トロンボーンを練習していると、「同じポジションなのに上の音へうまく移れない」「音を切り替えようとすると割れる」「ゆっくりならできるのに、速くすると急に力んでしまう」と悩むことがあります。
そんなときに取り組みたい基礎練習がリップスラーです。スライドを同じポジションに保ったまま、そこで鳴らせる異なる倍音へ移動する練習で、唇の柔軟性だけでなく、息の流れ、音域、音程の切り替え、レガートなどにもつながります。
名前に「リップ」と付いているため、唇を大きく動かして音を変える練習だと思いやすいかもしれません。しかし実際には、唇だけを大きく動かすより、アンブシュアをできるだけ安定させ、息、舌、口の中の形を細かく連動させることが重要です。
特に初心者のうちは、速さを求める必要はありません。速さよりも、息を止めず正確に倍音を移ることを優先すると、リップスラー本来の練習効果をつかみやすくなります。
ヤマハのトロンボーン向け個人基礎練習資料でも、リップスラーは音域や唇の柔軟性、レガートにつながる練習として扱われ、口ばかりではなく息の流れを大切にすることが示されています。
この記事では、トロンボーンのリップスラーの仕組みから、息・唇・舌の使い方、初心者向けの練習手順、うまくできない原因、さらにリップトリルへ発展させる方法まで順番に解説します。
- トロンボーンのリップスラーの意味と倍音の仕組み
- 息・唇・舌をどのように使えばよいか
- 初心者が2音から段階的に練習する方法
- リップスラーからリップトリルへ発展する考え方
トロンボーンのリップスラーとは
リップスラーを練習するときは、いきなり吹き方だけを覚えるより、「なぜ同じポジションなのに音が変わるのか」を理解しておくと取り組みやすくなります。
ポイントは、スライドで管の長さを変えるのではなく、同じ管長のまま別の倍音へ移ることです。この仕組みがわかると、上の音へ移るたびに口を大きく変える必要がないことも理解しやすくなります。
同じポジションで音が変わる仕組み
トロンボーンでは、同じスライドポジションでも1つの音だけが鳴るわけではありません。同じ管の長さのまま、複数の高さの音を出せます。
これは、その管長で鳴らせる音が倍音列として並んでいるためです。唇の振動数や開き方、息の速度、口腔内の形などが変わると、同じポジションでも違う倍音へ移れます。
リップスラーではスライド位置を固定し、低い倍音から高い倍音へ、あるいは高い倍音から低い倍音へ移動します。
リップスラーの基本
スライドで音程を変えるのではなく、同じポジションのまま倍音を切り替える練習です。最初の音はタンギングで始めても構いませんが、その後の音程移動では基本的に1音ずつタンギングしません。
たとえば、あるポジションで低い音を吹いたあと、スライドを一切動かさずに上の音へ切り替えられます。このとき変わっているのは管の長さではなく、主に唇の振動状態や息、口腔内の使い方です。
低い倍音同士は音程間隔が広く、高い倍音へ進むほど隣り合う倍音同士の間隔が狭くなります。このため、高音域では近い倍音を素早く往復するリップトリルへ発展させることもできます。
リップスラーを初めて練習すると、「高い音へ行くなら唇を強く締めればよいのでは」と考えるかもしれません。しかし、締める力だけで音程を変えようとすると、唇の振動が止まりやすくなります。
大切なのは、アンブシュアの土台を大きく崩さず、息の流れ、舌の高さ、口の中の広さなどを必要な範囲だけ調整することです。
また、倍音列に含まれる音には、平均律の音程と完全には一致しないものがあります。普段の基礎練習ではまず狙った倍音へ安定して移れることを重視し、より高い音域やリップトリルへ進んだときに、必要に応じてポジションや音程の微調整も考えていきます。
初心者の段階では、倍音という言葉を難しく考えすぎなくても大丈夫です。「スライドを動かさなくても、息や口の使い方によって別の高さの音へ移れる」と理解しておけば、まずは十分ですよ。
普通のスラーやレガートとの違い
リップスラーと、楽譜に書かれている普通のスラーは同じものではありません。
リップスラーは、基本的に同じスライドポジションで倍音を切り替える練習です。これに対して、実際の曲で演奏するスラーやレガートでは、スライドを動かして別のポジションへ移ることがあります。
トロンボーンはスライドで管の長さを連続的に変えられる楽器なので、組み合わせによっては舌をまったく使わずにスライドを動かすと、音と音の間がグリッサンド状につながってしまいます。
そのため通常のレガートでは、音の組み合わせによって軽いレガートタンギングを使い、グリッサンドのように聞こえないよう滑らかにつなぐことがあります。
楽譜上のスラーが常にノータンギングとは限りません。ここはトロンボーン初心者が混同しやすいポイントです。
一方、リップスラーはスライドを動かしません。つまり、スライド操作という要素を一度外し、息と倍音の切り替えに集中できます。
この切り分けが、トロンボーンではとても便利です。レガートがうまくいかない場合でも、リップスラーが不安定なのか、スライド操作が遅いのか、レガートタンギングがうまくいっていないのかを分けて考えやすくなります。
また、リップスラーとグリッサンドも仕組みが違います。
グリッサンドは基本的に同じ倍音を保ちながらスライドを連続的に動かし、途中の音程もつなげて変化させます。リップスラーはスライドを固定して倍音を切り替えるため、通常はスライド移動による連続的なグリッサンドとは別の動きです。
| 奏法 | スライド | 倍音 | 舌の扱い |
|---|---|---|---|
| リップスラー | 基本的に固定 | 切り替える | 最初の音以外は基本ノータンギング |
| 通常のレガート | 音に応じて移動 | 音により変化する | 必要に応じてレガートタンギング |
| グリッサンド | 連続的に移動 | 基本的に同じ倍音内 | 奏法に応じて異なる |
リップスラーはレガートの基礎につながりますが、リップスラーだけでトロンボーンのレガート全体が完成するわけではありません。実際の演奏では、スライドの速度やタイミング、必要なレガートタンギングも別に身につけていきます。
リップスラーで重要な息と口の使い方
リップスラーがうまくいかないとき、どうしても唇に意識が集まりがちです。しかし実際には、唇だけではなく、息、舌、口腔内の形、アンブシュア全体を連動させます。
特に初心者が最優先したいのは、音と音の間で息を止めないことです。そこができるだけでも、音の切り替わり方がかなり整理しやすくなります。
息を止めずに倍音を切り替える
リップスラーの土台は、途切れない一本の息です。
低い音を吹いて、いったん息を止め、改めて上の音を吹くのではありません。ロングトーンを吹いているような連続した空気の流れの中で、音程だけを切り替えます。
初心者がリップスラーをすると、音を変える瞬間だけ息まで弱くなることがあります。「次の音を狙わなければ」と考えた瞬間に身体が固まり、空気の流れも止まってしまうためです。
この状態では、音が一度途切れたり、反応が遅れたり、唇だけで無理に音を当てる動きになったりしやすくなります。
そこで、まずは「音を変える」のではなく、「息はそのまま流し続けて、その上で音程だけを移す」と考えてみてください。
リップスラーの息のイメージ
低音と高音を別々に吹くのではなく、一本の長い息の中に2つの音が乗っているイメージです。音程は変わっても、空気の流れそのものは途切れさせません。
上行するときは、唇を強く締めることだけに頼らず、必要に応じてより速い息を使います。ただし、「高音だから大量の息を力いっぱい吹く」という意味ではありません。
重要なのは、息の量だけを増やすことではなく、安定した流れと適切な速度を保つことです。力任せに吹くと、音量だけが急に大きくなったり、アンブシュアが崩れたりすることがあります。
下降するときも同じです。高い音から低い音へ移る瞬間に急に息を抜くと、低い音が広がりすぎたり、音程が下がりすぎたり、音色が大きく変わったりします。
上行でも下降でも、息の支えを残したまま音程だけを移すことが基本です。
また、音域によって音量が大きく変わっていないかも確認してみてください。上の音になると急に小さくなる場合は、唇を閉じすぎているかもしれません。反対に上の音だけ大きくなる場合は、強く息を吹き込みすぎている可能性があります。
下の音へ戻るたびに音量が大きくなる場合も、アンブシュアを一気に緩めていないか確認してみましょう。
最初の音はタンギングで発音して構いません。たとえば「トゥ」と発音して音を始め、その後は舌で1音ずつ区切らずに倍音を移動します。
2音目以降も毎回タンギングしてしまうと、確かに音は切り替わるかもしれません。しかしそれでは、リップスラーで身につけたい「息を流したまま自力で倍音を切り替える能力」を練習しにくくなります。
うまく切り替わらないときほど、舌で助けたくなるところです。そこをいったんゆっくりに戻して、ノータンギングで切り替えられる範囲を探すのが大切です。
唇と舌は必要最小限に動かす
「リップスラー」という名前から、唇を大きく動かすイメージを持つ人は多いと思います。
しかし、上の音へ行くたびに口角を横へ引き、下の音へ行くたびに大きく緩めるような動きは、安定したリップスラーにはつながりにくいです。
唇は振動を続けながら、次の倍音へ移るために張力や開口部の状態を細かく変えます。外から見た口の形を大きく変えるというより、アンブシュア全体を保ったまま微調整する感覚です。
高い音へ行くときに、唇を必要以上に強く閉じたり、口角を笑うように横へ引いたりすると、唇が振動しにくくなることがあります。
また、高音になるほどマウスピースを顔へ押しつけてしまう場合も注意が必要です。マウスピース圧だけで高い音を作ろうとすると、唇の自由な振動が妨げられやすくなります。
下降でも、アンブシュアを一気に脱力しないようにします。「下の音だから全部緩める」というより、息を支えたまま必要な分だけ状態を変える方が音色を保ちやすいです。
舌についても誤解しやすいところです。
リップスラーでは、最初の発音後に音ごとのタンギングは基本的に行いません。しかし「舌は何もせず完全に固定する」という意味ではありません。
舌は口腔内の形を作る一部です。上行するときは口の中をやや狭くし、高い母音へ近づくような感覚を利用すると、倍音の移動を助けやすくなることがあります。
下降するときは、やや低い母音をイメージし、口腔内を広げる方向へ調整する考え方があります。
たとえば「アー」から「イー」へ変えるようなイメージは、舌の高さの変化を理解する助けになります。ただし、これはあくまで補助的な感覚です。
実際に口を大きく「ア」「イ」と動かしたり、顎を大きく上下させたりする必要はありません。
母音イメージを絶対的な形にしないこと
適した舌の高さや口腔内の形には個人差があります。「この母音でなければいけない」と固定せず、音色や反応が安定する最小限の変化を探してください。
アンブシュアの見た目にも個人差があります。唇の厚さ、歯並び、顎の形、マウスピースなどが違うため、誰かの口元をそのままコピーすれば正解になるとは限りません。
鏡で口角の大きな動きを確認することは役立ちますが、外見だけで正解・不正解を決めないようにしましょう。
音色、反応、息の流れ、持久力、力みの少なさなどを合わせて見る方が、自分に合った形を判断しやすくなります。
初心者向けリップスラー練習手順
リップスラーは、難しいパターンをたくさんこなすことより、簡単なパターンを正確にできる状態から始める方が効率的です。
初心者なら、まず無理なく鳴らせる2つの倍音をゆっくり往復し、その後に3音、複数ポジション、テンポアップへ進みます。
練習前には、無理のないロングトーンなどで息と音色を整えておくとよいでしょう。吹き始めてすぐに高音域の高速リップスラーへ進む必要はありません。
2音の往復からゆっくり始める
最初は、同じポジションで出せる隣り合った2つの倍音を選びます。
ポイントは、「頑張れば何とか出る音」ではなく、普段からある程度安定して鳴らせる音を選ぶことです。
上の音を単独ではほとんど出せない状態なのに、その音をリップスラーだけで出そうとすると、どうしても力やマウスピース圧に頼りやすくなります。
まず低い音と高い音をそれぞれ単独で吹き、両方とも無理なく音の中心へ入れることを確認してください。
次に、低い音をタンギングで発音します。そのまま息を止めず、舌で発音し直さずに高い音へ移ります。高い音が安定したら、同じように低い音へ戻ります。
最初は1音を長めに保ちましょう。
たとえば「低い音を2拍→高い音を2拍→低い音を2拍」というように吹くと、切り替え直前と切り替え直後の状態を確認しやすくなります。
この練習で大切なのは、拍を守ること以上に、音を切り替える瞬間に息が止まらないことです。
メトロノームを使う場合、初心者が扱いやすい目安として四分音符=60前後から始める方法があります。ただし、この数字を絶対的な基準にする必要はありません。
あなたが安定して音を保てる速度なら、さらに遅くても構いません。
リップスラーでは、テンポよりも毎回同じ音程へ着地できることを優先してください。
上の音が出ない場合は、無理に何度も失敗を繰り返さず、一度リップスラーを中断します。
上の音だけをロングトーンで鳴らし、目標となる音程と吹奏感を確認します。必要ならピアノやキーボード、チューナーなどを利用して音の高さを確認してもよいでしょう。
その後、下の音も単独で吹きます。それぞれの音が安定したら、再び低→高→低とつないでみます。
マウスピースバズィングを補助的に使い、音程の移動を確認する方法もあります。ただし、マウスピースだけで無理に高音を作るのではなく、あくまで音程のイメージを確認する補助として扱うとよいでしょう。
音が割れる状態で速度を上げない
音が割れる、別の倍音へ飛ぶ、上の音だけ極端に細くなるといった状態では、テンポを上げるより一度速度を落としてください。速さでごまかすより、ゆっくり正確に切り替える方が土台を作りやすくなります。
低音から高音への上行だけでなく、「高→低」の下降も同じくらい練習しておくとバランスが良くなります。
上行はできても下降すると音が広がる人は、高音から下がる瞬間に息とアンブシュアを緩めすぎていないか確認してみてください。
3音と複数ポジションへ広げる
2音の往復が安定してきたら、同じポジション内で3つの倍音を使います。
たとえば「低→中→高→中→低」と往復します。
3音になると、2音練習では見えにくかった癖が出やすくなります。特に、一番高い音だけ急に音量が大きくなったり、音が細くなったりしやすいです。
このときも、音域を広げることより、各音の中心へ毎回きちんと入れることを優先しましょう。
高音へ行くたびにマウスピースを押しつけていないか、下の音へ戻るたびに口を大きく緩めていないかもチェックしてください。
3音を一息で吹けない場合、無理に息を残して最後まで続ける必要はありません。苦しい息で吹き続けると、息の支えが乱れ、正しい状態を確認しにくくなります。
適切な場所でブレスを取り、良い息でもう一度始めてください。
同じポジションで3音が安定したら、次はパターンを別のスライドポジションへ移します。
1番ポジションでできたパターンを2番、3番、4番へ移すと、同じような倍音関係を保ちながら全体の音程を下げて練習できます。
半音ずつ下降していく形にすると、同じ動きを複数ポジションで確認しやすいですよ。
外側のポジションへ移ると管が長くなるため、吹奏感や音程の感覚が少し変化します。「1番ではできたのに、外側では急に反応が悪い」と感じることもあるかもしれません。
その場合も、口の形を大きく変えるより、まず息の流れと目標音を確認します。
すべてのポジションでまったく同じ感覚になる必要はありませんが、音色、反応、息の流れが極端に変わらない状態を目指します。
段階的に広げる順番の一例
2音をゆっくり往復する → 一定テンポで繰り返す → 3音へ広げる → 複数ポジションへ移す → 少しずつテンポを上げる → 高い倍音を含むパターンへ進む、という順番で考えると整理しやすいです。
音色や反応が崩れたら、一段階前へ戻って構いません。
たとえば3音で崩れるなら2音へ戻す、4番ポジションで不安定なら吹きやすいポジションへ戻す、速くして崩れるならテンポを下げる、といった形です。
「戻る=後退」ではありません。安定した状態をもう一度確認することが、次の段階へ進む近道になることもあります。
音色を保ったままテンポを上げる
2音、3音、複数ポジションで安定してきたら、少しずつテンポを上げていきます。
ただし、テンポアップはリップスラー練習のゴールではありません。
速くなっても、音程、音色、息、リズムが崩れないことが重要です。
テンポを上げる前のチェック
- 遅い速度で毎回正しい音へ移れる
- 音の切り替えで息が止まらない
- 最初の音以外をタンギングせずに移れる
- 高音だけ極端に細くならない
- 低音だけ急に大きくならない
- 楽器を顔へ強く押しつけていない
- 上行と下降の両方が同程度に安定している
これらが安定した範囲で、メトロノームを少しずつ上げます。
速度を上げたとたんに音が割れる、リズムが不均等になる、首や肩に力が入る、口角が大きく動くといった変化が出たら、そのテンポは現在のあなたには速すぎる可能性があります。
一段階下げて、音色と音程をもう一度そろえてください。
また、速くすると「音を切り替えよう」という意識が強くなりすぎ、息が細切れになることがあります。
テンポが上がっても、息そのものは一本につながっている状態を保ちます。音は速く動いていても、空気の流れまで細かく区切る必要はありません。
練習時間についても、長時間続ければ必ず良くなるわけではありません。
初心者なら、ウォームアップや基礎練習の一部として数分から始め、唇の状態を見ながら量を調整する方法が取り入れやすいです。
何分練習すれば必ず上達する、という一律の基準はありません。あなたの疲労状態や、その日のコンディションを優先してください。
唇の振動が鈍くなる、音が急に荒れる、高い音が反応しなくなる、普段より極端に吹きにくいといった状態が出たら休憩します。
痛みを感じている状態で続ける必要もありません。
疲れた状態で高速練習を続けない
疲労してくると、正しいフォームを保つ代わりにマウスピース圧や力で音を出そうとしやすくなります。質が崩れてきたら、量を増やすより休む判断も大切です。
練習では、メトロノームだけでなくチューナー、ピアノやキーボード、録音、鏡なども使えます。
メトロノームでは往復の均等さを、チューナーでは各音の中心を確認できます。ただし、チューナーの針だけを見続けるのではなく、耳でも音程を聞いてください。
録音は、演奏中には気づきにくい音量差やリズムの乱れを確認するのに便利です。鏡では、音のたびに口角が大きく動いていないか、高音で楽器を顔へ押しつけていないかなどを確認できます。
リップスラーができない原因と対処
リップスラーがうまくできないときは、「才能がない」「唇が向いていない」と考える必要はありません。
原因を分けてみると、息が止まっている、目標音が不明確、アンブシュアの変化が大きすぎる、テンポが速すぎるなど、修正できるポイントが見つかることがあります。
症状ごとに確認すると、どこを直せばよいのか整理しやすいですよ。
上の音が出ない・音が割れる場合
上の音へ移れないときは、まず「もっと唇を締めればよい」と考えないようにしましょう。
主な原因として、息の速度不足、唇の締めすぎ、口腔内の変化不足、目標音のイメージ不足、あるいは現在の演奏能力に対して音域が高すぎることなどが考えられます。
最初に確認したいのは、上の音を単独で安定して吹けるかどうかです。
単独でもほとんど出せない音なら、リップスラーで何度も無理に当てにいくより、その音を普通に鳴らせる状態を作る方が先です。
一度上の音をロングトーンで吹き、音程と音色を確認します。続いて下の音も同じように吹きます。
両方の音のイメージができたら、再び低→高とつなぎます。
上の音へ移る瞬間に息を止めないことも重要です。「高音へジャンプする」というより、すでに流れている息の中で次の倍音へ焦点を移すイメージを持つとよいでしょう。
音が割れる場合は、アンブシュアを急激に変えすぎている可能性があります。
低い音から高い音へ行くたびに口角を大きく引く、顎を大きく動かす、唇を強く閉じるといった動きがあると、狙った倍音以外へ飛びやすくなります。
速度を落とし、2音だけの練習に戻してください。
切り替え幅を必要以上に大きくせず、息を先に流し、その息の中で倍音を切り替える意識を持ちます。
高音だけ音が細くなる場合は、マウスピース圧や唇の閉じすぎも疑ってみてください。
高い音へ行った瞬間に息まで細くなっていないか、あるいは息の支えが弱く、締める力だけで高音を作ろうとしていないかを確認します。
無理な高音で練習しない
出せない高音を力ずくでリップスラーするより、無理のない音域へ戻り、上下の音質をそろえる方が基礎を作りやすくなります。
下降が苦手な場合は、高→低の2音だけを取り出して練習します。
高い音から下の音へ移る瞬間にアンブシュアと息を一気に緩めると、低音が広がりすぎたり、着地する音程が安定しなかったりします。
下降でも息の支えを残し、低い音へ着地したあとまで音色を保ちます。
上行ばかり練習していると、下降だけ苦手な状態になりやすいので、両方向を同じくらい確認しておくと安心です。
ここまで試しても、息・アンブシュア・口腔内のどこを直せばよいのか自分では判断しにくい場合があります。そうしたときは、トロンボーンのレッスンで実際の吹き方を見てもらうのも一つの方法です。
余計な音や息切れが起こる場合
低い音から高い音へ移る途中で、意図していない別の音が混ざることがあります。
これは、倍音を切り替える動きが曖昧だったり、途中にある別の倍音へ一瞬反応したりすることで起こる場合があります。
初心者だと、「もっと速く切り替えれば余計な音が聞こえなくなるのでは」と思うかもしれません。
しかし、基本練習では速さで隠すより、遅いテンポの中で切り替える瞬間を明確にする方が効果的です。
息は連続させても、倍音を切り替える瞬間は曖昧にしないことを意識してください。
たとえば低い音を2拍伸ばし、決めた拍の頭で上の音へ移り、また2拍伸ばします。
息は最初から最後までつながっています。しかし音程の切り替わる場所ははっきりしています。
目標音を頭の中でイメージできているかも大切です。
音の高さが曖昧なまま吹くと、どの倍音へ移ればよいのか身体側も迷いやすくなります。必要なら、吹く前に目標音を聞いたり、声で軽く確認したりするのもよいでしょう。
音ごとに息が途切れる場合は、「一音ずつ発音する」という考えが強すぎる可能性があります。
この場合は、ロングトーンを1音吹き、そのまま息を切らずに途中で倍音だけを移す練習をしてみてください。
最初の音以外でタンギングしないことで、息が本当に続いているかも確認できます。
口を大きく動かしてしまう場合は、鏡で確認する方法があります。
上へ行くたびに口角が横へ動き、下へ行くたびに大きく戻るようなら、外側の動きを少し小さくしてみましょう。
ただし、鏡で見た形だけが判断基準ではありません。アンブシュアには個人差があります。
見た目が少し動いていても、音色、反応、持久力が安定している場合もあります。逆に見た目が動いていなくても、内部で力みすぎていることもあります。
録音して、高音と低音の音量差や音色差、余計な倍音、リズムの乱れを聞き返すのも有効です。
セルフチェックの例
- 最初の音以外でタンギングしていないか
- 切り替えの瞬間に息が止まっていないか
- 高音へ行くときだけ肩や首に力が入っていないか
- マウスピースを顔へ押しつけていないか
- 口角が音ごとに大きく動いていないか
- 上行と下降の両方が均等か
- 高低で音量が大きく変わっていないか
- 毎回同じ音程へ着地できているか
チェック項目が多く感じる場合は、一度に全部直そうとしなくて大丈夫です。
今日は息、次は口角、その次は音量差というように、一つずつ確認した方が、自分の変化を把握しやすいこともあります。
セルフチェックを続けても原因を切り分けにくいときは、実際の音や口元をその場で確認してもらうと整理しやすくなります。初心者で対面レッスンも検討するなら、EYS音楽教室の特徴やレッスン内容を確認してみるのもよいでしょう。
リップスラーからリップトリルへ
リップスラーが安定してきたら、その先の発展技術としてリップトリルがあります。
リップトリルは、いきなり「唇を高速で動かす技」と考えるより、正確な2音のリップスラーを少しずつ高速化したものと考えると理解しやすいです。
そのため、リップトリルに進みたい人ほど、まず遅いリップスラーを丁寧に整えることが大切です。
リップトリルとの違い
リップスラーとリップトリルは関連していますが、同じものではありません。
リップスラーは、同じポジションで異なる倍音へ滑らかに移動する基礎技術です。ゆっくりした2音から練習でき、柔軟性、息の流れ、音域、音の跳躍、レガートなどにつながります。
一方、リップトリルは、近接する2つの倍音を高速で繰り返し往復する奏法です。ヤマハもトロンボーンのリップトリルについて、スライドを動かさず同じポジションで吹き方を素早く切り替えて2音を往復する奏法として紹介しています。
高い倍音域ほど隣接する倍音同士の間隔が狭くなるため、その性質を利用するとトリルとして聞こえる速い往復が可能になります。
つまり、リップトリルは安定したリップスラーの延長にある発展技術と考えるとわかりやすいでしょう。
| 項目 | リップスラー | リップトリル |
|---|---|---|
| 基本動作 | 倍音間を滑らかに移動する | 近接する2つの倍音を高速で往復する |
| 練習速度 | ゆっくりした2音から始められる | 安定した切り替えを段階的に高速化する |
| 主な役割 | 柔軟性、息、音域、レガートなどの基礎 | 装飾的な高速往復を行う発展奏法 |
| スライド | 基本的に同一ポジション | 基本的に同一ポジション |
| 初心者の優先度 | 基礎として重要 | リップスラー安定後に取り組みやすい |
リップトリルでは、対象となる2音によって代替ポジションを利用する場合があります。
高音域の倍音には、平均律の音程と完全には一致しないものがあり、通常ポジションのままだとトリルの片方の音程が大きく外れる場合があるためです。
代替ポジションを使うと、同じ音でも別の倍音の組み合わせを利用できるため、音程や吹きやすさが改善することがあります。
ただし、「リップトリルなら必ずこのポジション」という共通の一つの答えはありません。
対象となる音、音域、楽器、奏者によって確認が必要です。まずはリップスラーそのものを安定させ、その後に実際に必要なトリルの音程に合わせて確認していきましょう。
高速化するときの練習ポイント
リップトリルへ進むときも、最初から最高速度で往復する必要はありません。
まずは2音のリップスラーをゆっくり、均等に行います。
四分音符程度の感覚で安定して往復できたら、八分音符、さらに細かい音価というように、少しずつ1音あたりの長さを短くしていきます。
ここで重要なのは、速くなっても2つの音程がはっきり聞き分けられることです。
速くした結果、ただ音が震えているだけで「どちらの音へ移っているのかわからない」という状態になったら、一度テンポを下げます。
トリルは速ければよいわけではありません。
2音の音程が明確で、往復のリズムが均等で、音色が崩れず、息が止まっていないことが重要です。
また、速くしようとして口全体を大きく上下させる必要はありません。
速度が上がるほど、外側から見える大きな動きより、効率のよい小さな調整が必要になります。
ゆっくりしたリップスラーの段階から、口角や顎を大きく動かさずに切り替える感覚を身につけておくと、そのまま高速化へつなげやすくなります。
高音域でトリルをしようとすると、唇を締める力だけで速度を作りたくなるかもしれません。しかしそれでは、唇の振動が制限されやすくなります。
息の流れを維持し、舌や口腔内の小さな変化も利用しながら往復します。
リップトリルまでの練習順
- 良い姿勢と無理のないブレス
- 安定したロングトーン
- 目標音を単独で安定して出す
- 2音の遅いリップスラー
- 3音以上のリップスラー
- 複数ポジションへの移調
- 音色を保ったテンポアップ
- 高い倍音域への拡張
- 近接倍音を使ったリップトリル
この順番は絶対ではありませんが、初心者が何から手を付ければよいかわからないときの目安になります。
特に、リップトリルがうまくいかないからといって、トリルだけを高速で繰り返す必要はありません。
土台となる2音のリップスラーへ戻ると、原因が見つかることがあります。
たとえば、遅い速度でも上行で息が止まっているなら、高速化するとさらに不安定になります。遅い速度でも音程が毎回違うなら、速くしたときに2音が曖昧になりやすいです。
反対に、遅い2音で息、音程、音色、リズムがそろっていれば、その動きを少しずつ短くしていくことでトリルへ近づけます。
リップスラーにもリップトリルにも、「この速さまでできれば完成」という絶対的な基準はありません。
必要な速度は曲や音域によって変わります。速さの数字より、音程、音色、均等性、息の流れを保てる範囲を少しずつ広げることを目標にしてください。
トロンボーンのリップスラーに関するよくある質問
Q1. リップスラーでは唇を大きく動かしますか?
A. 大きく動かすことが目的ではありません。アンブシュアをできるだけ安定させ、息の流れ、舌の高さ、口の中の形、唇の振動状態を必要な範囲で細かく調整しながら倍音を切り替えます。上の音へ行くたびに口角を大きく引いたり、下へ戻るたびに大きく緩めたりする場合は、動きを少し小さくできないか確認してみてください。
Q2. リップスラーでは舌をまったく使わないのですか?
A. 音を1音ずつタンギングする目的では、基本的に最初の発音以外で舌を使いません。ただし、舌の高さは口腔内の形を作る要素なので、倍音の移動を助けるために変化します。「ノータンギング」と「舌を完全に固定すること」は別と考えるとわかりやすいです。
Q3. 上の音へ行くときは唇を締めればよいですか?
A. 唇を締める力だけに頼らない方がよいです。息の速度や口腔内の調整も使いながら上の倍音へ移ります。過度に締めたり、マウスピースを顔へ押しつけたりすると、唇の振動が妨げられ、音が細くなったり疲れやすくなったりすることがあります。
Q4. 息を強く吹けば高い音になりますか?
A. 単純に息の量を増やせば高音になるわけではありません。安定した息の流れと適切な速度、アンブシュア、舌や口腔内の形のバランスが必要です。力任せに吹き込むのではなく、音色や反応が安定する範囲で調整してください。
Q5. 何番ポジションから練習すればよいですか?
A. まずは吹き慣れていて、複数の倍音を安定して確認できるポジションから始めて構いません。1番ポジションで形を作り、そのパターンを2番、3番と外側へ移していく練習も取り入れやすい方法です。
Q6. 毎日練習した方がよいですか?
A. 基礎練習の一部として定期的に取り入れることはできますが、唇の疲労状態を優先してください。唇の反応が極端に落ちている、痛みがある、高音が急に出にくくなったなどの状態では、無理に続けず休む判断も必要です。
Q7. リップスラーをすると高音が出るようになりますか?
A. リップスラーは、倍音間を移る柔軟性や息のコントロールを整える練習になるため、高音域を演奏する基礎の一つになります。ただし、リップスラーだけで高音が必ず出るようになるわけではありません。呼吸、アンブシュア、音色、持久力なども関係します。
Q8. リップスラーとリップトリルは同じですか?
A. 関連していますが同じではありません。リップスラーは倍音間を滑らかに移る基礎技術で、リップトリルは近接する2つの倍音を高速で繰り返し往復する発展奏法です。まず遅いリップスラーを安定させ、少しずつ音価を短くしていくと理解しやすいです。
Q9. リップトリルではスライドを動かしますか?
A. 基本的には同一ポジションのまま2つの倍音を往復します。対象となる音によっては音程を整えるために代替ポジションを選ぶ場合がありますが、トリル中にスライドを交互に往復させることが基本という意味ではありません。
Q10. 音の間にグリッサンドのような音が聞こえます
A. スライドを固定したリップスラーでは、基本的にスライド移動による連続したグリッサンドは発生しません。別の倍音を途中で拾っていないか、あるいは実際にはスライドが動いていないか確認してみてください。息を流したまま、切り替えの瞬間だけ明確にする練習も役立ちます。
Q11. どれくらい速くできれば完成ですか?
A. 一律の完成速度はありません。目的や音域によって必要な速度は異なります。まずは音程、音色、息、リズムを崩さず演奏できる範囲を広げてください。速さを上げた結果、音程や音色が崩れるなら、その一段階前のテンポへ戻すのがおすすめです。
まとめ
トロンボーンのリップスラーは、同じスライドポジションで鳴らせる異なる倍音へ、基本的にタンギングを挟まず移る基礎技術です。
「リップ」という名前でも、唇だけを大きく動かして音を変えることが目的ではありません。
アンブシュア全体をできるだけ安定させ、息の流れ、舌の高さ、口腔内の形、唇の振動状態を必要な範囲で連動させることが重要です。
初心者は、まず無理のない2音をゆっくり往復してください。最初の音を発音したら、その後はタンギングせず、一本の息の中で倍音を切り替えます。
2音が安定したら3音へ広げ、複数ポジションへ移し、音色や音程を保てる範囲で少しずつテンポを上げていきます。
上の音が出ない、音が割れる、余計な音が入る、息が途切れるといった問題が出たときは、力で押し切らず、一度テンポや音域を戻して原因を確認しましょう。
高音だけを力で当てたり、マウスピースを強く押しつけたり、すべての音をタンギングしてしまったりすると、リップスラー本来の練習目的から外れやすくなります。
そしてリップトリルは、こうして安定させたリップスラーを高速化し、近接する2つの倍音を連続して往復する発展技術です。
速さを優先するより、2音の音程、音色、均等性、息の流れを保つことが大切です。
リップスラーを練習すると、倍音間の移動、息の連続性、音の跳躍、柔軟性、高音域、レガートなど、トロンボーン演奏のさまざまな基礎へつなげやすくなります。
一度で完璧にできなくても大丈夫です。簡単な2音から丁寧に繰り返し、できる範囲を少しずつ広げていきましょう。

