ジャズトランペットの名曲|初心者が聴きたい定番と有名奏者

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ジャズトランペット名曲の楽しみ方

ジャズトランペットの名曲を探すときは、曲名だけを見るのではなく、誰が、どの録音で演奏しているかまで確認することが大切です。ジャズでは同じ曲でも、奏者、録音年代、編成、テンポ、アレンジによって印象が大きく変わります。

クラシックでは、同じ作品を複数の演奏家が演奏する場合でも、基本的には作曲者が書いた作品そのものを軸に聴くことが多いでしょう。一方、ジャズでは元のメロディやコード進行を土台にしながら、その場のアドリブやアレンジによって演奏内容が大きく変化します。そのため、同じ曲名でも「誰の演奏を聴くか」が重要になります。

たとえば「My Funny Valentine」は多くのジャズ奏者が演奏しているスタンダードですが、チェット・ベイカーの代表的なレパートリーとしてもよく知られています。同じ曲を別のトランペット奏者が演奏すれば、音色、フレージング、テンポ感、アドリブの方向性は異なります。

ジャズトランペットを初めて聴く場合は、「有名な曲」を並べて聴くだけでなく、異なる個性を持つ奏者を聴き比べると、それぞれの魅力が分かりやすくなります。曲名と奏者名をセットで覚えることが、ジャズトランペットを楽しむための大切な入口です。

曲名だけでなく奏者と録音を確認

ジャズでは、作曲者、アルバムのリーダー、実際にトランペットを吹いている奏者が一致しないことが珍しくありません。

たとえば「Moanin’」はボビー・ティモンズの作曲で、代表的な録音はArt Blakey & The Jazz Messengers名義です。しかし、その録音でトランペットを担当しているのはリー・モーガンです。そのため、リー・モーガンの演奏を知る目的で「Moanin’」を聴くことにも意味があります。

「Blue Train」も同様です。曲の作曲者とアルバムのリーダーはテナーサックス奏者のジョン・コルトレーンですが、トランペットにはリー・モーガンが参加しています。リー・モーガン名義のアルバムではなくても、彼のハードバップらしいトランペットを味わえる重要な録音です。

フレディ・ハバードの場合も、「Watermelon Man」や「Maiden Voyage」といったハービー・ハンコックの作品で重要な演奏を残しています。「Watermelon Man」ではブルースやR&Bの感覚を持った親しみやすいテーマの中で、「Maiden Voyage」ではよりモーダルで浮遊感のあるハーモニーの中で、ハバードの演奏を聴けます。

つまり、ジャズトランペットの名演を探す場合は、トランペット奏者本人のリーダー作だけに限定しない方が幅広く楽しめます。サイドマンとして参加した録音にも、その奏者の魅力がよく表れているからです。

ジャズトランペットの名曲を探す場合は、次の3点をセットで見ると混乱しにくくなります。

  • 曲名
  • トランペット奏者名
  • アルバム名や録音年代

さらに厳密に確認したい場合は、参加メンバーまで見ておくとよいでしょう。同じアルバムでも曲によって参加者が違う場合があります。また、同じ曲名でもスタジオ録音、ライブ録音、別テイクが存在することがあります。

配信サービスやCDでは、同じアルバム名の旧盤、リマスター版、デラックス版などが並ぶことがあります。特定の名演を聴きたい場合は、曲名だけで判断せず、録音年代やクレジットまで確認することが重要です。

音色とアドリブを聴き比べる

ジャズトランペットを楽しむうえで分かりやすいポイントが音色です。奏者によって、明るく力強い音、柔らかく繊細な音、鋭い高音、暗く抑制された音など、印象が大きく異なります。

マイルス・デイヴィスは音数を詰め込みすぎず、間を生かしたフレージングを聴き取りやすい奏者です。一方、ディジー・ガレスピーは高速フレーズや広い音域、複雑なハーモニーを使ったビバップらしい演奏で知られています。

チェット・ベイカーは柔らかな音色と歌うようなフレージングが特徴で、クリフォード・ブラウンは明るく豊かな音と滑らかな高速フレーズを聴き比べやすい奏者です。リー・モーガンはブルース感の強い力強い演奏、フレディ・ハバードは太い音と強いアタック、高い技術力を確認しやすいでしょう。

聴き比べるときは、単に「うまい」「速い」と判断するのではなく、音の出し方やフレーズの組み立て方に注目してみてください。

  • 音色が明るいか暗いか
  • 音の立ち上がりが鋭いか柔らかいか
  • ビブラートを大きく使うか控えめに使うか
  • 長い音を使うか細かな音符を多く使うか
  • 休符や間をどの程度使うか
  • 中低音を中心にするか高音域を積極的に使うか
  • ブルーノートやベンドなどブルース的な表現が多いか
  • テーマからアドリブへどのように変化するか
  • サックス、ピアノ、ベース、ドラムとどのように掛け合っているか

特に初心者は、まず「音が明るいか暗いか」「フレーズが細かいかゆったりしているか」「休符が多いか少ないか」という3点だけでも意識すると違いを感じやすくなります。

また、ミュートの有無にも注目してみましょう。トランペットはベルにミュートを装着することで音色を変えられます。マイルス・デイヴィスのハーマンミュートを使った演奏は代表例の一つです。オープンで吹いたときとは異なる、細くダークな音色を感じられる録音があります。

トランペット奏者がフリューゲルホルンへ持ち替える場合もあります。フリューゲルホルンは一般にトランペットより丸く柔らかい音色を得やすく、フレディ・ハバードやドナルド・バードなども使用しています。厳密に聴き分けたい場合は、曲ごとのクレジットを見ると使用楽器を確認しやすくなります。

速さだけでなく音色・間・リズムを聴くと、ジャズトランペットの違いが一段と分かりやすくなります。

初心者が聴きたい定番名曲

ジャズトランペットを初めて聴く場合は、いきなり高度なビバップだけに絞るよりも、テンポや音色、グルーヴの異なる代表曲を順番に聴くと、それぞれの違いを理解しやすくなります。

最初から「最高の1曲」を決める必要はありません。ジャズトランペットには時代やスタイルによって異なる魅力があり、静かな演奏が好きな人もいれば、ブルージーで力強い演奏を好む人もいます。

最初は複数の代表曲を少しずつ聴き、「この音色が好き」「このテンポなら聴きやすい」と感じた奏者やスタイルを手がかりに広げていくとよいでしょう。

So WhatとMy Funny Valentine

マイルス・デイヴィスの「So What」は、1959年に発表されたアルバム『Kind of Blue』に収録された代表曲です。モード・ジャズを代表する録音の一つで、マイルスの音数を抑えたフレージングや、間を生かした演奏を聴き取りやすい曲です。

細かな音符を大量に並べる演奏とは異なり、少ない音でも強い存在感を生み出せることが分かります。ジャズトランペットというと派手な高音や高速フレーズを想像する人にとって、別の魅力を知る入口になります。

「So What」を聴くときは、マイルスのソロだけでなく、音を出していない時間にも注目してください。フレーズとフレーズの間に空間があり、その余白が次の音を印象的にしています。

同じ『Kind of Blue』には「Freddie Freeloader」や「All Blues」も収録されています。1曲だけで終わらずアルバム全体で聴くと、マイルスだけでなくジョン・コルトレーン、キャノンボール・アダレイ、ビル・エヴァンスなど、他の演奏者との違いも感じやすくなります。

対照的に、チェット・ベイカーの「My Funny Valentine」は、柔らかく繊細な音色と歌うようなフレージングを楽しみやすいレパートリーです。この曲はリチャード・ロジャース作曲、ロレンツ・ハート作詞のミュージカル曲であり、チェット・ベイカーの作曲ではありません。

ジャズではこのように、本人が作曲していない曲でも特定の奏者と強く結び付くことがあります。「代表曲」という言葉が、必ずしも「本人が作曲した曲」という意味ではないことを覚えておくと混乱を防げます。

チェット・ベイカーにはボーカル入りの録音もあります。歌手としても知られているため、トランペットだけを聴きたい場合は、再生前に収録内容や演奏形態を確認するとよいでしょう。

「So What」と「My Funny Valentine」を続けて聴くと、どちらも派手な技巧を全面に出さない場面がありながら、その音色やフレーズの方向性が異なることに気付きやすくなります。

The SidewinderとMoanin’

リー・モーガンの「The Sidewinder」は、ブルース、R&B、ソウルジャズの感覚を取り入れたグルーヴが特徴です。1963年に録音され、1964年に発売された同名アルバムに収録されています。

テーマが覚えやすく、24小節のブルースを基盤にした親しみやすい構成を持っています。ブルージーで力強いトランペットを聴きやすいため、複雑なジャズよりもリズムが分かりやすい曲から入りたい人にも向いています。

リー・モーガンのトランペットは、明るさと鋭さを持ちながら、ブルースのニュアンスも濃く感じられます。細かな理論を知らなくても、テーマやグルーヴを追いながら楽しみやすいのが魅力です。

「Moanin’」も初心者がハードバップの雰囲気をつかみやすい代表的な録音です。曲の作曲者はボビー・ティモンズで、リーダーはドラマーのアート・ブレイキーです。

リー・モーガンはこの録音でトランペットを担当しています。テーマではサックスとトランペットのアンサンブルを楽しめ、ソロではリー・モーガンらしいブルース感と力強さを聴くことができます。

「The Sidewinder」と「Moanin’」を聴き比べると、同じリー・モーガンでもリーダー作とサイドマン参加作品では周囲の音楽的な文脈が違うことが分かります。また、リー・モーガンという一人の奏者を軸に、異なるバンドや作品へ聴き進める楽しみ方もできます。

Joy SpringとA Night in Tunisia

クリフォード・ブラウンの「Joy Spring」は、明るく豊かな音色、滑らかな高速フレーズ、分かりやすいメロディをまとめて聴ける代表曲です。

クリフォード・ブラウンは1930年生まれで、1956年に25歳で亡くなりました。活動期間は短かったものの、後世のジャズトランペット奏者に大きな影響を与えています。

速いフレーズでも旋律感があり、単に音を細かく並べているようには聴こえにくいのが魅力です。技巧だけでなく、メロディックなアドリブを聴きたい場合にも適しています。

クリフォード・ブラウンをさらに聴きたい場合は、「Daahoud」や「Cherokee」などへ広げると、速い曲での技術とフレーズ構築の特徴を確認できます。

ディジー・ガレスピーの「A Night in Tunisia」は、ビバップを代表する楽曲の一つです。独特のリズムと高度なハーモニーを持ち、ガレスピーの高速フレーズや広い音域を確認できます。

ディジー・ガレスピーはチャーリー・パーカーらとともにビバップの形成に大きく関わった奏者です。複雑なコード進行や速いテンポの中で展開されるアドリブは、初めて聴くと情報量が多く感じられるかもしれません。

その場合は、最初から全ての音を追おうとせず、テーマのリズム、トランペットの高音域、フレーズの勢いといった分かりやすい要素から聴くとよいでしょう。

テーマやアドリブは演奏難度も高いため、鑑賞初心者にはビバップの特徴を知る曲として、演奏初心者には将来的な学習目標として考えると分かりやすくなります。

West End BluesとRed Clay

ルイ・アームストロングの1928年の「West End Blues」録音は、初期ジャズからソロを重視する演奏へ発展していく流れを理解するうえで重要です。

曲そのものを作曲したのはジョー“キング”オリヴァーですが、Louis Armstrong and His Hot Fiveによる1928年の録音が歴史的な名演として知られています。

冒頭のトランペットによるカデンツァや、力強い音、旋律を変化させていく即興性は、その後のジャズトランペットにつながる要素として聴くことができます。

録音年代が古いため、現代の音源とは音質が大きく異なります。低域や高域の聞こえ方、録音の鮮明さを現代作品と同じ基準で比較するのではなく、1920年代の録音であることを踏まえて聴くことが大切です。

フレディ・ハバードの「Red Clay」は、1970年に発表された同名アルバムの代表曲です。ハードバップから、よりファンキーなジャズやクロスオーバーへ向かう時代の流れを感じられます。

ハバードの太く鮮明な音、強いアタック、広い音域を聴きやすく、マイルス・デイヴィスとは異なる押し出しの強いトランペットを比較したい場合にも適しています。

「West End Blues」と「Red Clay」には大きな時代差があります。続けて聴くことで、トランペットという楽器がジャズの中で長く重要な役割を担いながら、音楽そのものは大きく変化してきたことが分かります。

有名ジャズトランペット奏者

ジャズトランペットには、時代ごとに大きな影響を残した奏者がいます。一人だけを聴くのではなく、複数の奏者を比較することで、ジャズトランペットの表現の幅が見えてきます。

誰が「最も有名」なのかを一人に決めることはできません。ジャズ史の重要性、録音の知名度、後世への影響、音楽スタイルなど評価軸が異なるためです。

初心者は、ルイ・アームストロング、ディジー・ガレスピー、マイルス・デイヴィスを歴史的な軸として押さえ、そこからチェット・ベイカー、クリフォード・ブラウン、リー・モーガン、フレディ・ハバードなどへ広げると時代差と個性を整理しやすくなります。

マイルスとチェットの音色の違い

マイルス・デイヴィスは1926年生まれ、1991年没のアメリカのトランペット奏者です。ビバップ以降、クールジャズ、ハードバップ、モード、エレクトリックジャズなど、複数の時代で重要な作品を残しました。

特徴は、音数を抑えたフレージング、独特の間、ダークな音色、ミュートを使った演奏などです。超高音や高速技巧だけに頼らず、音の選択と空間を重視するスタイルを確認できます。

代表作として『Kind of Blue』『’Round About Midnight』『Sketches of Spain』『Bitches Brew』などがありますが、作品によって音楽性は大きく異なります。

初心者が最初に聴くなら『Kind of Blue』は入りやすい代表作ですが、それだけでマイルスの全てを判断することはできません。1950年代と1970年代前後ではサウンドが大きく異なるため、興味が深まったら時期の違う作品も聴いてみるとよいでしょう。

一方、チェット・ベイカーは1929年生まれ、1988年没のトランペット奏者・歌手です。1950年代のウエストコーストジャズやクールジャズを語る際に代表的な奏者です。

柔らかく繊細な音色、叙情的なフレーズ、抑制の効いた演奏が特徴です。同じように音数を詰め込みすぎない場面があっても、マイルスとは音色やフレーズの組み立て方が異なります。

「So What」と「My Funny Valentine」を続けて聴くと、静かな表現の中にも異なる個性があることを理解しやすくなります。

チェット・ベイカーは歌手としての録音も多いため、「Chet Baker Sings」のような作品を選ぶ場合はボーカルが含まれることも覚えておきましょう。トランペット演奏だけを聴きたいときは、曲ごとの編成を確認する必要があります。

ブラウンとリー・モーガンの魅力

クリフォード・ブラウンは1930年生まれ、1956年没のトランペット奏者です。25歳で交通事故により亡くなったため活動期間は短いものの、その後のトランペット奏者に大きな影響を与えました。

マックス・ローチとのクインテットで重要な録音を残しており、豊かで温かい音色、高度なテクニック、流麗でメロディックなアドリブが特徴です。

速い曲でも音が荒れた印象になりにくく、フレーズの流れが滑らかです。バラードと速い曲の両方を聴くと、単なる技巧派にとどまらない幅広さが分かります。

「Joy Spring」「Daahoud」「Cherokee」などは、ハードバップ系のトランペットを知るうえで代表的な録音です。

リー・モーガンは1938年生まれ、1972年没で、Blue Noteを代表するハードバップ・トランペット奏者の一人です。Art Blakey’s Jazz Messengersでも活躍しました。

明るく鋭い音、ブルース感、ファンキーで力強いフレージングが特徴で、「The Sidewinder」が代表曲として知られています。

また、John Coltraneの『Blue Train』、Art Blakey & The Jazz Messengersの『Moanin’』などでも演奏しています。本人名義の作品だけでなく、サイドマン参加作品も一緒に聴くと、異なるバンドの中でどのように存在感を示しているかが分かります。

ブラウンとリー・モーガンを比較すると、同じハードバップ系でも音色やブルース感、フレーズの方向性が違うことが分かります。同じスタイルでも奏者ごとの個性は大きく違うという点は、ジャズを聴くうえで重要です。

アームストロングとディジー

ルイ・アームストロングは1901年生まれ、1971年没で、アメリカ・ニューオーリンズ出身のジャズ史初期を代表する重要人物の一人です。トランペットとコルネットを演奏し、歌手としても広く知られています。

力強く輝きのある音、明確なリズム感、歌うようなフレージングが特徴です。初期ジャズにおいて、個人のソロが大きな存在感を持つようになる流れを理解するうえで重要な奏者です。

「West End Blues」だけでなく「Potato Head Blues」などへ広げると、初期ジャズにおけるアームストロングのトランペット表現をさらに確認できます。

ディジー・ガレスピーは1917年生まれ、1993年没で、チャーリー・パーカーらとともにビバップの発展に重要な役割を果たしました。

高音域、高速フレーズ、複雑なハーモニー、高度なリズム感が特徴です。アフロ・キューバン音楽とジャズの融合でも重要な存在で、「A Night in Tunisia」「Groovin’ High」「Manteca」などが代表曲として知られています。

ベルが上向きに曲がったトランペットを使用していた姿でも知られますが、この形状はジャズトランペット全般に共通するものではありません。

アームストロングからガレスピーへと時代を追って聴くと、ジャズトランペットの即興がどのように複雑化し、より高度なハーモニーやリズムへ広がっていったかを比較できます。

ハバードからロイ・ハーグローヴへ

フレディ・ハバードは1938年生まれ、2008年没で、1960年代以降を代表するトランペット奏者の一人です。Art Blakey’s Jazz Messengersに参加したほか、ジョン・コルトレーン、ハービー・ハンコック、エリック・ドルフィー、オーネット・コールマンなど幅広い奏者の録音にも参加しています。

力強い音色、高度なテクニック、広い音域、強いアタックが特徴です。トランペットだけでなくフリューゲルホルンも演奏しています。

『Open Sesame』『Ready for Freddie』『Red Clay』『Straight Life』など自身の作品に加え、「Maiden Voyage」「Watermelon Man」を含むハービー・ハンコック作品など、サイドマンとしての演奏にも重要な録音があります。

ドナルド・バードは1932年生まれ、2013年没で、1950~60年代にはハードバップを代表するトランペット奏者として活動しました。

初期には明瞭な音や正確なアーティキュレーション、メロディックな演奏を聴けますが、1970年代にはファンクやR&Bを取り入れた方向へ大きく変化します。「Black Byrd」などを聴くと、アコースティックなハードバップだけではないジャズトランペットの広がりを感じられます。

ウィントン・マルサリスは1961年生まれで、ジャズとクラシックの双方で活動するトランペット奏者です。1980年代以降のアコースティック・ジャズを語る際に重要な存在で、明確な音、精密なアーティキュレーション、高度な技術が特徴です。

クラシック作品の録音も多いため、ジャズ作品を探す場合はアルバムのジャンルや収録曲を確認するとよいでしょう。現在の活動や経歴は、Jazz at Lincoln Centerの公式プロフィールでも確認できます。

ロイ・ハーグローヴは1969年生まれ、2018年没で、1990年代以降を代表するジャズトランペット奏者の一人です。ストレートアヘッド・ジャズだけでなく、ラテン、R&B、ヒップホップ系の音楽家とも共演しました。

「Strasbourg/St. Denis」では、覚えやすいテーマとファンキーなグルーヴの中で、ソウルフルで歌心のあるトランペットを聴けます。古典的なジャズトランペットから、より新しい世代へ進む入口として聴きやすい曲です。

さらにジャズトランペットの幅を広げたい場合は、ケニー・ドーハム、ブルー・ミッチェル、アート・ファーマー、ウディ・ショウ、サド・ジョーンズ、ファッツ・ナヴァロ、メイナード・ファーガソン、クラーク・テリー、テレンス・ブランチャードなどへ進むと、多様な音色やスタイルに触れられます。

時代で分かるトランペットジャズ

ジャズトランペットは、ジャズそのものの変化とともに演奏スタイルを広げてきました。

同じ「ジャズトランペット」という言葉でも、1920年代と1970年代以降では、リズム、編成、録音方法、ハーモニー、アドリブの考え方まで大きく異なります。時代順に聴くと、個々の奏者だけでなくジャズ全体の変化も理解しやすくなります。

1920~30年代には、ルイ・アームストロングが重要な存在となり、ニューオーリンズジャズやホットジャズからスウィングへつながる時代の中で、集団即興中心の演奏から個人のソロが大きな存在感を持つようになります。「West End Blues」はその流れを知る代表的な録音です。

1940年代にはビバップが発展し、ディジー・ガレスピーが中心人物の一人となりました。コード進行が複雑になり、速いテンポや高度なアドリブが増えていきます。

この時代の演奏を初めて聴くと、音数が多く難しく感じるかもしれません。しかし、テーマ部分とソロ部分を分けて聴くだけでも構造が見えやすくなります。

1950年代には、クールジャズやハードバップなど複数のスタイルが発展しました。マイルス・デイヴィス、チェット・ベイカー、クリフォード・ブラウンなどを比較すると、同じ年代でもジャズトランペットに大きな個性の違いがあったことが分かります。

マイルスの抑制と間、チェット・ベイカーの柔らかな歌心、クリフォード・ブラウンの豊かな音と高度な技術という違いを聴き比べると、1950年代を一つの音色でまとめられないことが分かります。

1960年代には、ハードバップ、モード、フリージャズなどが並行して発展します。リー・モーガン、フレディ・ハバード、ドナルド・バードなどが活躍し、Blue Noteの録音にもトランペットを前面に出した作品が多く残されています。

また、「The Sidewinder」のようにR&Bやソウルに近いグルーヴを持つ作品が広く知られるようになり、ジャズの中にファンキーな感覚が強く入っていきました。

1970年代以降は、ジャズロック、フュージョン、ジャズファンクへと領域が広がります。マイルス・デイヴィス、フレディ・ハバード、ドナルド・バードらも、電気楽器やファンク、ロック的な要素を取り入れた作品を残しています。

「ジャズトランペット=アコースティックな小編成」というイメージだけで考えると、この時代以降の作品を捉えにくくなります。時代が進むにつれて、リズムセクションや録音方法も含めてサウンドが広がっていきます。

1980年代以降は、ウィントン・マルサリスなどによる伝統的なアコースティックジャズへの再注目が見られる一方、ロイ・ハーグローヴのようにソウル、ラテン、R&Bなどとの交流を深める奏者も登場しました。

現代では、ストレートアヘッド・ジャズ、フュージョン、ヒップホップとの融合など表現がさらに多様になっています。そのため、ジャズトランペットを理解するには、特定の時代だけでなく複数の世代を聴くことが役立ちます。

初心者が時代差をつかむなら、次のように聴き進める方法があります。

  • Louis Armstrong「West End Blues」
  • Dizzy Gillespie「A Night in Tunisia」
  • Miles Davis「So What」
  • Chet Baker「My Funny Valentine」
  • Clifford Brown「Joy Spring」
  • Lee Morgan「The Sidewinder」
  • Freddie Hubbard「Red Clay」
  • Donald Byrd「Black Byrd」
  • Roy Hargrove「Strasbourg/St. Denis」

この順番は優劣を示すものではありません。音色、リズム、録音年代、ジャズのスタイルがどう変化していくのかを把握しやすくするための一例です。

別の方法として、自分の好みに合わせて順番を決めても構いません。親しみやすいグルーヴから入りたいなら「The Sidewinder」、静かな音と間なら「So What」、柔らかな音色なら「My Funny Valentine」、高い技巧なら「Joy Spring」、高速ビバップなら「A Night in Tunisia」というように選べます。

聴きやすさと演奏の難しさは別であることにも注意してください。耳では親しみやすい曲でも、自分で原曲どおりに演奏しようとすると高い技術が必要な場合があります。

気に入った曲を演奏するには

ジャズトランペットの名曲を聴いて、自分でも吹いてみたいと思った場合は、鑑賞用の録音と演奏用の楽譜を分けて考える必要があります。

プロ奏者の録音は、そのまま初心者向けの難度になっているとは限りません。たとえば「A Night in Tunisia」のような有名曲でも、テーマやアドリブを原曲のように演奏するには、高音域、速いタンギング、ジャズ特有のアーティキュレーションなどが必要になる場合があります。独学だけではこうした演奏のポイントを整理しにくい場合は、EYS音楽教室のレッスン制度や特徴も、練習方法を考える際の選択肢になります。

「有名だから簡単」「テーマが覚えやすいから演奏も易しい」とは限りません。鑑賞初心者向けの曲と、演奏初心者向けの曲は別に考える必要があります。実際に練習曲を探す場合は、トランペット初心者向けの曲と楽譜の選び方も確認しておくと、音域やリズムから判断しやすくなります。

最初からプロ奏者のソロ全体を完全に再現しようとせず、まずテーマを吹き、その後に短いフレーズやアドリブの一部を耳コピーする方法があります。

耳コピーをするときは、音程だけに集中しないことも大切です。ジャズらしい演奏には、リズム、アーティキュレーション、音の長さ、休符、音を置くタイミングなどが関係します。

たとえば同じ音符が書かれていても、音の出だしを強くするか柔らかくするか、短く切るか長く伸ばすか、拍のどの位置に音を置くかで印象は大きく変わります。

そのため、楽譜を見るだけでなく実際の録音を何度も聴きながら練習することが重要です。

楽譜と教本を選ぶポイント

一般的なトランペットはB♭管で、実音と記譜音が異なる移調楽器です。そのため、ピアノやベースなどコンサートキー用の譜面をそのままB♭トランペットで読んでも、同じ実音にはなりません。トランペットの種類そのものを整理したい場合は、B♭管やC管などトランペットの種類の違いも参考になります。

ジャズ曲集や教本を選ぶ場合は、「Trumpet」「B♭ Instruments」「Bb Instruments」などの表記を確認することが大切です。B♭トランペット用か必ず確認することで、購入後のキー違いによる混乱を防ぎやすくなります。

B♭管の仕組みや実音との関係が分かりにくい場合は、トランペット楽譜の読み方とB♭管の移調を確認すると、記譜音と実音の違いを整理しやすくなります。

ジャズスタンダードの楽譜では、メロディとコードだけを掲載したリードシート形式もよく使われます。クラシックの独奏譜のように、演奏する音がすべて細かく書かれているとは限りません。

テーマを譜面で確認したあと、コード進行を理解し、短いアドリブへ進むと段階的に学びやすくなります。

アドリブを学ぶ方法としては、コード進行、スケール、ブルース、ビバップ語法などの理解に加えて、耳コピーを組み合わせる方法があります。

有名奏者のソロを音源から採譜したトランスクリプション教材もあります。ソロを学ぶ場合は、音程だけでなく、リズム、アーティキュレーション、音の長さ、休符まで聴くことが重要です。

初心者が取り組む場合は、ソロを最初から最後まで覚える必要はありません。気に入った2小節、4小節といった短いフレーズから始める方法があります。

短いフレーズであれば、音程だけでなく奏者のタイミングやニュアンスにも注意を向けやすくなります。そのフレーズがどのコードの上で使われているかを確認できれば、将来のアドリブにも応用しやすくなります。

市販楽譜は版によってキー、アレンジ、難易度、付属音源の有無が異なります。同じ曲名でも、原曲録音と譜面のキーが違う場合があります。

また、ジャズではライブや別テイクによって、テンポ、イントロ、エンディング、ソロの順番が変わることもあります。手元の楽譜と録音が完全に一致しなくても、すぐに譜面が間違っていると判断せず、どの録音やアレンジを基にしているのか確認するとよいでしょう。

教本を選ぶ場合も、単に「ジャズトランペット」と書かれているかだけでなく、自分が何を学びたいかを整理しておくと選びやすくなります。

  • ジャズスタンダードのテーマを吹きたい
  • コード進行を理解したい
  • ブルースでアドリブを始めたい
  • 有名奏者のフレーズをコピーしたい
  • ビバップの語法を学びたい

目的が違えば、必要な教材も異なります。テーマ演奏が目的なら曲集が役立ちますが、アドリブを学びたい場合はコードやスケール、フレージングを扱う教材が必要になります。

有名曲を演奏するときも、最初から原曲ソロを完全コピーする必要はありません。まずテーマを無理なく吹ける状態にし、次に短い耳コピー、その後コード進行や簡単なアドリブへ進むと取り組みやすくなります。

たとえば「The Sidewinder」のようにテーマとグルーヴをつかみやすい曲を聴き、まず旋律を覚えるところから始める方法があります。一方、「A Night in Tunisia」のような高速ビバップは、すぐに原曲どおりのソロへ挑戦せず、鑑賞や耳コピーの目標として段階的に取り組む考え方もあります。

ジャズでは楽譜どおりに演奏しない場面もありますが、「何でも自由に吹けばよい」という意味ではありません。テーマ、コード進行、形式、バンド内での役割など一定の枠組みがあり、その中で即興を行います。

一方で、ビッグバンドなどでは細部まで譜面が指定される場面もあります。「ジャズ=すべて即興」という理解ではなく、譜面と即興の両方を使う音楽として考えると分かりやすくなります。

鑑賞と演奏を組み合わせる場合は、まず好きな奏者を一人見つけ、その奏者の代表曲を何度も聴くところから始めるのも方法の一つです。テーマを覚え、ソロの中から気に入った短いフレーズを選び、少しずつ真似していけば、単なる鑑賞から演奏学習へ自然に進みやすくなります。独学で進めにくい部分を具体的に確認したい場合は、EYS音楽教室についてまとめたページも参考にできます。

まとめ

ジャズトランペットの名曲を楽しむときは、曲名だけでなく、奏者名、アルバム名、録音年代まで確認すると、それぞれの演奏の違いを理解しやすくなります。

ジャズでは作曲者、リーダー、トランペット奏者が一致しないことも多いため、「誰が作った曲か」と「誰の演奏を聴いているか」を分けて考えることが大切です。

最初の聴き比べには、マイルス・デイヴィス「So What」、チェット・ベイカー「My Funny Valentine」、クリフォード・ブラウン「Joy Spring」、リー・モーガン「The Sidewinder」、ディジー・ガレスピー「A Night in Tunisia」、ルイ・アームストロング「West End Blues」などが代表的です。

さらに、フレディ・ハバード「Red Clay」、ドナルド・バード「Black Byrd」、ロイ・ハーグローヴ「Strasbourg/St. Denis」などへ広げると、ハードバップからジャズファンク、より新しい世代のジャズまで流れを追えます。

静かで間を生かすマイルス、柔らかなチェット・ベイカー、明るく流麗なクリフォード・ブラウン、ブルージーなリー・モーガン、高速で技巧的なディジー・ガレスピー、力強いフレディ・ハバードというように、奏者ごとの音色とアドリブの違いを意識して聴くと、トランペットジャズの魅力が見えやすくなります。

一度にすべての奏者を覚える必要はありません。まず数曲を聴き比べ、自分が好む音色やグルーヴを見つけ、その奏者の別のアルバムや同時代のプレイヤーへ広げると理解しやすくなります。

演奏へ進む場合は、B♭トランペット用の楽譜かどうかを確認し、まずテーマ、次に短い耳コピー、その後コード進行やアドリブ学習へ進む方法があります。

名曲を知ること、奏者の違いを聴き分けること、気に入ったフレーズを自分で吹いてみることを少しずつ組み合わせれば、ジャズトランペットはより身近になります。自分にとって心地よい音色や何度も聴きたくなる演奏を手がかりに、時代やスタイルを越えて少しずつ聴く範囲を広げてみてください。