれど、あの巨大な金属の塊を本当に自分で持ち運べるのか、練習スタジオまで辿り着く前に力尽きてしまうのではないかと、深刻な不安に駆られていませんか。バリトンサックスの重さに関する悩みは、購入を検討している初心者の方はもちろん、すでに活動している現役のプレイヤーにとっても、避けては通れない最大の課題といえるでしょう。

ステージ上でスポットライトを浴び、アンサンブルを底から支える魅力的な重低音。その姿に惹かれつつも、「腰を痛めるのではないか」「電車移動ができるのか」「女性の私でも扱えるのか」という現実的な問題が、挑戦へのハードルになっているケースは非常に多いです。実際に、私のバンド仲間や音楽高校時代の友人たちに聞いても、バリトンサックス奏者の悩みランキングの不動の1位は、間違いなく「重さ(運搬の辛さ)」です。

特に、身長があまり高くない女性や小柄な方にとっては、演奏技術以前に「楽器の運搬」や「身体への物理的負担」が切実な問題となります。しかし、ここで諦めるのはまだ早いです。重さの実態を正しく数値として把握し、現代の進化したケースや、人間工学に基づいたストラップの活用法、そして身体の使い方を理解すれば、その負担は劇的に、嘘のように軽減することが可能です。

この記事では、音楽高校出身で長年バンド活動を続けてきた私が、周囲のサックス奏者たちの悲喜こもごもの実体験や、信頼できるリペアマンからの専門的なアドバイスを基に、バリトンサックスの「重さ」に関する全てを徹底的に解説します。この楽器ならではの素晴らしい重低音を楽しむために、まずは敵を知り、賢く対策を立てることから始めましょう。

  1. バリトンサックスの重さは何キロ?現実と負担
    1. 本体とケース込みの総重量
      1. 楽器単体の重さ:約5.5kg〜6.5kg
      2. 運搬時の総重量(ケース込み):約10kg〜16kg
    2. ヤマハやヤナギサワ等メーカー別の重量比較
      1. Yanagisawa(ヤナギサワ):軽量化の革命児
      2. Yamaha(ヤマハ):世界のスタンダード
      3. Selmer Paris(セルマー):重厚なるフランスの音
    3. LowAとLowBbで変わる重さの違い
      1. Low A モデル(現代の主流)
      2. Low Bb モデル(ヴィンテージ・一部ジャズモデル)
    4. 女性や初心者でも持ち運びは可能か
    5. 演奏中の身体への負担と腰痛リスク
      1. サックス首(頸椎ヘルニア)のリスク
      2. 腰への負担と姿勢の崩れ
  2. バリトンサックスの重さ対策とおすすめグッズ
    1. 軽量セミハードケースで移動を楽にする
      1. 1. 純正ハードケース(約6kg〜8kg):保管用と割り切る
      2. 2. フライトケース(約3.5kg〜4kg):軽さ特化
      3. 3. セミハードケース(約4kg〜6kg):現在の最適解
    2. 負担を減らす高機能ストラップの選び方
      1. 1. 首負担軽減型(例:B.AIR バードストラップ)
      2. 2. 肩掛け分散型(例:Breath Taking ブレステイキング)
      3. 3. ハーネス型(例:BG ハーネス、ネオテック ハーネス)
    3. 演奏用スタンドのペグで重さをゼロにする
      1. 対応モデルと後付け加工
    4. 電車移動や階段で疲れない運搬のコツ
      1. 1. エレベーター・エスカレーターの完全把握
      2. 2. ラッシュ時を避ける(時差移動)
      3. 3. キャスターの活用と注意点
    5. 筋トレよりも大切な姿勢と構え方
    6. バリトンサックスの重さと上手く付き合う

バリトンサックスの重さは何キロ?現実と負担

まずは、バリトンサックスという楽器が物理的にどれほどの質量を持っているのか、そしてメーカーや構造の違いによって重さがどう変わるのか、その現実的な数値を詳しく紐解いていきます。「なんとなく重そう」という曖昧なイメージを、「具体的な数値」として明確に理解することで、必要な対策の方向性が見えてくるはずです。

本体とケース込みの総重量

バリトンサックスの購入を検討する際、カタログなどで「本体重量」を確認する方は多いですが、実際に我々アマチュアミュージシャンが直面するのは「運搬時の総重量」です。ここには大きな落とし穴があります。

楽器単体の重さ:約5.5kg〜6.5kg

まず、楽器単体の重さは、一般的なモデルで約5.5kgから6.5kgほどあります。数値だけを聞くと「お米の5kg袋くらいか、なら持てるかも」と思われるかもしれませんが、これは大きな間違いです。お米の袋は抱きかかえて持ちますが、サックスは演奏時、首や肩といった局所的な部位で、しかも身体の前方に突き出す形で支えなければなりません。テコの原理が働き、体感重量は数値以上に重く感じます。

他のサックスと比較してみましょう。アルトサックスの重量は約2.3kg〜2.5kg、テナーサックスでも約3.4kg〜3.6kg程度です。つまり、バリトンサックスはアルトサックスの実に2倍から2.5倍の重量があるわけです。アルトサックスを2本同時に首から下げて、さらに500mlのペットボトルを数本ぶら下げている状態を想像してみてください。その負荷の大きさが容易にイメージできるはずです。

運搬時の総重量(ケース込み):約10kg〜16kg

そして、最大の問題は「移動時」です。楽器は裸で持ち歩くわけにはいきません。マウスピース、リガチャー、リード(箱ごと)、ストラップ、スワブやグリスなどのメンテナンス用品、譜面台、楽譜ファイル、そして何より、この巨大でデリケートな楽器を衝撃から守るための頑丈なケースが必要です。これらを全て含めた総重量は、約10kgから16kgにも達します。

【身近なもので例えると?運搬のリアル】

  • 10kgのお米の袋:スーパーで売っている一番大きなお米の袋です。あれを片手で持ち続けることを想像してください。指がちぎれそうになります。
  • 1歳児〜2歳児くらいの子供:体重10kg〜12kg程度です。常に抱っこ紐なしで抱えているような状態です。
  • 一般的なママチャリ:シティサイクルの重量が16kg〜18kg程度です。つまり、重いハードケースの場合、自転車を担いで歩いているのに近い負荷がかかります。

特に注意が必要なのが、楽器を購入した際に付属してくる「純正のハードケース」を使用している場合です。メーカー純正のハードケースは、輸送中の事故を防ぐために非常に堅牢な木枠や厚手の樹脂で作られていますが、その分重量も容赦ありません。ケース単体だけで6kg〜8kgあることも珍しくなく、楽器と合わせると総重量は15kgを超えてきます。

私のバンドのバリトンサックス担当(身長175cmの男性)に話を聞くと、「練習スタジオに到着した時点で、その日の体力の8割を使い果たしていることがある。特に雨の日に傘をさしながらハードケースを持つのは地獄だ」とこぼしていました。移動だけで疲弊してしまい、肝心の練習や演奏に集中できなくなってしまっては本末転倒です。したがって、バリトンサックスを始めるにあたっては、「楽器の重さ」だけでなく、「総重量をいかに減らすか」という戦略が不可欠になるのです。

ヤマハやヤナギサワ等メーカー別の重量比較

バリトンサックスは、メーカーやモデルによって設計思想が大きく異なり、それが重さに直結しています。カタログスペックとして正確なグラム数が公表されていないことも多いですが、市場で流通している主要モデルの傾向と、プレイヤーたちの間での体感的な評価を詳しく整理しました。これから楽器を選ぶ方は、音色だけでなく「重さ」も重要な選定基準に入れてください。

Yanagisawa(ヤナギサワ):軽量化の革命児

日本の誇るサックス専門メーカー、ヤナギサワには特筆すべきモデルが存在します。それが「B-WO1(ライトタイプ)」です。

  • 重量傾向:非常に軽量(約5kg台後半)
  • 特徴:ヤナギサワは、プロモデルとしての品質を維持しながら、「軽さ」をコンセプトの一つにしたモデルをラインナップしています。管体に付く支柱(リブ)の数を減らし、金属量を削ぎ落とすことで軽量化を実現しています。
  • プレイヤーの声:「とにかく反応が速い。息を入れた瞬間に音が鳴る感覚。そして何より軽いので、小柄な私でも扱いやすい」という声が多く、学生や女性、移動が多い社会人プレイヤーに圧倒的な支持を得ています。

一方で、同社の「B-WO10 / WO20(ヘヴィータイプ)」は、重厚な響きを出すために金属量を増やしており、こちらは持った瞬間に「ズシリ」とくる重さがあります。音色は素晴らしいですが、体力に自信がある人向けと言えるでしょう。

Yamaha(ヤマハ):世界のスタンダード

学校備品からプロの現場まで、幅広く使われているヤマハ。その重量は「標準的」です。

  • 重量傾向:標準
  • 特徴:代表的な「YBS-62」や、最新の「YBS-480」「YBS-82」などは、堅牢性と操作性のバランスが非常に良く設計されています。特にYBS-480は、かつての名機YBS-32の後継として、軽量化とキイ配置の見直しが行われており、初心者でも無理なく扱える設計になっています。
  • プレイヤーの声:「特別軽くはないが、キーの配置が絶妙で持ちやすいので、実際の重さよりも軽く感じる」という意見が多いです。人間工学に基づいた設計の妙と言えるでしょう。

Selmer Paris(セルマー):重厚なるフランスの音

サックスの王様、セルマー。その音色は唯一無二ですが、重さも一級品です。

  • 重量傾向:やや重い〜重い
  • 特徴:豊かな倍音を含む「フランスの音」を出すため、管厚やキー設計が非常に堅牢です。しっかりとした重量感があり、それが遠達性のある音に繋がっています。
  • プレイヤーの声:「重い。とにかく重い。でもこの音が出せるなら我慢できる」という、ある種の覚悟を持ったプレイヤーに愛されています。初心者がいきなり手を出すと、重さに負けてしまうこともあるかもしれません。
メーカー モデル名 重量感 おすすめユーザー
Yanagisawa B-WO1 軽量 女性、小柄な方、移動が多い方、軽い吹奏感が好きな方
Yanagisawa B-WO10/20 重い 体力がある方、重厚な音色を求めるプロ志向の方
Yamaha YBS-480/62 標準 初心者から上級者まで、バランス重視の方
Selmer Serise II/III 重い セルマーの音が好きな方、体力に自信がある方

LowAとLowBbで変わる重さの違い

バリトンサックス選びにおいて、重さを左右するもう一つの大きな要因が、最低音の音域の違いです。バリトンサックスには、最低音が「Low A(実音C)」まで出るモデルと、「Low Bb(実音Db)」までのモデルの2種類が存在します。これは単に「出る音が一つ違うだけ」ではありません。

Low Aの音を出すためには、楽器の管(ベルの部分)を長く伸ばし、さらにその音を塞ぐための大きなキーと連動する複雑なメカニズムを追加する必要があります。この構造上の違いが、重量にダイレクトに反映されるのです。

Low A モデル(現代の主流)

現在新品で販売されているバリトンサックスの99%は、この「Low Aモデル」です。

  • 重さ:ベルが長く伸びており、管体全体の金属量が多いため、当然ながら重いです。
  • 事情:現在の吹奏楽、ビッグバンド、ポップスのホーンセクションの楽譜は、バリトンサックスにLow A(実音C)の音を要求することがほとんどです。作曲家やアレンジャーは、バリトンサックスの「Low A」ならではの、腹に響くような爆発的な低音を期待して曲を書きます。現代の音楽シーンで活動する以上、避けて通れない「標準規格」となっています。

Low Bb モデル(ヴィンテージ・一部ジャズモデル)

こちらは主に1970年代以前のヴィンテージ楽器(アメセル、コーン、キングなど)に見られる仕様です。

  • 重さ:管が短く、部品点数が少ないため、Low Aモデルと比較して比較的軽量です。個体差はありますが、500g〜1kg近く軽い場合もあります。
  • 魅力:管が短いことによる「抜けの良い、軽快な反応」が魅力で、ジェリー・マリガンなどのジャズ・ジャイアンツが愛用していたことでも知られています。その軽さと独特の枯れた音色に惹かれるファンは多いです。

「少しでも軽い方がいいから、Low Bbモデルを探そう」と考える初心者の方もいらっしゃいますが、ここには大きな落とし穴があります。もしあなたが、地域の吹奏楽団やビッグバンドに入りたいと考えているなら、Low Bbモデルは推奨しません。

なぜなら、楽譜に「Low A」が出てきた瞬間、その音が出せないあなたは1オクターブ上げて吹くか、音を省略するしかなくなるからです。特にバリトンサックスのLow Aは、バンド全体のルート音(根音)として非常に重要な役割を担っており、これを変更することは音楽の響きを損なうことになりかねません。

ソロ活動や、コンボジャズ(少人数のジャズバンド)で自由に演奏する場合を除き、バンド活動を視野に入れるなら、多少重くてもLow Aモデルを選ぶのが無難で確実な選択です。「重さは道具や工夫でカバーできても、出ない音はどうしようもない」というのが、先輩プレイヤーたちの共通認識です。

女性や初心者でも持ち運びは可能か

さて、ここまでの話を聞いて「やっぱり私には無理かも…」と弱気になってしまった方もいるかもしれません。しかし、結論から強く申し上げますと、女性や小柄な方でもバリトンサックスの持ち運びは十分に可能です。

その証拠に、日本中の中学校や高校の吹奏楽部を見てみてください。身長150cm台、時には150cmに満たないような小柄な女子生徒が、自分の身長の半分以上もあるようなバリトンサックスを担当し、コンクール会場やパレードで元気に活動している姿を日常的に見かけるはずです。彼女たちが特別な怪力の持ち主というわけではありません。

では、なぜ彼女たちは平気なのか。それは「腕力」で解決しているのではなく、「効率的な道具」を使い、「身体全体で支えるコツ」を掴んでいるからです。

私の周りでバリトンサックスを吹いている女性プレイヤーたち(中には身長152cmの方もいます)にヒアリングをしたところ、最初はやはり苦労があったそうです。「最初は重すぎて泣きそうになった」「肩に痣ができた」「階段で楽器を引きずりそうになった」というエピソードには事欠きません。しかし、彼女たちは口を揃えてこう言います。「ケースとストラップを変えた瞬間に、世界が変わった」と。

【ここが分かれ道!挫折しないためのポイント】
挫折してしまう人の多くは、最初に付属していた「手持ちしかできない重い純正ハードケース」と「首が痛くなる細いストラップ」を、我慢して使い続けているケースがほとんどです。これではプロの男性奏者でも身体を壊します。
逆に、長く楽しく継続できている人は、早い段階で「リュックタイプの軽量ケース」や「分散型ストラップ」への投資を行っています。これは決して甘えではなく、必要な設備投資です。

また、小柄な方が運搬する際の物理的な注意点として、手提げスタイルのケースだと、腕を下げた時にケースが地面に擦ってしまうという問題があります。階段の上り下りでも、ケースを高く持ち上げ続けなければならず、これは腕力への負担が半端ではありません。その点でも、背負ってしまえばケースの底が地面につくことはなく、両手が空くためバランスも取りやすくなります。

つまり、「女性だから無理」ということは決してありません。「女性だからこそ、道具に頼る」という戦略さえ持っていれば、誰でもこの楽器を楽しむことができるのです。むしろ、力任せに扱わない分、楽器を丁寧に扱う傾向があり、楽器の状態を良く保てるというメリットさえあるかもしれません。

演奏中の身体への負担と腰痛リスク

運搬の辛さと並んで深刻なのが、演奏中の身体への負担です。約6kgの金属の塊を、演奏中ずっと支え続けることは、医学的に見ても人体にとって不自然な負荷がかかる行為です。

サックス首(頸椎ヘルニア)のリスク

最も危険なのは、楽器の全重量を「首(頸椎)」だけで支えることです。人間の首は、ただでさえ約5kgある頭部を支えています。そこにさらに6kgの楽器をぶら下げるわけですから、首の骨や筋肉にかかる負担は計り知れません。細いストラップが首に食い込むことで、血流が悪くなり、偏頭痛や腕の痺れを引き起こすこともあります。

長年サックスを吹いている先輩ミュージシャンの中には、慢性的な首の痛みや、酷い場合には「頸椎ヘルニア」を発症し、ドクターストップがかかって演奏活動の休止を余儀なくされた人もいます。これは決して他人事ではありません。

腰への負担と姿勢の崩れ

重さは「腰」にもきます。特に立って演奏する場合、楽器の重さが身体の前方にかかるため、重心が前に傾きます。それを支えようとして無意識に腰を反らせたり(反り腰)、逆に背中を丸めて猫背になったりしがちです。この「悪い姿勢」が、腰椎への強烈な負担となり、慢性的な腰痛の原因となります。

私の知人のサックス講師は、「楽器の重さは根性では解決しない」と常々生徒に伝えています。これはスポーツと同じで、正しいフォームと適切なギア(道具)なしに高負荷なトレーニングを行えば、必ず故障します。無理をして身体を壊してしまっては、大好きな楽器を吹けなくなってしまいます。

サックス奏者の間では、整体やマッサージに通うのは「メンテナンス」の一環として常識となっていますが、そもそも「痛くならないための予防」が最優先です。記事の後半では、これらのリスクを最小限に抑え、長く健康に楽器を楽しむための具体的なグッズや対策について詳しく解説していきます。健康はお金では買えませんが、負担を軽減するグッズはお金で買えます。ここは惜しまずに投資すべきポイントだと言えるでしょう。

(出典:厚生労働省『職場における腰痛予防対策指針』においても、重量物の取り扱いには補助具の活用が推奨されていますが、これは楽器演奏にもそのまま当てはまる原則です)

バリトンサックスの重さ対策とおすすめグッズ

「重い」という物理的な事実は変えられませんが、その重さを「どう感じるか」、そして「身体へのダメージをどう減らすか」は、使用する道具とちょっとした工夫次第で劇的にコントロールできます。ここからは、賢いプレイヤーたちが実践している、具体的かつ効果実証済みの対策を紹介します。

軽量セミハードケースで移動を楽にする

もしあなたが、楽器購入時に付属していた「純正のハードケース」を使い続けていて、「重いなあ、辛いなあ」と悩みながら毎回練習に行っているのなら、今すぐケースの買い替えを検討することを強くおすすめします。これは、バリトンサックス奏者が行うべき「最も効果的かつ即効性のある軽量化策」です。

ケースには大きく分けて3つのタイプがあり、それぞれ重さと利便性が異なります。

1. 純正ハードケース(約6kg〜8kg):保管用と割り切る

楽器を買うとついてくる、四角くてゴツイ箱です。木枠に革張りなどが多く、保護性能は最強です。トラックで運搬されるツアーや、飛行機の貨物室に預ける場合はこれ一択ですが、手持ちの取っ手しか付いていないことが多く、徒歩での移動には全く向いていません。これを普段使いするのは「修行」に近い行為です。自宅での保管用と割り切るのが賢明でしょう。

2. フライトケース(約3.5kg〜4kg):軽さ特化

グラスファイバーなどの硬質素材で作られた、楽器の形にフィットするケースです(シャイニーケースなどが有名)。とにかく軽いです。ハードケースの半分近い軽さを実現できます。色もカラフルで見た目も良いです。ただし、内部のクッション性が薄いものが多く、満員電車での圧迫や、うっかり倒した時の衝撃吸収性にはやや不安が残る場合もあります。

3. セミハードケース(約4kg〜6kg):現在の最適解

現在のアマチュアプレイヤーの主流にして、最適解がこれです。外側はナイロンなどの布製ですが、内部は硬質の発泡ウレタンなどでしっかり成形されており、軽さと保護性能のバランスが非常に良いです。代表的なメーカーは、フランスのBAM(バム)や、スペインのBags(バッグス)などです。

これらのセミハードケースの最大のメリットは、「しっかりとしたリュックストラップ」が付いており、両肩で背負えることです。人間は、片手で持つよりも背負った方が、遥かに重さを感じにくくなります。登山家が重い荷物を背負って歩けるのと同じ理屈です。私のバンド仲間も、高価なBAMのケース(ハイテックシリーズなど)に買い替えた途端、「移動が苦じゃなくなった」「練習に行く頻度が増えた」と喜んでいました。

両肩で背負うことができれば、両手が空くため、改札を通る際も、スマホで地図を見る際もスムーズです。都市部での電車移動や、駅からスタジオまでの徒歩移動がある方にとって、リュック型の軽量ケースは「贅沢品」ではなく「必需品」と言えるでしょう。

負担を減らす高機能ストラップの選び方

ケースの次に、あるいはケース以上に投資すべきなのが「ストラップ」です。楽器店で試奏する際や、楽器購入時にオマケで付いてくるような「首に当たる部分がただの布や革のパッド」だけの単純なストラップは、バリトンサックスには不向きです。あれはアルトサックスくらいまでが限界だと考えてください。

バリトンサックスの重量(約5kg〜6kg)を一本の細い紐で首にかけると、首の血管(頸動脈)や神経を圧迫し、演奏中の集中力を削ぐだけでなく、頭痛や肩こり、めまい、ひどい場合は手の痺れの原因になります。現在は、人間工学に基づいた「身体に優しい高機能ストラップ」が多数開発されています。「たかが紐」と思わずに、自分に合ったものを選ぶことで、演奏寿命が何年も伸びることになります。

現在主流となっている、負担軽減に特化したストラップは大きく分けて3つのタイプがあります。

1. 首負担軽減型(例:B.AIR バードストラップ)

今やプロアマ問わず定番となっているのがこのタイプです。最大の特徴は、首に当たるパッド部分と、楽器を吊るす紐の間に「V字型のプレート」が入っていることです。

  • メリット:V字プレートのおかげで、首元の紐が左右に広がり、喉(気管)や首の血管を直接締め付けない構造になっています。呼吸が非常に楽になります。
  • 特徴:パーツごとに分解して洗えたり、カラーバリエーションが豊富でカスタマイズできたりするのも人気の理由です。首の両サイド(筋肉部分)で支えるため、一点集中の負担が分散されます。

2. 肩掛け分散型(例:Breath Taking ブレステイキング)

日本のサックス奏者が開発した、まさに「革命的」なストラップです。これは首にかけるのではなく、背中のラインと両肩を使って楽器を支える独自構造を持っています。

  • メリット:首の骨(頸椎)には一切負担がかかりません。背中全体で楽器を背負うような感覚になるため、まるで楽器が宙に浮いているかのように軽く感じるます。「魔法のストラップ」と呼ばれることもあり、一度使うと元のストラップには戻れないという中毒者が続出しています。
  • 価格:2万円〜3万円前後と、ストラップにしては非常に高額ですが、整骨院に通う治療費や、ヘルニアのリスクを考えれば、決して高い買い物ではありません。特に女性や小柄な方には、このタイプを強く推奨します。

3. ハーネス型(例:BG ハーネス、ネオテック ハーネス)

上半身全体(背中と腰)で楽器を吊るす、いわゆる「抱っこ紐」のようなタイプです。

  • メリット:身体への負担は全タイプの中で最も少ないです。重量が完全に分散されるため、長時間立って演奏するパレードやマーチングなどでは最強の威力を発揮します。
  • デメリット:楽器の構える位置や角度が固定されやすく、自由度が下がるのが難点です。また、装着に少し手間がかかる点や、見た目を気にする奏者もいますが、実用性はピカイチです。

【結論:どれを選ぶべき?】
予算が許すなら、まずは「ブレステイキング」などの肩掛け分散型を試してください。「楽器が軽く感じる」ことは、そのまま「指が動かしやすくなる」「呼吸が楽になる」という演奏技術の向上に直結します。ぜひ楽器店で、自分の楽器を持参して試着してみてください。世界が変わりますよ。

演奏用スタンドのペグで重さをゼロにする

もしあなたが座って演奏する機会が多いなら、ストラップ云々の前に、物理的に楽器を浮かせてしまう最強の対策があります。それが「ペグ(演奏用支柱)」の活用です。

ペグとは、楽器のベルの下部やU字管の補強板あたりに装着する、長さ調節可能な金属の棒(エンドピン)のことです。バスクラリネットやチェロでは当たり前の装備ですが、バリトンサックスでもこれを使うことで、楽器の重量を床に逃すことができます。

これによる恩恵は計り知れません。ペグを使えば、演奏中の首や親指にかかる重量は「ほぼゼロ」になります。楽器は床に自立しており、奏者はただマウスピースをくわえてキーを押すだけ。身体のどこにも力みがない状態で演奏できるため、ブレスコントロールやフィンガリングに完全に集中できます。特に、長時間のリハーサルや、腰痛持ちの方にとっては、まさに救世主と言える存在です。

対応モデルと後付け加工

  • 標準装備:ヤマハのカスタムモデル(YBS-82)など、一部の最新上位機種には標準でペグの差し込み口が装備されています。
  • 後付け加工:標準装備されていない楽器(YBS-62やヤナギサワの旧モデルなど)でも、諦める必要はありません。管楽器専門のリペア工房に依頼すれば、数万円程度でペグの台座(受け皿)をハンダ付けして取り付ける改造が可能です。

ただし、注意点もあります。ペグを使用すると、床の振動を通して響きが若干変わる(音がタイトになる、または床に吸われる)と感じる奏者もいます。また、楽器が固定されるため、身体を大きく揺らして演奏するスタイルの方には窮屈に感じるかもしれません。しかし、これらを差し引いても「身体的負担ゼロ」のメリットは巨大です。長く楽器を続けるための選択肢として、ぜひ頭に入れておいてください。

電車移動や階段で疲れない運搬のコツ

道具を最高のものに揃えても、やはり10kg超の物体を運ぶことには変わりありません。最後は「運用」でカバーしましょう。私の知人のベテラン・バリトン吹きは、移動に関して徹底したリスク管理を行っています。彼らの知恵を借ります。

1. エレベーター・エスカレーターの完全把握

彼らは、利用する駅のどこにエレベーターがあるか、どの車両に乗ればエスカレーターに近いかを完全に把握しています。乗り換えアプリや駅の構内図を事前に確認し、多少遠回りになっても階段を使わないルートを徹底します。「階段を上る」という行為は、平地を歩く数倍のエネルギーを消耗し、腰へのダメージも大きいため、徹底的に避けるのが賢明です。

2. ラッシュ時を避ける(時差移動)

あの巨大なケースを持って満員電車に乗るのは、周囲の乗客への迷惑になるだけでなく、他の乗客の鞄や身体に押されて楽器が破損する(キーが曲がるなど)リスクもあります。練習スタジオの予約時間を調整し、可能な限りラッシュ時間を避けて移動するのが鉄則です。どうしても混雑時に移動しなければならない場合は、先頭車両や最後尾車両など、比較的スペースのある場所を選びましょう。

3. キャスターの活用と注意点

平坦な舗装路が多い場合は、キャスター(コロコロ)付きのケースも有効です。背負う必要がないため、体力的には最も楽です。ただし、日本の道路は点字ブロックや段差が多く、振動が楽器に伝わりやすいというデメリットがあります。バリトンサックスは調整が狂いやすいため、ガタガタ道での使用は避け、キャスターで運ぶ際は振動吸収性の高いタイヤがついたものを選び、段差では必ず持ち上げるなどの配慮が必要です。

筋トレよりも大切な姿勢と構え方

「バリトンサックスを吹くには、やはり筋トレが必要ですか?」と聞かれることがよくあります。確かに最低限の体力は必要ですが、私はいつも「筋トレよりも脱力と姿勢が大事」だと答えています。

重いからといって、腕の力で楽器を持ち上げようとしたり、肩をすくめて力んだりすると、筋肉が緊張して血流が悪くなり、かえって楽器を重く感じてしまいます。また、指にも無駄な力が入り、速いパッセージが吹けなくなるという悪循環に陥ります。

重要なのは「骨格で支える」というイメージです。

  1. ストラップに全乗っかりする:ストラップの長さを適切に調整し、楽器の重さを100%、完全にストラップに預けてください。右手親指(サムフック)で持ち上げようとしてはいけません。親指はあくまで楽器を「前に押し出す」程度の補助です。
  2. 吊り上げられるイメージ:背筋を伸ばし、頭頂部が天井から糸で吊られているような感覚で立ちます。こうすることで、背骨全体で重さを支えることができ、腰への一点集中を防げます。
  3. 楽器を引き寄せすぎない:楽器を身体に引き寄せすぎると、首が絞まります。マウスピースが自然に口元に来る位置で固定し、楽器の重さを身体の前側に「預ける」感覚を掴みましょう。

ベースを弾く際もそうですが、猫背になると楽器の重さが全て腰の一点に集中してしまいます。逆に、背骨に沿って重さを分散させれば、長時間でも耐えられます。良い姿勢は疲れないだけでなく、気道が真っ直ぐになり、深い呼吸(ブレス)ができるようになるため、音色も太く豊かになります。一石二鳥ですね。

バリトンサックスの重さと上手く付き合う

バリトンサックスはその重さゆえに、「かっこいいけど、自分には無理」「移動が辛いから辞めたい」と敬遠されることもあります。しかし、あのアンサンブル全体を包み込み、時には大地を揺るがすようなバリッとした低音を響かせる快感は、他のどの楽器にも代えがたい魅力があります。

重さは物理的な事実ですが、それを「苦痛」にするか、あるいは「許容できる範囲の負荷」にするかは、ケース選びやストラップ、そしてちょっとした知識と工夫次第で大きく変えられます。現代には、先人たちが苦労して編み出した解決策や、便利なグッズがたくさんあります。「根性」で何とかしようとするのではなく、「道具」と「知恵」で解決してください。

「重いから」という理由だけで、この素晴らしい楽器を諦めてしまうのはあまりにも勿体無いです。ぜひ、最新のギアを賢く利用して、重さを克服し、快適で楽しいバリトン・ライフを手に入れてください。あなたの奏でる低音が、バンドのサウンドを支える日を楽しみにしています。

【参考リンク】
各メーカーの詳細なスペックや最新モデルの情報については、以下の公式サイトも参考にしてください。
(出典:ヤマハ | バリトンサックス – サクソフォン

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