フルートの歴史を調べていると、「フルートはどこの国で生まれたの?」「テオバルト・ベームが発明したの?」「昔から今のような銀色の楽器だったの?」など、いくつもの疑問が出てきますよね。
最初に結論を整理すると、フルートという笛の仲間そのものは非常に古く、特定の一国で突然発明された楽器ではありません。
一方、現在オーケストラや吹奏楽などで使われている西洋式のコンサート・フルートにつながる横笛は、ヨーロッパで長い時間をかけて発展してきました。そして19世紀、ドイツのフルート奏者・楽器製作者であるテオバルト・ベームによって大きな改革が行われます。
とくに1847年に完成したベーム式の基本設計は、現在のコンサート・フルートへ直接つながる重要な土台です。
つまり、フルートの歴史を理解するには、「人類が使ってきた笛の歴史」と「現在の西洋フルートが成立するまでの歴史」を分けて考えることが大切なんです。
この記事では、約4万年前の非常に古い笛から、ルネサンス期の横笛、バロック・フルート、18世紀の多キー化、1832年と1847年のベームによる改革まで、順番に整理していきます。
- フルートの発祥と非常に古い笛のルーツ
- フルートはどこの国の楽器なのか
- ルネサンスからバロックにかけて何が変わったのか
- テオバルト・ベームは何を改革したのか
- 1832年型と1847年型の違い
- フルートという名前の由来と語源
- 現在のフルートに残っているベーム式の考え方
今のフルートに付いているたくさんのキーも、単に複雑な仕組みにしたかったから生まれたわけではありません。音程や響き、運指など、それまでの横笛が抱えていた問題を少しずつ解決してきた結果です。
歴史を知ると、現在のフルートの形が「なぜこうなっているのか」も見えやすくなりますよ。
フルートの歴史はどこから始まった?
フルートの歴史を考えるとき、まず注意したいのが「フルート」という言葉の範囲です。
現在の日本でフルートと言えば、多くの場合はオーケストラや吹奏楽で使われる横向きのコンサート・フルートを思い浮かべます。しかし歴史を大きくさかのぼると、管に息を吹き込み、穴を指で開閉して音程を変えるさまざまな笛が存在します。
さらにヨーロッパでは、歴史上「flute」という言葉が現在の横笛だけを指していたわけではありません。時代によってはリコーダーのような縦笛を指す場合もありました。
「笛という楽器そのものの起源」と「現在の西洋コンサート・フルートへ直接つながる歴史」は分けて考える必要があります。
この区別をしないまま歴史を見ると、「約4万年前にフルートが誕生した」「ドイツでフルートが発明された」「ベームがフルートを発明した」といった説明が全部同じ意味のように見えてしまいます。
実際には、それぞれが指している段階が違います。
| 何についての歴史か | 整理のしかた |
|---|---|
| 笛そのもの | 非常に古く、特定の一国を発祥地とするのは難しい |
| 西洋の横笛 | 中世からルネサンス期のヨーロッパで発展していく |
| バロック・フルート | 17世紀後半にフランスを中心として重要な改良が進む |
| 現代フルートの基本設計 | 19世紀のテオバルト・ベームによる改革が決定的 |
この4つを分けておくだけでも、フルートの発祥についてかなり理解しやすくなります。
楽器の「発祥」を考えるときに、研究開始、原型、公開、改良、完成といった段階を分ける考え方は、ほかの管楽器にも当てはまります。たとえばサックスの歴史と発明者についての解説でも、誕生までの複数の段階を整理しています。
約4万年前の笛とフルートのルーツ
笛の歴史は、人類の音楽文化のかなり古い時代までさかのぼります。
ドイツ南西部のシュヴァーベン地方にある洞窟群からは、後期旧石器時代に作られたと考えられる骨製やマンモスの牙製のフルート類が発見されています。
ホーレ・フェルス洞窟からは、鳥の骨を利用して作られたフルートが見つかっています。保存状態のよい例には5つの指穴があり、残っている長さは約21.8cmです。
この地域から見つかったフルート類は、およそ4万年前の人類が音楽活動を行っていたことを示す重要な資料とされています。テュービンゲン大学も、シュヴァーベン地方の洞窟から約4万年前の骨製フルートが発見されていることを大学の公開資料で紹介しています。
ここで重要なのは、「穴の開いた管から音を出す」という考え方が、人類の歴史のかなり早い時期から存在していたという点です。
単に一本の管を鳴らすだけではなく、複数の指穴を設けることで音の高さを変えられる構造になっています。現在のフルートとは形も構造も大きく違いますが、「空気の振動を使って音を鳴らし、穴の開閉によって音程を変える」という意味では、笛という楽器の非常に古い歴史を感じられますよね。
ただし、ここで「これが現代フルートの直接の祖先です」と断定するのは避ける必要があります。
考古学上「フルート」と呼ばれる遺物には、縦方向に吹くもの、斜めに吹くものなど、さまざまな形式があります。
約4万年前の骨製・象牙製の笛が存在したことは確認できますが、それらが現在の横向きのコンサート・フルートへ一本の系譜として直接つながっているとまでは確認できません。
また、「世界最古のフルート」という表現にも少し注意が必要です。
非常に古い笛とされる遺物の中には、年代や人工的に作られた楽器なのかどうかについて議論されてきた例もあります。そのため、一つの遺物だけを挙げて「これが人類最初のフルート」と決めてしまうより、少なくとも約4万年前には高度な笛が作られていたことが確認されていると理解するほうが安全です。
その後の古代にも、世界のさまざまな地域で笛や横笛が使われてきました。
横向きに構える笛についても、アジアやヨーロッパ周辺の図像や資料から存在を確認できます。ただし、中世以前の横笛がどの地域からどの経路を通って伝わったのかについては、資料が十分ではない部分もあります。
西ローマ帝国崩壊後の西ヨーロッパでは横笛に関する記録が少なくなる時期があります。その後、中世のビザンツ文化圏の資料などに横笛が描かれ、西ヨーロッパでも再び確認されるようになります。
12世紀頃にはドイツ語圏の写本などにも横笛の図像が見られます。
この頃からヨーロッパの横笛史が少しずつ追いやすくなり、やがてルネサンス期の横笛へつながっていきます。
フルートはどこの国の楽器?
「フルートはどこの国の楽器ですか?」という疑問は、とてもよく出てきます。
ただ、一言で「○○国です」と答えるのは難しいんです。
まず、笛そのものは世界各地で非常に古くから使われてきました。そのため、笛という楽器全体について特定の一国を発祥地とすることはできません。
では、現在のフルートにつながる西洋の横笛ならどうでしょうか。
こちらは中世からルネサンス期にかけてヨーロッパで発展し、17世紀後半にはフランスを中心として重要な構造改革が行われました。
さらに19世紀になると、ドイツ・ミュンヘンのテオバルト・ベームが音孔配置や管体、キー機構などを大きく改革し、現在のフルートへ直接つながる基本形を作ります。
フルートそのものを「ドイツ発祥」とするのは正確ではありません。
ただし、「現代フルートの基本設計を確立した重要人物は誰か」という質問であれば、ドイツのテオバルト・ベームが中心人物になります。
中世以降の横笛はドイツ語圏と強く結び付けて認識された時期があり、他の地域では「ドイツのフルート」に相当する名称で呼ばれる例もありました。
しかし、この名称も「横笛がドイツで最初に発明された」という証拠ではありません。
発祥を考えるときは、次のように分けるとわかりやすいですよ。
| 質問 | 答え方 |
|---|---|
| 笛はどこの国で生まれた? | 一国には特定できない |
| 西洋横笛はどこで発展した? | 中世~ルネサンス期のヨーロッパ各地 |
| バロック・フルートの改良で重要な地域は? | 17世紀後半のフランスなど |
| 現代フルートの基本設計を作った人物は? | ドイツのテオバルト・ベーム |
「フルートの発祥」という言葉だけでは、どの段階を指しているのかわかりにくいんですね。
約4万年前の笛の話と、1847年のベーム式の話は、どちらもフルートの歴史ではありますが、意味はまったく違います。
ルネサンス期に横笛が広まる
現在の西洋コンサート・フルートにつながる横笛がヨーロッパで広く使われるようになった重要な時代が、16世紀のルネサンス期です。
当時の横笛は、現在の銀色のフルートとはかなり違う姿をしていました。
主な材料は木で、基本的には一本の円筒形の管に歌口と指穴を設けたシンプルな構造です。現在のフルートに見られる複雑なキー機構はなく、奏者が指で直接音孔をふさいで演奏しました。
見た目だけを見ると、構造が単純なので演奏しやすそうに思えるかもしれません。
しかし、ここに後のフルート改良へつながる大きな問題があります。
音響的に理想的な音孔の位置と、人間の指が自然に届く位置は必ずしも一致しないからです。
キーがなければ、奏者が直接指でふさげる場所に穴を開ける必要があります。音孔の大きさについても、指先で確実にふさげる範囲という制約があります。
楽器側から見ると「本当はもう少しこちらに穴を置きたい」「もっと大きな穴にしたい」と思っても、演奏する人間の手の構造に合わせなければなりません。
この制約は、音程や響きだけでなく、半音を演奏するときにも影響します。
キーのない横笛では、半音の一部をクロスフィンガリングなどで作ります。クロスフィンガリングとは、単純に穴を上から順番に開けるのではなく、途中の穴を閉じたり開けたりしながら音程を調整する運指です。
こうした運指によって半音階を演奏することはできますが、音によって響き方や音量、音程の扱いやすさが変わりやすくなります。
後のベーム式を理解するポイントは、「昔のフルートは指が届く場所に音孔を置く必要があった」という点です。
ベームはこの制約を、キー機構を使って大きく変えていきます。
ルネサンス期には、大きさの異なる横笛を組み合わせたアンサンブルも存在しました。
そのため、この時代の横笛を現在のコンサート・フルート一種類だけの感覚で見るのではなく、音域の異なる複数の横笛が使われていた時代として考えるとイメージしやすいでしょう。
この16世紀の横笛は、現在のフルートとはかなり違います。しかし、西洋の横笛がヨーロッパの音楽文化の中で広く使われ、次の時代のバロック・フルートへ発展していく重要な段階でした。
バロック期にフルートが大きく進化
17世紀後半になると、横笛の設計は大きく変化します。
ここで登場するのが、現在「バロック・フルート」や「トラヴェルソ」と呼ばれる形式です。
とくにフランスの楽器製作者、オトテール家などと結び付けて語られる形式が重要で、ルネサンス期までの比較的単純な横笛から、より調整された構造へと変化していきました。
大きな変化の一つは、一本の管だった楽器が複数の部分に分けられるようになったことです。
頭部側、中部、足部側というように分割することで、製作者が管内部の形をより精密に調整しやすくなります。
さらに管体内部も、単純な円筒形から、足部側へ向かって細くなる逆円錐形に近い形へ変化します。
そして、もう一つ非常に重要なのがキーの登場です。
1キーのトラヴェルソが登場
17世紀後半のバロック・フルートでは、足部側にD♯/E♭などを操作するためのキーが1つ付いた形式が一般的になります。
現代のフルートはたくさんのキーが付いているので、「1個だけ?」と感じるかもしれません。
しかし、フルートの構造史を考えるうえでは大きな一歩です。
キーがない楽器では、音孔は奏者の指が直接届く場所に作る必要があります。
ところがキーを利用すれば、指が音孔そのものに触れなくても、離れた場所にある穴を開閉できます。
キーの登場によって、「音孔をどこに置くか」と「奏者の指をどこに置くか」を少しずつ分離できるようになりました。
これは、後の多キー化、そしてベーム式につながる重要な考え方です。
バロック期のフルートでは、管を分割したことにも意味があります。
一本の木材から単純に管を作るだけではなく、複数のジョイントに分けることで、それぞれの部分の内径やテーパーを調整しやすくなります。
こうした設計変更によって、音程や反応を改善する方向へ進みました。
| 項目 | ルネサンス期の横笛 | バロック・フルート |
|---|---|---|
| 主な材質 | 木 | 木 |
| 管の構造 | 比較的単純な一本の管 | 複数のジョイントに分割 |
| 主管の内径 | 円筒形が基本 | 逆円錐形に近い形 |
| キー | 基本的になし | 1キーが一般的 |
| 音孔操作 | 主に指で直接ふさぐ | 指穴に加えてキーを利用 |
現在「トラヴェルソ」と呼ばれる楽器は、古楽の分野では主にこうした17~18世紀の木製横笛を指します。
「flauto traverso」という言葉そのものは、もともと「横向きのフルート」という意味です。
つまり、本来は現代の横笛も広い意味ではtransverse fluteです。しかし現在の古楽分野では、歴史的な木製横笛を特に「トラヴェルソ」と呼び、近代的なベーム式フルートと区別する使い方が一般的になっています。
トラヴェルソと現代フルートでは、管体の形、音孔、キー機構、運指、音量、音色などが異なります。
見た目が同じ「横向きの笛」でも、内部構造や演奏システムにはかなり大きな違いがあるんです。
リコーダーから横笛へ主役が移る
フルートの歴史で少しややこしいのが、楽器名の使われ方です。
17世紀から18世紀前半頃のヨーロッパでは、単に「flute」と書かれた場合、現在の横笛ではなく、リコーダーのような縦笛を意味することがありました。
そのため、横笛を区別したい場合には「横向きのフルート」に相当する言葉が使われます。
- イタリア語:flauto traverso
- フランス語:flûte traversière
- ドイツ語:Querflöte
英語圏などでは「German flute」と呼ばれる例もありました。
この名称だけを見ると「ドイツで発明されたからGerman fluteなのかな?」と思うかもしれませんが、名称と発祥地は分けて考える必要があります。
18世紀前半になると、横笛は独奏楽器として急速に存在感を高めていきます。
横笛は息の使い方によって強弱を変化させやすく、音量を出しやすい特徴もありました。オーケストラや大きな演奏空間が発達していく中で、こうした特徴が重要になります。
そして18世紀になると、フルートのキーは1個だけではなく、少しずつ増えていきます。
半音をより安定して出すことや、特定の運指を改善することなどを目的として、さまざまな奏者や製作者が工夫を重ねました。
ヨハン・ヨアヒム・クヴァンツも、その時代のフルート改良に関わった人物の一人です。
18世紀末から19世紀初頭になると、複数のキーを備えたフルートが一般的になっていきます。
ただし、キーが増えればすべての問題が解決するわけではありませんでした。
もともとの音孔配置や管体設計には、依然として「奏者が操作できること」という制約があります。
その結果、調によって運指の難しさが大きく変わったり、音によって音程や音量、音色がそろいにくかったりする課題が残ります。
18世紀から19世紀初頭の多キーフルートを、「キーが増えたから現在のフルートとほぼ同じ」と考えないようにしましょう。
キーの数は増えていても、音孔の配置や管体、運指システムの考え方は、後のベーム式とは大きく異なります。
このベーム以前の流れをくむ形式は、現在ではベーム式と区別して「シンプル・システム」や「オールド・システム」などと呼ばれることがあります。
シンプル・システムではクロスフィンガリングを多く使い、調によって運指や音程の扱いやすさにも差が出ます。
一方で、音によって生じる音色の違いを好んだ奏者もいました。
つまり、ベーム式が登場したから旧式が単純に「悪い楽器」になったわけではありません。音色や演奏感、運指に対する考え方が異なる別のシステムとして存在していた、と考えるほうがわかりやすいでしょう。
テオバルト・ベームが起こした改革
19世紀に入ると、フルートの歴史は大きな転換点を迎えます。
中心人物がテオバルト・ベーム(Theobald Böhm/Boehm)です。
日本語では一般に「テオバルト・ベーム」と表記されます。「フルート ベーム」と「フルート テオバルト」で検索して出てくる人物は同じ人物です。
ベームは1794年4月9日にドイツのミュンヘンで生まれ、1881年11月25日に同じミュンヘンで亡くなりました。
フルート奏者であり、作曲家であり、楽器製作者であり、発明家でもあります。
さらに、もともと金細工・宝飾の技術を身につけていました。この精密加工の技術も、複雑なキー機構を持つフルートの製作と無関係ではありません。
1818年からはミュンヘンのバイエルン王室宮廷楽団で活動し、1820年代にはフルート奏者として各地で演奏しました。1828年頃にはミュンヘンでフルート製作にも本格的に取り組んでいます。
ここで一つ、非常に重要な点があります。
ベームはフルートそのものを発明した人物ではありません。
フルート類はベームが生まれる何千年、何万年も前から存在しています。ベームの功績は、当時の西洋横笛を音響と機構の両面から大きく再設計したことです。
では、なぜベームはそれほど大きな改良を行う必要があったのでしょうか。
当時のフルートには、いくつかの課題がありました。
- 音孔の位置が指の届く場所に制約される
- 音孔の大きさも指で直接ふさげる範囲に制約される
- 音響的に理想的な場所へ穴を開けにくい
- 半音の一部では複雑なクロスフィンガリングが必要になる
- 音によって音量や音色、音程にばらつきが出やすい
- 調によって運指の難しさが変わりやすい
ベームが重要なのは、この問題に対する発想を根本から変えたことです。
従来は「奏者の指が届く場所に音孔を置く」という制約が先にありました。
ベームは逆に、まず音響的に適した位置と大きさを考えて音孔を配置し、指が直接届かない場所はキーと連動機構によって操作する方向へ進みます。
言い換えると、「指に音孔を合わせる」のではなく、「音響に音孔を合わせ、機械で指と音孔を結ぶ」という考え方です。
現在のフルートにたくさんのキーやロッドが付いている理由を理解するうえで、ここが最大のポイントになります。
1832年型ベーム式の革新
1831年、ベームはロンドンを訪れます。
そこでイギリスのフルート奏者チャールズ・ニコルソンの力強い音に刺激を受けたことが、翌年の新しいフルート開発の背景として知られています。
そして1832年、ベームは新しいシステムを備えたフルートを完成させます。
これが現在「1832年型ベーム・システム」と呼ばれるものです。
1832年型では、音孔を従来よりも音響上適した位置へ配置する考え方を進め、直接指が届かない音孔を操作するためにリングキーなどを利用した新しいキー機構を採用しました。
リングキーを利用すると、一つの指の動きで複数の部分を連動させるなど、従来より合理的な操作が可能になります。
これにより、音孔を人間の指の位置だけで決める必要が少なくなり、従来より大きな音孔も採用しやすくなりました。
半音階の演奏、運指、音程、音量など、従来のフルートが抱えていた問題を改善する方向へ大きく前進します。
ただし、1832年型を現在のフルートと同じものだと思わないほうがよいでしょう。
1832年型の管体は、まだ従来系統の逆円錐形でした。
つまり頭部側から足部側へ向かう管の形は、17世紀以降のフルートの流れを残しています。
木製の個体も多く、現在よく見る「銀色の円筒形フルート」とは外見も内部構造も違います。
| 1832年型で大きく変わった点 | 内容 |
|---|---|
| 音孔配置 | 指の位置だけでなく音響上の要求を重視 |
| キー機構 | リングキーなどを利用した新システム |
| 音孔の大きさ | 従来より大きな音孔を使いやすくした |
| 半音階 | 運指を合理化する方向へ大きく前進 |
| 管体 | まだ従来系統の逆円錐形 |
つまり1832年型は、現在につながるキー・運指システムを考えるうえで非常に重要ですが、現在のフルートそのものではないということです。
また、新しい仕組みが完成しても、すぐに世界中の奏者がベーム式へ乗り換えたわけではありません。
フランスやイギリスの奏者、製作者もベーム式をもとに改良を行いましたが、それまでの運指に慣れた奏者の中には新しいシステムを敬遠する人もいました。
新しい運指を覚える必要があるうえ、それまで使っていた楽器とは音色や吹奏感の考え方も変わります。
19世紀には、シンプル・システムを支持してベーム式を受け入れなかった奏者も存在しました。
たとえばパリ・オペラやパリ音楽院に関係したジャン=ルイ・テュルーは、シンプル・システムを支持した人物として知られています。
現在から見るとベーム式が当然のように感じられますが、当時は複数の方式が並行していた時代だったんですね。
1847年型が現代フルートの基礎
ベームは1832年型を完成させたあとも研究を続けました。
音響学をさらに研究し、物理学者カール・エミール・フォン・シャフホイトルらの知見も得ながら、フルートの設計をもう一度見直します。
そして1847年、新しいベーム式フルートを完成させます。
現在のコンサート・フルートへ直接つながる基本形として特に重要なのが、この1847年型です。
1832年型と1847年型は、同じ「ベーム式」と呼ばれていても違いがあります。
1847年型では、キー機構だけではなく、管体そのものを含めた楽器全体が大きく再設計されました。
まず大きな変化が、主管の形です。
17世紀以来主流だった逆円錐形の主管をやめ、主管と足部を基本的に円筒形にしました。
一方、頭部管は完全な円筒ではありません。
頭部管内部は上端側へ向かって細くなる形になっており、ベーム自身はその形状を「parabolic」と表現しています。
現在のフルートも、主管を基本的な円筒としながら、頭部管内部を上端側へ絞る基本思想を受け継いでいます。
次に重要なのが音孔です。
1847年型では、指が届くかどうかよりも音響上適した位置を優先して音孔を配置します。
さらに大きな音孔を使い、それをロッドやキーの連動機構によって操作します。
現在のフルートを横から見ると、複数のキーが長い棒状の機構でつながっていますよね。
あの複雑な仕組みは、遠く離れた音孔を指の動きと連動させるために必要です。
1847年型の核心は、円筒形の主管、大きな音孔、音響を優先した音孔配置、そしてそれらを操作するキー機構を一体として設計した点です。
メトロポリタン美術館も、所蔵する1870年頃のBoehm & Mendler製横笛について、ベームの1847年システムを「本質的に現代のフルート」と位置付けています。実物資料についてはメトロポリタン美術館の所蔵品ページで確認できます。
材質についても大きな変化がありました。
ルネサンスからバロック期までの西洋フルートは木製が中心でしたが、ベームは1847年型で金属製管体を積極的に採用します。
1847年に製作された初期個体には金メッキされた真鍮製のものもあり、1848年にベーム自身が製作した銀製ベーム式フルートも現存しています。
その後、銀はフルートを代表する素材の一つとして広く使われるようになりました。
現在では洋銀に銀メッキを施したもの、スターリングシルバー、金、プラチナなど、さまざまな金属が使われています。
一方で、グラナディラなど木材を使ったベーム式フルートも存在します。
そのため、「ベーム式=必ず金属製」ではありません。
| 項目 | ルネサンス期 | バロック~旧式多キーフルート | ベーム1832年型 | ベーム1847年型~現代 |
|---|---|---|---|---|
| 主な材質 | 木 | 木 | 主に木 | 金属が主流、木製も存在 |
| 主管 | 円筒 | 逆円錐 | 逆円錐 | 基本的に円筒 |
| キー | なし | 1個から複数 | リングキーなど | 多数の連動キー |
| 音孔配置 | 指の届く位置が中心 | 指の制約が大きい | 音響をより重視 | 音響上の配置を優先 |
| 半音階 | 制約が大きい | 徐々に改善 | 大幅に改善 | 合理的に演奏しやすい |
| 現代との関係 | 初期段階 | 中間段階 | 機構面で重要 | 直接的な基礎 |
ベーム式によって改善が目指された点には、音程の均一性、音域全体の音量バランス、音の立ち上がり、遠達性、半音階の演奏、調による運指難易度の差などがあります。
ただし、「1847年に現在のフルートが完全に完成した」と考えるのも正確ではありません。
1847年以降も、さまざまな製作者によってキー配置、音孔、スケール、頭部管、補助機構などの改良が続きました。
現在のフルートには、カバードキーやリングキー、インラインGとオフセットG、スプリットEメカニズム、C足部管とH(B)足部管、ブリッチャルディB♭キーなど、後の時代に発展した選択肢や機構があります。
つまり、現在のフルートは1847年型の完全なコピーではありません。
それでも、主管を円筒形とし、音孔を音響的に適した場所へ配置し、キー機構によって操作するという設計思想の中心は、ベームの1847年型から現在へ受け継がれています。
そのためベームは「現代フルートの父」と表現されることがあります。
ただし、この言葉も「フルートそのものの発明者」という意味ではなく、現在のコンサート・フルートの基本構造を形作った重要な改革者という意味で理解するとよいでしょう。
フルートの名前の由来と語源
楽器の構造だけでなく、「フルート」という名前にも長い歴史があります。
英語の「flute」は、中英語の「floute」「fleute」などの形を経て使われるようになったとされます。
その背景には、古フランス語の「flaute」「fleüte」「flahute」などや、古オック語の「flaüt」があるとされています。
英語での使用は中世までさかのぼり、少なくとも14世紀には確認できるとされています。
では、その言葉をさらに古くたどるとどうなるのでしょうか。
ここは少し注意が必要です。
フルートの語源については、「吹く」という意味を持つラテン語の「flare」と結び付ける説明が紹介されることがあります。
ただし、語源辞典や言語学的な資料では異なる見解もあり、最終的な語源は確定していません。
「fluteという単語は、ラテン語で『吹く』を意味する言葉から直接生まれた」と断定するのは避けたほうがよいでしょう。
古フランス語や古オック語などの系統までたどることはできますが、それ以前については不確実な部分があります。
現代フランス語では「flûte」と書きます。
フランス語の資料でも語源について不確実性が示されるため、「フルート=吹くという意味」という単純な説明だけで覚えないほうが正確です。
また、名前の歴史を考えるうえで重要なのが、昔の「flute」が現在の横笛だけを意味していたわけではないことです。
17~18世紀前半頃のヨーロッパでは、単に「flute」と書かれた場合にリコーダーを意味することもありました。
現在の横笛と区別するために、「横向き」という意味を持つ名称が使われます。
- flauto traverso
- flûte traversière
- Querflöte
いずれも横向きに構える笛であることを示す名称です。
現在、日本語で「フルート」と言えば基本的に横向きに構えるコンサート・フルートを指します。
しかし、バロック以前の楽譜や古い文献を読む場合は、その資料で使われている「flute」がリコーダーなのか横笛なのかを確認する必要があります。
古い楽器名は、現在とまったく同じ意味で使われているとは限りません。
フルートの歴史を調べるときは、言葉だけでなく「どの時代の、どの種類の笛を指しているのか」まで確認すると混乱しにくいですよ。
「トラヴェルソ」という名称についても同様です。
flauto traverso自体は本来「横向きのフルート」という一般的な表現ですが、現在の古楽分野では特に17~18世紀の木製バロック・フルートを指す言葉として使われることが多くなっています。
そのため、現在の会話で「トラヴェルソ」と言えば、一般的な銀色のベーム式フルートとは別の歴史的な横笛を指している場合が多いでしょう。
現代フルートとよくある疑問
ここまで歴史を追ってくると、現在のフルートの姿が突然生まれたわけではないことがわかります。
木製でキーのない横笛から始まり、1キー、多キーへと変化し、音孔の位置と指の位置を切り離すという考え方が発達していきました。
その中でも、1832年と1847年のベームによる改革が現在の楽器へつながる大きな転換点です。
現在のフルートを見ると、頭部管、主管、足部管という3つの主要部分に分かれています。
さらに主管には多数の音孔とキー、ロッドなどが並びます。
これらを「なんとなく複雑な機械」と見るよりも、数百年にわたって音程や運指、響きの問題を解決してきた結果だと考えると、構造がかなり理解しやすくなるかなと思います。
こうしたキーの動きや運指は、図や文章だけでなく、実際にフルートに触れながら確かめてみると、歴史の中で改良されてきた仕組みをより具体的にイメージしやすくなります。
現代フルートに残るベーム式
現在のコンサート・フルートには、ベームが1847年型で確立した考え方が数多く残っています。
まず、主管は基本的に円筒形です。
一方、頭部管内部は上端側へ向かって細くなります。
この組み合わせは、1847年型の重要な特徴の一つでした。
そして、音孔は単純に指の真下へ配置するのではなく、音響的な条件を考えて設計されます。
直接指が届かない場所にある音孔も、多数のキーやロッドを使えば操作できます。
この仕組みによって、大きなトーンホールを使用しながら、半音階を合理的な運指で演奏できるようになります。
| 現在にも残る考え方 | 内容 |
|---|---|
| 円筒形の主管 | 1847年型以降の基本的な特徴 |
| 絞られた頭部管 | 主管とは異なる内部形状を持つ |
| 音響を重視した音孔配置 | 指の位置だけを基準にしない |
| 大きなトーンホール | キー機構によって操作可能 |
| 複数の連動キー | 離れた音孔を一つの指の動きと結び付ける |
| 合理的な半音階運指 | 調による運指差を小さくする方向へ発展 |
一方、現在のフルートにはベームの1847年型にはなかった、その後の改良も多く含まれています。
たとえばキーには、穴の中央を指で直接ふさぐリングキーと、穴がふさがれたカバードキーがあります。
Gキーの配置にもインラインGとオフセットGがあり、補助機構としてスプリットEメカニズムなどを備える楽器もあります。
足部管についてもC足部管とH(B)足部管などの違いがあります。
さらに、メーカーによって音孔位置やスケール、頭部管形状などにも細かな違いがあります。
したがって、「現代フルートのすべてをベーム一人が完成させた」という意味ではありません。
ベームが根本的な設計原理を確立し、その後の製作者が改良を積み重ねて現在の形になったと理解するのが正確です。
また、現代のフルートについてよく出る疑問が、「金属製なのになぜ木管楽器なの?」というものです。
現在のフルートは銀色の金属製が多いため、見た目だけなら金管楽器に入りそうですよね。
しかし、木管楽器と金管楽器という分類は、単純に管体が木か金属かだけで決まるものではありません。
フルートは歴史的に木製楽器として発達してきました。
さらに、トランペットやトロンボーンなどの金管楽器のように奏者の唇そのものを振動させて音を作るのではなく、歌口のエッジへ息を当て、管内部の空気柱を振動させて音を出します。
そのため、現在の銀製・金製フルートも木管楽器に分類されます。材質と木管・金管の違いをほかの楽器と比較したい場合は、金属製のサックスが木管楽器に分類される理由もあわせて見ると整理しやすいでしょう。
「木でできているから木管」「金属だから金管」とだけ覚えると、フルートやサクソフォンで混乱しやすくなります。
現在の材質だけではなく、音の作り方や楽器の歴史的な系統を見るのがポイントです。
材質についても、昔と現在では大きく変化しています。
ルネサンスからバロック期の西洋フルートは木製が中心で、ツゲや黒檀などさまざまな木材が使われました。
ベーム以降は銀などの金属が広く使われるようになります。
現在では、洋銀に銀メッキを施したもの、スターリングシルバー、金、プラチナなどがあり、木製フルートも存在します。
つまり材質は変わっても、ベーム式の設計思想はさまざまな素材のフルートへ応用されています。
フルートの歴史でよくある質問
最後に、フルートの発祥やベーム式について特に疑問になりやすい点をまとめます。
Q1. フルートの発祥国はドイツですか?
A. フルートという笛の仲間そのものをドイツ発祥とするのは正確ではありません。
笛は世界各地で非常に古くから存在しており、約4万年前のフルート類も確認されています。
一方、現在のコンサート・フルートの基本設計に大きな影響を与えたテオバルト・ベームはドイツ・ミュンヘンの人物です。
「笛の発祥」と「現代フルートの基本設計」を分けて考えると理解しやすいでしょう。
Q2. 現在のフルートはいつ誕生しましたか?
A. 現在のフルートへ直接つながる決定的な設計として重要なのは、1847年にテオバルト・ベームが完成させた新しいベーム式です。
ただし、1847年に現在販売されているフルートのすべての構造が完成したわけではありません。その後も多くの製作者によってキー配置や補助機構、頭部管などの改良が続いています。
Q3. ベームがフルートを発明したのですか?
A. いいえ。フルート類はベームよりはるか以前から存在しています。
ベームの功績は、既存の西洋フルートを音響学的な考え方から大きく再設計し、現在まで続くベーム式フルートの基本原理を確立したことです。
Q4. 1832年型と1847年型のベーム式は何が違いますか?
A. 1832年型は、リングキーなどを使った新しいキー・運指システムが大きな革新でした。
ただし管体はまだ従来系統の逆円錐形です。
1847年型では主管を基本的に円筒形へ変更し、頭部管、音孔配置、大きなトーンホール、キー機構、材質などを含めてさらに大規模な再設計が行われました。
現在のフルートへ直接つながるのは、主に1847年型です。
Q5. ベーム式になった最大のポイントは何ですか?
A. 「指が届く場所に音孔を置く」のではなく、「音響的に適した場所に音孔を置き、キー機構を使って指と結ぶ」という発想です。
この考え方によって、大きな音孔や合理的な配置が可能になり、半音階や音程、音量バランスなどを改善する方向へ進みました。
Q6. 昔のフルートは木製だったのですか?
A. 西洋のルネサンス~バロック期のフルートは主として木製でした。
19世紀のベームによる改革以降、銀などの金属製フルートが広く普及していきます。
ただし現在でも木製のベーム式フルートは存在するため、「ベーム式なら必ず金属製」というわけではありません。
Q7. 「フルート」という名前は「吹く」という意味ですか?
A. 英語のfluteが古フランス語や古オック語などにつながることは確認されていますが、それより古い最終的な語源については確定していません。
ラテン語の「吹く」を意味する言葉と関連付ける説もありますが、直接の語源として断定するのは避けたほうが正確です。
Q8. トラヴェルソと現代フルートは別の楽器ですか?
A. 広い意味ではどちらも横笛です。
ただし現在の古楽分野では、主に17~18世紀の木製で1キー程度の歴史的な横笛を「トラヴェルソ」と呼び、近代的なベーム式フルートと区別することが一般的です。
管体形状、音孔、キー機構、運指などに大きな違いがあります。
Q9. ベーム式はクラリネットにもありますが、同じ仕組みですか?
A. クラリネットにも「ベーム式」という名称がありますが、テオバルト・ベーム本人が現在のベーム式クラリネットをそのまま設計したという意味ではありません。
フルートで確立されたベームのキー機構や音孔設計の考え方が、他の木管楽器にも応用された流れの中で名称が使われています。
年代の流れを最後にまとめると、次のようになります。
| 時代・年 | 主な姿・出来事 | 現代フルートとの関係 |
|---|---|---|
| 約4万年前 | 骨やマンモス牙製のフルート類 | 笛そのものの非常に古い歴史を示す |
| 古代 | 各地域にさまざまな笛・横笛 | 発祥国を一国に限定できない |
| 10~12世紀頃 | ビザンツ~西ヨーロッパの資料に横笛 | ヨーロッパ横笛史の重要段階 |
| 16世紀 | 木製・キーなしのルネサンス横笛 | 西洋フルート発展の重要な原型 |
| 17世紀後半 | 分割構造、逆円錐管、1キー | バロック・フルートへ大きく改良 |
| 18世紀 | 横笛が普及しキーが増加 | 独奏・オーケストラで存在感を高める |
| 18世紀末~19世紀初頭 | 多キーのシンプル・システム | 半音階対応が進むが課題も残る |
| 1832年 | ベームがリングキー式新システムを完成 | 音孔配置と運指を大改革 |
| 1847年 | 円筒管・大音孔・新キー機構を備えた新ベーム式 | 現代フルートの直接的な基礎 |
| 19世紀後半 | 各国でベーム式が徐々に普及 | 近代オーケストラの標準へ |
| 現代 | 多様な素材・キー仕様へ発展 | 基本原理は1847年型の延長線上 |
まとめ
フルートの歴史は、現在の銀色のコンサート・フルートから想像するより、はるかに長いものです。
- 笛の仲間は非常に古く、約4万年前の骨・象牙製フルート類も確認されている
- フルートそのものの発祥国を一国に決めることはできない
- 中世以降、ヨーロッパで横笛の歴史を追いやすくなる
- 16世紀には木製・キーなしのルネサンス横笛が広く使われた
- 17世紀後半には分割構造、逆円錐管、1キーを備えたバロック・フルートへ発展した
- 18世紀には横笛が独奏やオーケストラで存在感を高め、多キー化も進んだ
- 1832年にテオバルト・ベームが音孔配置とキー・運指システムを大きく改革した
- 1847年には円筒形の主管、大きな音孔、新しいキー機構などを備えた設計を完成させた
- 現在のコンサート・フルートは1847年型の基本思想を受け継ぎながら、その後の改良も取り入れている
「フルートはどこの国で生まれたの?」という疑問に対しては、笛そのものを一国の発明と考えないことが大切です。
人類は非常に古い時代からさまざまな笛を使ってきました。その後、ヨーロッパの横笛が長い時間をかけて発展し、ルネサンス、バロック、18世紀の多キー化を経て、ベームによる大改革へつながります。
また、ベームを「フルートを発明した人」と覚えるのも少し違います。
ベーム以前にも横笛には長い歴史がありました。
ベームの大きな功績は、「指が届く場所に音孔を置く」のではなく、「音響的に適した場所へ音孔を置き、キー機構を使って操作する」という考え方を本格的なシステムとして形にしたことです。
1832年にはキー・運指システムを大きく改革し、1847年には管体、頭部管、音孔、キー機構、材質まで含めてさらに大規模な再設計を行いました。
現在のフルートは、その1847年型がそのまま残っているわけではありません。後世の製作者によってさまざまな改良が加えられています。
それでも、円筒形の主管、音響を重視した音孔配置、大きなトーンホール、多数の連動キーといった中心的な設計思想には、ベームの改革が今も生きています。
普段フルートを見ると、たくさんのキーやロッドが複雑に並んでいます。
でも、その一つひとつは単なる飾りではありません。
「音響的によい位置に穴を置きたい」「半音をもっと合理的に演奏したい」「音程や響きを整えたい」という、長いフルート史の中で積み重ねられてきた工夫の結果なんです。
フルートの歴史を知ると、昔の出来事を覚えられるだけでなく、現在の楽器がなぜこの形になったのかも理解しやすくなります。
次にフルートを見る機会があれば、ぜひ歌口やキーだけではなく、主管の形や音孔の位置にも注目してみてください。約4万年前の笛からベーム式へ続いてきた、長い楽器の進化を少し感じられるかもしれませんよ。

