この記事でわかること(30秒でチェック)
- 水分や結露による「ウォーターノイズ」のメカニズムと、プロ直伝の除去方法
- 「死んだリード」が引き起こすビリビリ音と、正しいリードの育て方・捨て時
- 「低音が汚い」原因であるモーターボーティング現象と、息のコントロール術
- 楽器のネジ緩みが引き起こす「共振(ビビリ音)」の特定方法とセルフケア
- 無意識に喉が鳴ってしまう「喉鳴り」の矯正トレーニング
練習中に突然、愛用のサックスから「ジージー」「バリバリ」といった異音が混じり始めると、楽器が壊れたのではないかと不安になりますね。
特に、気持ちよくソロを吹いている時や、繊細なバラードを演奏している時に限って、この無機質なノイズは顔を出します。
高音域や特定の音だけで「ビーー」とリードが鳴り止まなくなったり、低音で「ゲゲゲ…」と汚い音が混じったりすると、練習に集中できなくなるどころか、「自分の吹き方が悪いのか?」「いや、楽器の故障か?」と疑心暗鬼になり、演奏そのものが怖くなってしまうことさえあります。
私の音楽高校時代の友人であるサックス奏者たちも、初心者の頃はこの「謎の雑音」によく悩まされていました。
ある友人は、「買ったばかりの楽器が壊れた!」と大騒ぎしてリペアショップに駆け込んだものの、店員さんに「ただの水滴ですね」と笑って返されたという、今となっては笑い話のような失敗談を持っています。
実はこの「ビリビリ現象」、楽器の故障であるケースは稀で、日常的なメンテナンス不足や、ちょっとした奏法(アンブシュアや息)のコツを知らないことが原因で起きることがほとんどです。
この記事では、サックスの音色がビリビリする原因を「楽器の状態」と「奏者の技術」の両面から徹底的に分解し、クリアで美しい音を取り戻すための具体的な対処法について、プロの現場でも使われているテクニックを交えて解説します。
サックスの音色がビリビリする主な原因
サックスの音に混じる「ビリビリ」「ジージー」という雑音は、その聞こえ方や発生するタイミングによって、原因をある程度特定することができます。
大きく分けて、「水分(水滴)」「リード(消耗品)」「楽器本体(パーツ)」の3つに原因が潜んでいることが多いそうです。
「もしかして故障かな?」と焦って楽器店に持ち込む前に、まずは自分でできるチェックポイントを網羅しました。
一番可能性の高い原因から順番にチェックしていけば、リペアに出す時間とお金をかけずに、意外とあっさり解決することも多いですよ。
まずは、最も頻度が高く、かつ最も簡単に解決できる「水分」の問題から見ていきましょう。
つば抜きで雑音を解消する基本手順
私の周りのサックス奏者たちが口を揃えて言うのは、「異音の原因の8割は水分(つば・結露)」だということです。
管楽器、特にサックスのような金属製の楽器は、温かい息を大量に管内に吹き込む構造上、外気との温度差でどうしても管内に「結露」が発生します。
冬場の窓ガラスに水滴がつくのと同じ原理ですね。
この水分が溜まると、管内を流れる息の気流に乗って振動し、「ジュルジュル」「ジージー」「チリチリ」という不快な音(ウォーターノイズ)を引き起こします。
これは物理的な現象なので、どんなに上手なプロ奏者でも、どんなに高価な楽器を使っていても、避けては通れない問題なんです。
特に冬場や、夏場でもエアコンがガンガンに効いたスタジオなどでは、楽器の金属が冷え切っているため、温かい息を入れた瞬間に滝のように結露が発生します。
プロの現場の映像をよく見ると、MC中や数小節の休みがあるたびに、奏者が頻繁にスワブを通している姿が見られるはずです。
あれは単に綺麗好きだからではなく、水分によるノイズや音程の狂いを防ぐために、執念深くケアをしている証拠なんですね。
「さっき通したばかりだから大丈夫」と油断せず、音が少しでも濁ったり、レスポンスが悪くなったと感じたら、すぐに水分を除去する癖をつけましょう。
【基本的な水分の取り方:完全版】
単にスワブを「通す」だけでなく、以下の手順で「拭き取る」意識を持つことが重要です。
- マウスピースを外して拭く
まずはここです。リードとマウスピースのレール(平らな面)の間に水膜ができると、リードの振動が物理的に阻害されて「ビーー」という音が鳴ります。
リードを外し、水分を丁寧に拭き取ってください。
スワブを通すのが面倒な時は、強く「スッ!」と息を吸い込む(バキュームする)ことで一時的に水分を取り除く応急処置も有効です。 - ネックのスワブ通し(要注意!)
ネックは管が急激に細くなっているため、最も水が溜まりやすい場所ですが、同時に「スワブが詰まる事故」が最も起きやすい魔のゾーンでもあります。
必ずネック専用(Sサイズ)のスワブを使い、シワにならないように伸ばしてから、詰まらせないように慎重に通してください。
万が一詰まったら、絶対に無理に引っ張らず、すぐにリペアマンに相談してください。無理に抜こうとしてネックを変形させてしまうケースが後を絶ちません。 - 本体のクリーニングと「水捨て」
管体本体にもスワブを通しますが、サックスの構造上、ベルの底(U字管部分)に大量の水が溜まっていることがあります。
スワブを通す前に、一度楽器を逆さにして、ベルから水を「ジャバッ」と捨ててからスワブを通すと、スワブがびしょ濡れにならずに済みます。 - タンポの吸水(クローズドキー)
クリーニングペーパーを使って、普段閉じているキー(クローズドキー:Ebキーやサイドキーなど)のタンポの水分も吸い取ります。
特にサイドキー(右手の手のひらで押すキー)は、重力に従って水が流れ込みやすい構造になっているため、ここが水没して「チリチリ」鳴っていることが非常に多いです。
これらを一通り行うだけで、嘘のように音がクリアになり、「なんだ、故障じゃなかったんだ」とホッと胸を撫で下ろすことがよくあります。
また、水分を放置することは音色の問題だけでなく、楽器の寿命にも関わります。
タンポ(パッド)は革とフェルトでできているため、水分を吸うと硬化したり、カビが生えたり、破れやすくなったりします。
タンポ交換のリペア代は、全部交換すると数万円〜十万円コースになることもあるので、日々のこまめな「つば抜き」は、大切なお財布を守るためにも絶対に欠かせない作業です。
ちなみに、使用するスワブの「素材」にもこだわってみてください。
昔ながらの綿(ガーゼ)素材のものよりも、最近主流の「マイクロファイバー素材」や「シルク素材」の方が、吸水性が高く、管内に糸くずを残しにくいのでおすすめです。
また、スワブ自体も消耗品です。
何年も使ってクタクタになったスワブや、何度も洗濯して繊維が詰まったスワブは、吸水性が著しく落ちています。
「最近、スワブを通しても湿り気が取れないな」と感じたら、新品のスワブに買い換えるだけで、ノイズの悩みが解決することもありますよ。
オクターブキーの水詰まりの抜き方
全体のスワブ通しを完璧にやったはずなのに、特定の音、特にオクターブキーを押した「ラ(A)」や「ソ(G)」あたりだけで「ジジッ」「ジュルル」と鳴る経験はありませんか?
これはサックス奏者あるあるの一つで、ネックの上部にあるオクターブキーの極小のトーンホール(音孔)に、頑固な水膜ができている可能性が非常に高いです。
この穴は直径1ミリにも満たないほど小さいため、一度水膜(シャボン玉の膜のようなもの)が張ってしまうと、表面張力で強力に張り付き、管内にスワブを通しただけではなかなか取れない、非常に厄介な場所なんです。
なぜここばかり水が詰まるのかというと、構造上の理由があります。
ネックの部分は息の流れ(気流)が最も速く、かつ乱流が起きやすい場所です。
そこに小さな穴(オクターブホール)があると、空気の流れの変化によって結露した水滴が吸い寄せられ、穴に集まってしまうのです。
ここで、私の音楽仲間のプロ奏者に聞いた、現場で使える即効性のある「オクターブキーの水抜きテクニック」を紹介します。
練習中や本番の合間、リハーサル中に「あ、詰まった!」と思った時にサッとできるので、ぜひ覚えておいてください。
【裏技:オクターブキーのブレス水抜き(バズーカ法)】
クリーニングペーパーを取り出す時間がない時や、急いでいる時に有効な方法です。
- ネックを本体から外します(つけたたまでも可能ですが、外した方が確実に狙えます)。
- オクターブキーを指で押して、トーンホールを完全に開いた状態にします。
- その小さな穴の裏側(コルク側)ではなく、表側の穴に向かって、口を近づけます。
- 強く、短く、鋭く「フッ!!」と息を吹きかけます。
- この風圧により、穴に張った水膜を物理的に吹き飛ばし、破壊することができます。
ただし、これはあくまで一時的な応急処置です。
完全に水分を除去し、再発を防ぐには、やはりクリーニングペーパー(吸水紙)を使うのが一番確実です。
クリーニングペーパーの端を細くねじって「こより」状にし、開いたトーンホールに優しく差し込んで、中の水分を直接吸い取ってください。
ここで一つ、重要な注意点があります。
「紙ならなんでもいいだろう」と思って、市販のあぶらとり紙や、質の悪いティッシュペーパーで代用するのは絶対にNGです。
これらの紙は繊維が弱く、水に濡れるとボロボロと崩れてしまうことがあります。
その紙の繊維(カス)が穴の中に残ってしまうと、水膜どころか物理的な「ゴミ詰まり」を引き起こし、音が全く出なくなったり、リペアに出して分解掃除をしなければならなくなったりするからです。
必ず、楽器店で売っている楽器専用のクリーニングペーパーを使用しましょう。
また、パウダー(粉)付きのペーパーも、粉がタンポに付着してベタつきや固着の原因になることがあるので、最近は「パウダーなし」のタイプが主流でおすすめです。
強くこすりすぎるとタンポの表面を傷つけるので、あくまで「吸わせる」感覚で優しく行うのがポイントです。
もし、頻繁にここが詰まるようなら、一度リペアマンに相談して、オクターブキーのトーンホールの内側を掃除してもらう(長年の水垢やホコリが溜まっていて、水を引き寄せやすくなっている場合があります)のも一つの手です。
私の友人も、リペアで「トーンホールのバリ取りと掃除」をしてもらってから、水詰まりが劇的に減ったと言っていました。
リードの寿命とセッティングの影響
水分ではない場合、次に疑うべき犯人は「リード」の状態です。
サックスの音は、マウスピースに取り付けたリードが高速で振動することで生まれます。
このリードは、葦(アシ・ケーン)という天然の植物を乾燥させて削ったものであり、非常にデリケートな「生もの」のような消耗品です。
寿命が近づいてコシ(弾力)がなくなったリードは、先端が波打ったり、左右のバランスが崩れたりして、異常な振動音(ビリビリ音)を発することがあります。
また、長時間の練習でリードが水分を含みすぎて「ふやけた(水ぶくれ)」状態になっても、音が濁りやすくなります。
バンドのリハーサル中でも、サックスのメンバーが「あ、リードが死んだかも」と言って交換するシーンをよく見かけますが、これはリードが水分を吸いすぎて腰砕けになり、正常な振動ができなくなった合図なんですね。
植物繊維が水分で飽和状態になると、パリッとした高音が鳴らなくなり、代わりに「ジジジ」という雑音成分が増えてしまうのです。
【危険信号!こんなリードは即交換(ゴミ箱行き)】
- 先端の欠け・割れ:どんなに小さな欠けでも、そこから風が漏れて気流が乱れ、「ピー」「ビリビリ」というノイズの原因になります。
- 波打ち現象:乾燥した状態で先端が波打って変形しているものは、湿らせても元の平面に戻らないことが多いです。
- 透けすぎ:光に透かした時、繊維の密度がスカスカになっている部分や、逆に筋が太すぎる部分は、振動が安定しません。
- 変色・カビ:全体的に黒ずんでいたり、ポツポツとカビのような点があるものは、音色以前に衛生面でNGです。肺にカビの胞子を入れることになります。
「リードは高いから、限界まで使いたい…」という気持ち、ベーシストの私にも痛いほど分かります。
ベースの弦も高いので、煮沸して再利用しようとしたことがありますが、やはり新品の音には戻りませんでした(笑)。
しかし、ダメになったリードを使い続けることは、変なアンブシュアの癖がつく最大の原因になります。
鳴らないリードを無理やり鳴らそうとして、強く噛んだり、息を力ませたりしてしまうからです。
これは「百害あって一利なし」です。
リードを長持ちさせ、常に良い状態で吹くためのコツとして、プロも実践しているのが「リードのローテーション」です。
1枚のリードを吹き潰れるまで使い続けるのではなく、3〜4枚の「一軍リード」を用意し、毎日順番に交代で使います。
こうすることで、リードに「乾燥して休む時間」を与えることができ、寿命が飛躍的に伸びます。
新しいリードに変えて「あ、ビリビリ音が消えた!」となるなら、原因は明らかにリードの寿命です。
また、リードのセッティング位置も重要です。
マウスピースの先端からリードが髪の毛1本分くらい出ているのが標準ですが、これが左右にズレていたり、極端に出すぎていたりすると、触れてはいけない部分が振動してノイズになります。
リガチャーのネジの締めすぎにも注意が必要です。
ネジを親指の爪が白くなるほど全力で強く締めると、リードが締め付けられて振動しなくなります。
リードが動かない程度に、優しく固定してあげるのが、クリアな音色を出すコツだと、私の周りの上手な人は皆言っていますね。
最近では、水分を吸わない「樹脂製リード(レジェールなど)」も進化しており、本番でのトラブルを避けるためにこれらを使用するプロも増えています。
低音がビリビリ鳴る時の改善ポイント
サックスという楽器において、低音域(特に最低音のドやシ、シ♭あたり)は、初心者にとって最初の「壁」と言われるほどコントロールが難しい音域です。
中音域までは普通に出るのに、下のドに降りてきた途端に「バリバリ」「ゲゲゲ…」と汚い音が鳴ったり、音が裏返ってしまったりする現象に悩む人は後を絶ちません。
私の周りのサックス奏者たちも、「低音のピアニッシモ(弱奏)がきれいに決まると一人前」「低音を制するものはサックスを制する」とよく言っています。
この低音域で発生する「ビリビリ音」には、実は明確な物理的理由と、それに対する改善策があります。
まず、低音で音が割れる原因の多くは、「息のスピード不足」か「アンブシュアの噛みすぎ(締めすぎ)」のどちらか、あるいはその両方が複合的に絡んでいます。
サックスは管が長くなればなるほど(低い音になればなるほど)、音を鳴らすために必要な空気の「量」と「圧力」のバランスがシビアになります。
高音域と同じような、細くて速い息のスピードで吹こうとすると、管内の空気が十分に共鳴せず、リードだけがバタバタと暴れてしまうのです。
これはホースでの水まきに例えると分かりやすいです。
ホースの先を摘んで水を細く速く飛ばすのが「高音」だとすれば、ホースの先を全開にして、太い水をドボドボと流すのが「低音」です。
低音を出すのにホースの先を摘んで(口を締めて)しまっては、水が暴れてしまうのと同じことですね。
【低音ビリビリの正体:モーターボーティング】
低音を吹こうとした時に「ボボボボ…」と、まるでモーターボートのアイドリングのような断続的な音が鳴ることがあります。
これは専門用語でもそのまま「モーターボーティング(Motorboating)」と呼ばれます。
これは、アンブシュア(口の締め具合)が緩すぎて、リードの振動を制御しきれていない状態です。
「低音は口を緩める」と教わった初心者が陥りやすい罠で、下顎を下げすぎて支えがなくなり、リードが勝手に暴れてしまい、このような断続的な破裂音になってしまいます。
ジャズの「サブトーン(あえて息漏れさせる渋い音)」とは全く別物の、コントロール不能なノイズですので、修正が必要です。
逆に、高音と同じ感覚で強く噛んでしまう(バイトしてしまう)と、今度はリードの振動が完全に殺されてしまいます。
その結果、音が詰まったような「ビーー」という苦しそうな音になったり、突然「キャー!」と高音が鳴るリードミス(スクイーク)が発生したりします。
つまり、低音のビリビリを消すには「緩めすぎず、噛みすぎず」という絶妙なポイントを見つける必要があるのです。
私の知人のジャズサックス講師は、「低音こそ、温かく太い息をたっぷりと送り込むイメージが大事」と語っていました。
口先だけで音程をコントロールしようとするのではなく、お腹からの支え(腹圧)を使って、太い息の柱を管の底までズドンと落とす感覚です。
イメージとしては、寒い日に凍えた手を温める時に「ハァー」とやる、あの湿り気のある温かい息です。
あの息の成分で、スピードだけ少し上げてあげる(圧力は保ったまま)と、ビリビリしない豊かな低音が鳴るようになります。
また、使用しているマウスピースとリードの相性も関係します。
特に、開き(ティップオープニング)が広いジャズ用のマウスピースや、バッフルが高い(ハイバッフル)マウスピースに、硬すぎるリードを合わせていると、低音の発音が極端に難しくなります。
もしどうしても低音が汚くなる場合は、リードの番手を0.5下げてみる(例えば3番から2半にする)のも有効な手段です。
柔らかいリードは振動しやすいため、少ない力で素直に鳴ってくれます。
練習方法としては、出しやすい「ソ(G)」の音から半音ずつ下がっていく「下降音階」の練習がおすすめです。
「ソ、ファ、ミ、レ、ド…」と、上の音の響きを保ったまま、息を太くしながら降りていくことで、低音の正しいアンブシュアを掴みやすくなります。
金属音のビビリはパーツの緩みを疑う
もし、あなたのサックスから聞こえる「ビリビリ」が、リードの振動音ではなく「ジーーン」「ビリリリ」という硬質な金属的な響きなら、それは楽器本体のパーツが共振している「ビビリ音(Buzzing)」かもしれません。
サックスという楽器は、数百個の精密な金属パーツが組み合わさってできています。
演奏中、管体は常に振動しているわけですが、どこかのネジが一本でも緩んでいると、その振動エネルギーが逃げて、緩んだパーツが激しく暴れて雑音を発します。
これが「共振」によるビビリ音の正体です。
「特定の音程(例えば真ん中のレ、や、特定のサイドキーを押した時だけ)を吹いた時だけ、ジジジと鳴る」というケースは、このパーツ共振が濃厚です。
なぜ特定の音だけかというと、すべての物体には「固有振動数」があり、その音程の周波数と、緩んだパーツの固有振動数が一致した時だけ、共鳴現象が起きて激しく振動するからです。
これはベースのアンプの上に物を置いた時、ある音程(Aの音など)だけビビリ音がするのと全く同じ物理現象ですね。
【自分でチェックできる!ビビリ音の3大発生源】
私の周りのリペアマンに聞いた、「持ち込まれる修理の中で特に多い緩み箇所」ベスト3です。まずはここを疑ってください。
- 譜面立て(ライヤー)のネジ
マーチングなどで使う小さな譜面立てを挿すためのネジ(ライヤーホルダーのネジ)です。
普段使わない人が多いので盲点になりがちですが、このネジが微妙に緩んで遊んでいると、ものすごい音量で「ジーーン!」と鳴ります。
使わないなら外してケースにしまうか、逆にしっかり最後まで締めておきましょう。これが原因No.1だそうです。 - キーガードのネジ
低音部(ベル周辺)の大きなキー(B、Bb、Cなど)を守っている金属のガードを止めているネジです。
振動が直接伝わる場所なので、非常に緩みやすいです。
指で触ってカタカタ動くようなら、それが犯人です。 - ネックスクリュー
ネックを本体に固定するネジです。
ここが緩いと音がスカスカになるだけでなく、接合部で金属同士が擦れてノイズが出ます。
演奏中に無意識に緩んでくることもあるので、こまめに確認が必要です。
これらのネジの緩み程度なら、精密ドライバー(100均のもので十分ですが、サイズが合わないとネジ山を潰すので注意!)を使って自分で軽く締めるだけで直ります。
ただし、「キイの軸」や「調整ネジ(小さなマイナスネジ)」を適当に回すのは絶対にNGです。
これらは1ミリ回すだけで音が出なくなったり、全体のバランスが崩壊したりする非常にデリケートな部分です。
素人が触って良いのは「ガードのネジ」や「ライヤーのネジ」など、明らかに演奏機能(キーの連動)に関係ない外装部分だけだと心得てください。
また、ネジ以外にも、キーメカニズムのオイル切れが原因で「カチカチ」「金属が擦れる音」がすることもあります。
ローラー(小指キーなどについている黒や白の回転パーツ)が経年劣化で痩せてしまい、隙間ができてカタカタ鳴ることもあります。
この場合は、グリスを塗ることで一時的に収まることもありますが、基本的には部品交換などの修理が必要です。
ヤマハなどの大手メーカーも、定期的な点検を推奨しています。
自分で原因が特定できない「金属的な異音」は、無理に触らずプロに任せましょう。
リペアマンに持っていく際は、「どの音(音程)を吹いた時に」「どんな強さで吹いた時に」鳴るかを具体的に伝えると、原因特定がスムーズになりますよ。
サックスの音色がビリビリしないための奏法
ここまで、水分、リード、楽器本体といった「ハードウェア(道具)」側の原因を詳しく見てきました。
しかし、楽器の状態が完璧にメンテナンスされ、新品の最高級リードをつけていても、まだ「ビリビリ」「ジージー」という雑音が消えないことがあります。
その場合、非常に申し上げにくいのですが、原因は「ソフトウェア」、つまりあなた自身の奏法(吹き方・身体のコントロール)にある可能性が高いです。
「えっ、自分のせいなの?」と落ち込んでしまう必要は全くありません。
むしろ、自分の奏法が原因なら、高い修理代を払ったり新しい楽器を買ったりしなくても、練習次第で今日からでも劇的に音色を改善できるチャンスがあるということです。
実際、プロのサックス奏者たちは、どんなにボロボロの安物の楽器(学校の備品など)を使っても、それなりに艶のある良い音を出してしまいます。
それは、彼らが「楽器をビリビリさせない身体の使い方」を熟知しており、楽器のポテンシャルを最大限に引き出す術を知っているからです。
ここでは、クリアで芯のある音色を出すために意識すべき身体のコントロールについて、私の周りのベテラン奏者や講師たちの意見を参考に、理論的に解説します。
正しいアンブシュアで振動を安定させる
サックスの音色は、マウスピースをくわえる口の形(アンブシュア)で9割決まると言っても過言ではありません。
特に初心者のうちは、音を出そうと必死になるあまり、無意識に顎や唇に過剰な力が入ってしまいがちです。
「ビリビリ」と音が割れる、音が詰まったように聞こえる、高音がキツイ…これらの悩みの根源にあるのが、下唇でリードを強く噛みすぎている「バイト(Biting)」という悪癖です。
リードは、マウスピースとのわずかな隙間で高速振動することで音を生み出します。
しかし、下顎に力を入れてギュッと噛み締めてしまうと、リードが物理的にマウスピースに押し付けられ、振動するためのスペースが失われてしまいます。
その結果、本来豊かに響くはずの倍音成分が死んでしまい、「ビーー」という平坦なノイズ混じりの音や、歪んだ汚い音になってしまうのです。
これは、ギターの弦を指でミュート(消音)しながら弾いているような状態と同じで、楽器本来の鳴りを自ら殺してしまっている非常にもったいない状態です。
【理想のアンブシュア:噛むのではなく「包む」】
熟練の奏者は「噛む」という言葉を極端に嫌います。
彼らの口の中では、下顎はリラックスしており、歯でリードを押し上げるような力はほとんど働いていません。
代わりに、「口の周りの筋肉(口輪筋)全体で、マウスピースを全方向から均等に包み込む」イメージを持っています。
例えるなら、和菓子の巾着袋の口を紐で「キュッ」と締めるような感覚、あるいは太いストローでタピオカを吸う時の口の形に近いかもしれません。
上下の歯で挟む「縦の力」ではなく、唇の横から中心に向かって寄せる「円形の力」で支えることで、リードにかかる過度な圧力を逃し、自由な振動を助けることができます。
練習中に下唇の裏側が痛くなる人は、明らかに「噛みすぎ」のサインです。
また、アンブシュアの安定には「マウスピースパッチ」の使用を強くおすすめします。
マウスピースの上部(上の歯が当たるところ)に貼る小さなゴムやシリコンのシールですが、これがあるだけで上の歯が滑らなくなり、楽器が口の中でピタッと固定されます。
楽器が安定すると、人間は本能的に「噛んで支えよう」とする無駄な力を抜くことができます。
その結果、自然と噛み癖が直り、アンブシュアがリラックスして、リードが伸び伸びと振動できるようになるのです。
数百円で買えるアイテムですが、音色改善効果と歯の保護効果は絶大です。
まだ使っていない人は、ぜひ厚さ0.3mm〜0.5mm程度のものから試してみてください。
喉が鳴る無意識な癖を直すトレーニング
自分では意外と気づきにくい「ビリビリ音」の正体として、「喉鳴り(うなり)」があります。
これは、演奏中に無意識に喉の奥で「ウー」「アー」「グー」といった声を出してしまっている状態です。
ジャズやロックサックスの世界では、これを意図的に行って音を歪ませ、迫力を出す「グロウル奏法(Growl)」という高度なテクニックがあります。
しかし、意図せず無意識に鳴ってしまっている場合は、単なる不快なノイズ(濁り)として聞こえてしまいます。
特に、高音域を出す時や、力んで大きな音を出そうとした時、あるいは緊張している時に、喉がキュッと絞まって声帯が振動してしまう人が多いようです。
これが音に混じると、どんなに綺麗な音色を目指しても、「ガーガー」「ザーザー」という砂嵐のような雑音が常に乗ってしまいます。
私の友人も、「録音した自分の演奏を聴いたら、バックでずっと低い声で誰かが唸っているような音がして心霊現象かと思った」と言っていました(笑)。
本人は必死に吹いているので、自分の声が出ていることに全く気づかないのが、この癖の恐ろしいところです。
【喉鳴りのセルフチェックと矯正法】
自分が喉を鳴らしているかどうかを確認するには、以下の方法が有効です。
- 他人に聴いてもらう:静かな部屋でロングトーンをし、誰かに耳を楽器のベルではなく、奏者の口元や喉元に近づけてもらいます。楽器の音とは別に「ウー」という声が漏れていないか確認してもらいます。
- スマホで録音:自分の顔のすぐ近くにスマホを置いて録音します。再生すると、喉の音が明瞭に拾われているはずです。
【矯正トレーニング:あくび奏法】
この癖を直すには、「喉を開く(声帯を開く)」感覚を体に覚えさせる必要があります。
一番わかりやすいイメージは「あくび」です。
あくびをする直前、喉の奥がグワッと広がって、冷たい空気が喉の奥に当たる感じがしますよね。
あの「開いた状態」をキープしたまま、息を「ハァー」と吐く練習をしてみてください。
喉が開いていると声帯が振動しにくくなるため、クリアな息だけをスムーズに楽器に送り込めるようになります。
最初は楽器を使わず、マウスピースだけをくわえて、音を出さずに息だけを流す練習から始めると、感覚が掴みやすいですよ。
また、「歌うように吹く」というアドバイスを真に受けて、本当に喉で歌ってしまう人がいますが、これは間違いです。
サックスにおける「歌う」とは、フレージングや抑揚のことであり、物理的に声を出すことではありません。
喉はリラックスさせて、ただの「太いパイプ」に徹することが、クリアな音色への近道です。
低音が裏返る原因と息の使い方
サックス奏者を悩ませる「低音の裏返り(スクイーク)」も、ビリビリ音の一種と言えます。
低い「ド」や「レ」を出そうとした瞬間に、「キェー!」と甲高い音が鳴ったり、「ビリッ」と音が割れたりする現象です。
これは、息のコントロールミスによって、楽器が本来出すべき音(基音)ではなく、その上の倍音(オーバートーン)を誤って鳴らしてしまっている状態です。
サックスは構造上、同じ指使いでも息のスピードやアンブシュアを変えることで、1オクターブ上の音や、さらにその上の倍音が出るように設計されています。
つまり、低い音を出したいのに、息のスピードが速すぎたり、噛む力が強すぎたりすると、楽器が「あ、高い音を出したいんだな」と勘違いして、上の音を出そうとしてしまうのです。
この「どっちの音を出せばいいの?」という楽器の迷いが、あの「ビリッ」「キェー」という不安定な音として現れます。
特に初心者は、低い音を出すのが怖くて、つい体に力が入ってしまい、結果的に息のスピードが上がって裏返るという悪循環に陥りがちです。
私のバンド仲間によると、低音を安定させるコツは「口の形(アンブシュア)は変えずに、口の中の広さと息の柱の太さを意識する」ことだそうです。
「低音は口を緩める」と教わることがありますが、緩めすぎるとピッチが下がり、コントロールが効かなくなります。
口の周りの筋肉(フレーム)は高音域と同じ状態を保ちつつ、口の中(口腔内)の容積を広く保ちます。
具体的には、「オ」と発音する時の口の中の形をイメージしてみてください。
舌の付け根が下がって、口の中がドーム状に広くなりますよね。
この状態で息を入れると、息のスピードが自然と抑制され、太くて豊かな、温かい息の流れが生まれます。
これが低音域の大きなリードの振動とマッチし、裏返りのないドッシリとした低音が出るようになります。
逆に「イ」の口の形だと、舌が盛り上がって空気の通り道が狭くなり、息が鋭くなりすぎて裏返りやすくなるので注意が必要です。
「オ」の口で、お腹から「ホォーー」と温かい息を楽器の底まで届けるイメージで吹いてみてください。
雑音のないクリアな音色を作る基礎練習
最終的に「ビリビリ」しない、透き通ったプロのような良い音を作るには、地道な基礎練習が欠かせません。
その王道にして最強の練習法が、やはり「ロングトーン」です。
「なんだ、またロングトーンか」「退屈だな」と思われるかもしれません。
しかし、プロが毎日欠かさずロングトーンをするのには理由があります。
彼らはただ長く吹いているのではなく、「最初から最後まで、顕微鏡で見ても一直線に見えるような、揺れやノイズのない純粋な音」を作るための精密作業として行っているのです。
多くの人は、音の出だし(タンギング直後)で「ガッ」とアクセントがついたり、音の終わり際(リリース)で「フラフラ〜」とピッチが下がったり、途中で「ジジッ」とノイズが混じったりしています。
これらを一つ一つ自覚し、修正し、無意識でもできるようにしていく作業こそがロングトーンの本質です。
雑音を消すためにおすすめなのが、私の友人も実践している「壁吹き練習」です。
【効果絶大!壁吹きロングトーンのやり方】
- 譜面台ではなく、コンクリートや硬い壁の前に立ちます(距離は30cm〜50cmくらい)。
- 壁に向かって、自分の音が一番響くポイントを探しながらロングトーンをします。
- 効果:自分の出している音が壁に反射して、ダイレクトに耳に戻ってきます。
- これにより、普段は遠くに飛んでいって聞こえない微細なノイズ(ビリビリ、シューシューという息漏れ音)が、驚くほどはっきりと聞こえるようになります。
- 「あ、今噛みすぎたな」「息が弱くて音が震えたな」という原因と結果がリアルタイムで分かるため、効率よくアンブシュアや息の調整ができます。
この練習で、壁から跳ね返ってくる音が「ビリビリ」しない、一番艶のあるポイント(スイートスポット)を見つけてください。
その時の口の形、息の圧力、喉の状態を体に覚え込ませます。
それを何度も反復することで、無意識でもその「クリアな音が出るフォーム」に入れるようになります。
スポーツのフォーム固めと全く同じですね。
毎日5分でも良いので、何も考えずにテレビを見ながら吹くのではなく、「世界一きれいな音を出す」つもりで、壁と向き合ってロングトーンに取り組んでみてください。
1ヶ月も続ければ、自分でも驚くほど見違えるような音色になっているはずです。
サックスの音色がビリビリする悩みまとめ
サックスの「ビリビリ音」は、楽器からのSOSサインです。
「苦しいよ(噛みすぎだよ)」「水が溜まって気持ち悪いよ」「ネジが緩んでるよ」という楽器の声を無視して練習を続けても、上達しないばかりか、変な癖がついてしまったり、楽器の寿命を縮めたりすることになりかねません。
逆説的ですが、ビリビリ音がするということは、あなたの耳が成長し、「良い音」と「悪い音」を聞き分けられるようになった証拠でもあります。
まずは焦らずに、記事で紹介したように水分除去とリードの確認を徹底してください。
これだけで解決することが大半です。
それでも直らなければ、パーツの緩みや自分自身の奏法(アンブシュアや喉の開き)を見直してみましょう。
原因さえ分かれば、必ずクリアで美しい音色を取り戻すことができます。
もし、これらをすべて試してもどうしても解決できない場合は、決して無理に自分でなんとかしようとせず、プロのリペアマンに見てもらうのが一番の近道です。
「こんな些細なことで持って行っていいのかな?」と遠慮する必要はありません。
リペアマンは楽器のお医者さんです。早期発見・早期治療が、楽器を長持ちさせる秘訣です。
楽器が健康な状態であって初めて、私たちは演奏を心から楽しむことができるのですから。
ビリビリ音のない快適な状態で、サックスという素晴らしい楽器を一生の趣味として楽しんでくださいね。
あなたのサックスライフが、より豊かで楽しいものになることを応援しています!



