チェロの特殊奏法入門|ビブラート・重音・ハーモニクスを解説

チェロの特殊奏法入門として、ビブラート・重音・ハーモニクスを解説する内容を表した、チェロを演奏する手元のアイキャッチ画像。 チェロ
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チェロの特殊奏法は基礎の延長にある

チェロには、弓で1音ずつ弾く通常の奏法だけでなく、ビブラート、ピチカート、重音・和音、ハーモニクス、グリッサンド、トリルなど、さまざまな奏法があります。

「特殊奏法」という言葉から、現代音楽で使われる珍しいテクニックを想像するかもしれません。しかし、ビブラートやピチカート、重音、ハーモニクスなどはクラシックのチェロでも広く使われています。すべてが現代音楽だけで使う特殊効果というわけではなく、曲を演奏するうえで身につけていく一般的な技術も含まれます。

それぞれの奏法は、音の出し方や左手・右手の使い方が異なります。名前や形だけを覚えるよりも、「弦がどのように振動しているのか」「左手と右手は何をしているのか」という仕組みから理解すると、動作の意味が分かりやすくなります。

また、特殊な奏法だからといって、通常奏法とはまったく別の技術になるわけではありません。ビブラートなら左手の押弦、重音なら左手の音程と弓のコントロール、ハーモニクスなら弦に触れる位置と弓の使い方というように、基本奏法の延長として考えられるものが多くあります。

特殊奏法も基本の音程・脱力・ボウイングの延長として考えると、練習の優先順位を整理しやすくなります。

特殊奏法を始める前に整えたい基本

チェロの通常奏法では、左手で弦を押さえて振動する長さを変え、右手の弓で弦を持続的に振動させます。開放弦は低い方からC2・G2・D3・A3で、隣り合う弦は完全5度の関係です。チェロとほかの弦楽器の調弦や音域の違いについては、バイオリン・ビオラ・チェロの違いでも比較しています。

たとえば左手で弦を押さえる位置を変えれば、振動する弦の長さが変わり、音高も変わります。一方、右手では弓の速度や弦との接点、弦に対する荷重などによって発音や音色が変化します。

ビブラート、重音、人工ハーモニクスなどを練習するときも、この基本は重要です。左手の音程やフォーム、弓の角度や動きがある程度安定しているほど、新しい奏法にも取り組みやすくなります。基礎のフォームや弓の使い方を実際に見てもらいながら確認したい場合は、EYS音楽教室の特徴も参考になります。

特に注意したいのは、難しい奏法を「力を入れればできる」と考えないことです。左親指が痛くなるほどネックを握ったり、重音を鳴らそうとして弓を強く押し付けたりすると、かえって必要な動きを妨げる場合があります。

通常の単音を弾いている段階で音程が大きく揺れたり、左手でネックを強く挟み込まないと音を押さえられなかったりする場合は、特殊奏法の速度を上げるより、基本フォームを確認したほうが練習しやすいことがあります。

また、奏法によって使う身体の部位は異なりますが、痛みやしびれ、極端な疲労が出る状態を「まだ筋力が足りないから」と考えて無理に繰り返すのは避けたいところです。チェロは長時間同じ姿勢で演奏することもあるため、不要な力を減らすことは演奏技術だけでなく、練習を継続するうえでも重要です。

チェロのビブラートの仕組みとかけ方

ビブラート(vibrato)は、押さえている音の音程を周期的に細かく変化させ、音に表情や広がりを与える奏法です。

初心者のうちは「指を細かく震わせればビブラートになる」と考えてしまいやすいのですが、指先だけを高速で震わせることが目的ではありません。押さえている指を接点として、弦の長さ方向に沿うように手や前腕を往復させ、その動きを指先へ伝えます。

指先と弦の接触状態や角度がわずかに変化することで、実効的な振動長も変化し、聞こえる音程が周期的に揺れます。

ここで重要なのは、指が指板の上を大きく滑って別の音へ移動するわけではないことです。後述するグリッサンドでは指そのものを滑らせて連続的に音程を変えますが、ビブラートでは基準となる音の位置を保ちながら、その周囲で細かな音程変化を作ります。

ビブラートには大きく分けて「幅」と「速さ」という2つの要素があります。

幅は、音程をどの程度変化させるかという要素です。速さは、その往復運動をどの程度の速度で行うかという要素です。速く狭いビブラートと、ゆっくり広いビブラートでは、同じ音を弾いていても聴感上の印象が変わります。

低い音域では比較的広めの動きが使われることがあり、高い音域では小さな動きでも音程変化を感じやすくなります。ただし、音域だけで幅や速さが自動的に決まるわけではありません。音量、フレーズ、曲想、作品の様式などに合わせて調整します。

そのため「速いビブラートほど上手」「幅が広いほど豊かな音になる」という単純なものではありません。大切なのは、必要に応じて幅や速度を変えられることです。

前腕・手首・指をどう動かすか

チェロのビブラートでは、前腕を中心とした連続的な動きを指先へ伝える考え方が代表的です。ただし、身体の動きを説明する言葉は教育者や奏者によって異なり、「前腕の動き」「肘から始まる動き」「腕の回転」などと説明される場合があります。

そのため、ひとつの身体部位だけが単独で動くと考えるより、腕から手、そして押弦している指まで動きが連続して伝わるイメージで考えると理解しやすくなります。

指先は弦から離さず、音程の基準になる位置を保ちます。その状態で弦の長さ方向へ往復します。

ビブラートは弦の長さ方向へ動くことが基本です。横方向へ強い力を加える動きになると、ビブラートそのものが不安定になるだけでなく、チェロ本体を揺らす原因にもなります。

また、左手の親指にも注意が必要です。親指でネックを強く挟み込むと、手のひらやほかの指まで緊張しやすくなり、往復運動を妨げます。

肩や上腕、手首にも過度な力を入れないようにします。「ビブラートをかけよう」と意識するほど身体全体に力が入ってしまう場合は、まず大きくゆっくりした動きで、どこに力が入っているかを確認するとよいでしょう。

最初はゆっくりした往復運動から始める

練習では、最初から高速でビブラートをかける必要はありません。むしろ、速く動かそうとすると指先だけの震えになったり、親指でネックを締め付けたりしやすくなります。

まずは弦に指を置き、ゆっくりと一定の往復運動を行います。動く方向が弦に沿っているか、指が弦から離れていないか、親指が強く固まっていないかを確認します。

メトロノームを使い、1拍に一定回数の往復を行う方法もあります。最初は少ない回数で動きを確認し、安定してから回数を増やせば、速度を段階的に管理できます。

弓を使わず左手の動きだけを練習し、そのあとロングトーンと組み合わせる方法もあります。弓を使わない段階では身体の動きへ集中しやすく、弓を加えた段階では実際に聞こえる音程の揺れを確認できます。

また、特定の指だけでなく、各指で動作を確認します。指によって手の形や安定感が変わるため、ある指では自然に動けても、別の指では力んでしまうことがあります。

最終的な目的は、機械のように同じ速度と幅で揺らし続けることではありません。一定のビブラートを作れることを出発点として、音楽表現に応じて幅と速度を変化させられる状態を目指します。

ビブラートで楽器が揺れる原因

「ビブラートをかけるとチェロ本体まで揺れてしまう」という悩みは、左手の動く方向や力の使い方を見直すきっかけになります。

ビブラートの動作に伴って楽器がわずかに動くこと自体を完全になくす必要はありません。しかし、ビブラートのたびにチェロ全体が大きく左右へ動く状態は、効率的な動きとはいえません。

原因として考えられるのは、弦方向ではなく横方向へ力を加えていること、左手でネックを強く握っていること、上腕全体を大きく振っていること、親指と指でネックを挟み込んでいることなどです。

たとえば、左手の指と親指でネックを強く挟んだまま腕を往復させると、その力がネックを通じて楽器本体へ伝わりやすくなります。その結果、指を動かしているつもりでもチェロ全体を揺らしてしまいます。

まず確認したいのは、前腕の動きが弦に沿う方向になっているかどうかです。次に、左親指の力を必要以上に入れていないかを確認します。

チェロそのものは、エンドピンや脚、身体との接触によって安定させます。ビブラートをするために左手で楽器を支え続ける必要はありません。

ビブラートのたびに楽器が大きく揺れるならフォームを見直すという目安にするとよいでしょう。

身体の使い方は文章だけで完全に判断することが難しい部分です。左親指の痛みや強い力みが続く、楽器が大きく揺れる、ビブラートを止めると通常の音程まで不安定になるといった場合は、自己流の動きを固定する前に指導者へフォームを確認してもらう方法があります。チェロを習える環境を探す場合は、EYS音楽教室について確認するのもひとつの方法です。

チェロのピチカートはどの指で弾く?

ピチカートは、イタリア語では「pizzicato」と表記され、日本では「ピッツィカート」「ピチカート」などと呼ばれます。楽譜では「pizz.」と略記されることが多く、弓で弾く奏法へ戻る指示は「arco」です。

通常の弓奏では弓毛と弦の摩擦によって弦を持続的に振動させますが、ピチカートでは指で弦を引き、離すことで発音します。そのため、弓奏とは異なり、音が鳴ったあと比較的速く減衰する、はじくような響きになります。

左手で音程を作る点は通常の奏法と共通しています。開放弦なら左手で押さえる必要はありませんが、それ以外の音では左手で弦を押さえ、右手でその弦をはじきます。

一般的な単音ピチカートでは、右手の人差し指がよく使われます。ただし、「ピチカートは必ず人差し指」という絶対的な決まりではありません。

中指を使うこともあれば、親指を利用することもあります。速い連続ピチカートや複数弦を使う奏法では、複数の指を組み合わせる場合もあります。指によって弦への当たり方が変わるため、音色、音量、アタック感にも違いが生じます。

基本的には右手を指板の端付近へ持っていき、指の腹を弦に掛けてはじきます。爪だけで弦を引っ掛けるのではなく、指の肉を使うと丸みのある音を作りやすくなります。

また、弦のどの位置をはじくかによっても音色は変化します。ピチカートは単純に「弦を指ではじく」というだけでなく、指の選択、弦へ力を加える方向、はじく位置などによって響きを調整する奏法です。

右手の指と弓からの切り替え方

曲の途中に短いpizz.区間がある場合、弓を右手に持ったままピチカートを行うことがあります。特にarcoとpizz.が頻繁に切り替わる曲では、毎回弓を置いていては間に合わないため、弓を保持しながら指で弦をはじき、すぐ弓奏へ戻る技術が必要になります。

一方、長いピチカート部分では、状況によって弓を置くこともあります。どのように持ち替えるかは、前後の音楽や切り替えに使える時間によって判断します。

ピチカートでも複数の弦を使えば重音や和音を演奏できます。2本の弦をはじく場合には複数の指を利用することもできます。

3~4本の弦を連続的にストロークして、アルペジオのように和音を鳴らす方法もあります。低音側から高音側へ向かって弾く場合には親指を使う方法があり、高音側から低音側へ向かう場合には人差し指を利用できます。

さらに、右手ではなく左手の空いている指で弦をはじく「左手ピチカート」もあります。右手で別の弦を弓奏しながら、左手でピチカートを組み合わせることも可能です。

楽譜では「+」などの記号によって左手ピチカートを示す場合があります。ただし、現代作品では作曲者独自の記号が使われることもあるため、楽譜の凡例や演奏指示を優先して確認します。

特殊なピチカートとして知られているものに、Bartók pizzicato(スナップ・ピチカート)があります。これは弦を指板から強く引き離して放し、弦を指板へ当てることで、通常のピチカートとは異なる打撃的な音を加える奏法です。

チェロの重音・和音の弾き方

2つの音を同時に鳴らす奏法は、英語ではdouble stop(ダブルストップ)と呼ばれ、日本語では一般に重音と呼ばれます。

チェロでは基本的に2本の弦を同時に鳴らします。両方の音を左手で押さえる場合だけでなく、片方または両方に開放弦を使う場合も重音です。

たとえば隣り合う2本の開放弦を同時に弾けば、それだけでも重音になります。片方の弦を左手で押さえ、もう片方を開放弦として使うこともできます。

重音では、左手で正しい2音を準備することに加えて、右手の弓の角度が重要です。

チェロの駒は湾曲しているため、通常の単音では弾きたい1本の弦へ弓を合わせます。重音では、その角度を隣接する2本の弦の中間へ合わせ、弓毛を両方へ同時に接触させます。

2音を同時に鳴らす重音のコツ

弓が一方へ傾けば片方の音しか鳴らなくなり、反対へ傾けばもう一方だけになります。2音を安定して響かせるには、2本の弦へ弓毛が触れる角度を維持する必要があります。

さらに、弓の速度、弦との接点、荷重のバランスも重要です。

初心者が陥りやすいのが、「2本の弦を鳴らすには単音より強く押さなければならない」という考え方です。しかし、単純に弓を強く押し付けるだけでは、弦の振動を妨げて音がつぶれたり、雑音が増えたりする場合があります。

重音は力よりも弓の角度と2音の音程を確認することが大切です。

練習するときは、最初から2音を同時に弾き続けるだけでなく、下の音、上の音をそれぞれ単独で確認します。それぞれの音程が安定したら、同時に鳴らして2音の響きを確認します。

片方ずつでは正しいと思っていた音程でも、2音を同時に鳴らすとずれが明確に聞こえることがあります。特に3度、6度、オクターブなどでは、2音の相対的な音程を耳で確認することが重要です。

比較的取り組みやすいのは、2本とも開放弦の重音や、片方に開放弦を使う重音です。左手で押さえる音がひとつだけなので、右手の弓の角度へ意識を向けやすくなります。

難しくなるのは、両方の音を左手で押さえる重音、重音の状態でポジション移動するフレーズ、3度や6度などが連続するパッセージ、オクターブ、親指ポジションを使う重音、速い重音進行などです。

完全5度の重音では押さえ方も変わる

チェロの隣接する開放弦は完全5度で調弦されています。そのため、隣接する2本の弦を同じ位置で押さえると、完全5度の重音を作ることができます。

この場合、1本の指をやや寝かせて2本の弦を同時に押さえる、いわゆるバレーのような形が使われることがあります。

通常の単音では指先を使って1本の弦を押さえますが、完全5度では2本を同じ位置で正確に押さえる必要があるため、指と弦の接触方法も変わります。

ただし、2本を押さえようとして左手全体を強く握り込むと動きにくくなります。必要な接触を確保しながら、親指や手のひらへ余計な力を入れすぎないことが重要です。

3音・4音の和音はどう鳴らす?

2音同時は一般にdouble stop、3音はtriple stop、4音はquadruple stopと呼ばれます。これらをまとめてmultiple stoppingと呼ぶこともあります。日本語では3~4音をまとめて「和音」と表現することがあります。

ここで疑問になりやすいのが、「チェロで4音の和音が書かれていたら、4本の弦を完全に同時に弾くのか」という点です。

チェロの駒にはカーブがあるため、通常の弓で3本・4本すべての弦へ均等に接触し、その状態を長時間維持することは困難です。

そのため、楽譜に3音や4音が縦に並んでいても、すべての音を完全に同時発音して長く持続させるとは限りません。

典型的には、低音側の2音を鳴らしたあと、高音側の2音へ弓を素早く移します。低音を短く鳴らして余韻を残し、その上で上声を持続させることで、聴感上ひとつの和音としてまとめます。

和音を分割するといっても、常に同じ速度で低音から高音へ動かすわけではありません。作品、時代、テンポ、フレージングによって、どの音を長く残すか、どの程度速く弓を移すかが変わります。

和音で起こりやすい問題には、左手の複数音へ意識が集中しすぎて弓の弦選択が不安定になること、弓を強く押し付けすぎて音がつぶれること、和音を割る動きが遅すぎてアルペジオのように聞こえることなどがあります。

また、低音から高音へ移る途中で弓が弦から離れると、和音が分断されたように聞こえます。左手だけでなく、右手がどの弦をどの順番で通過するのかを整理して練習する必要があります。

チェロのハーモニクスとフラジオレット

ハーモニクスは、弦の倍音を利用して高く透明感のある音を出す奏法です。「フラジオ」「フラジオ レット」と検索されることがありますが、一般的には「フラジオレット(flageolet)」と表記されます。

チェロ奏法の文脈では、フラジオレットとハーモニクスはほぼ同じ領域を指す言葉として使われます。ただし、楽譜や文献によって用語や表記方法が異なることがあります。

通常の押弦では、弦を指板まで押さえて振動する弦長を短くします。一方、ハーモニクスでは弦上の特定の位置である「節(node)」へ軽く触れます。

弦には基音だけでなく複数の倍音を含む振動が生じています。特定の節へ軽く触れると振動モードが制限され、その節を持つ倍音が強く現れます。その結果、通常の押弦とは異なる、透明感や笛のような印象を持つ高い音が得られます。

ハーモニクスは弦を押さえず節へ軽く触れることが基本です。指板まで強く押し込んでしまうと通常の押弦音になり、狙った倍音が出にくくなります。

ハーモニクスには、大きく自然ハーモニクスと人工ハーモニクスがあります。

自然ハーモニクスは開放弦の倍音を利用する

自然ハーモニクス(natural harmonics)は、開放弦を基音として、その弦の節へ軽く触れて発音します。

最も理解しやすいのが、弦長の1/2の位置です。弦の中央を軽く触れると第2倍音が強調され、開放弦の1オクターブ上の音が鳴ります。

弦長の1/3または2/3付近の節では第3倍音に対応する音が得られ、基音より1オクターブと完全5度上の音になります。

弦長の1/4または3/4付近の節では第4倍音が得られ、基音より2オクターブ上の音になります。

さらに高次の倍音にも節はあります。ただし、高次になるほど節の間隔が狭くなるため、指で触れる位置の精度が求められます。

また、同じ倍音を作る節が弦上の複数箇所に存在する場合があります。そのため、ハーモニクスの位置は単純に「高い音ほど駒の近く」とだけ覚えるものではありません。

人工ハーモニクスは押弦した音を新しい基音にする

人工ハーモニクス(artificial harmonics)は、1本の指で弦を指板まで完全に押さえ、その音を新しい基音として作ります。そのうえで、別の指を同じ弦上の節へ軽く触れさせます。

自然ハーモニクスでは開放弦が基音になりますが、人工ハーモニクスでは押弦した音を基準にできるため、より多くの音高を作ることができます。

チェロでは、親指で基音を押さえ、別の指で節へ軽く触れる形が使われることもあります。

代表的なのが、完全に押さえた基音から完全4度上の位置へ軽く触れる方法です。この形では、押さえた基音の2オクターブ上の音が実際に鳴ります。

人工ハーモニクスでは、同じ弦の上で「完全に押さえる指」と「軽く触れる指」を同時に使います。そのため、両方の指を同じ強さで押してしまわないことが重要です。

基音側の指は通常の押弦として確実に押さえ、上側の指は節を妨げない程度に軽く触れます。左右ではなく同じ左手の中で異なる圧力を使い分けることが、人工ハーモニクスの難しい部分のひとつです。

フラジオレットの場所と記号の読み方

「チェロのフラジオレットはどこを触ればよいのか」と考えるとき、指板の端から何cmという固定した数値だけで覚えるのは適切ではありません。

節の位置は、実際に振動する弦の長さに対する比率によって決まるからです。楽器には弦長の個体差があるため、絶対的な距離だけでは正確な位置を示せません。

自然ハーモニクスの場合は、開放弦のナットから駒までの振動弦長を基準として、1/2、1/3、1/4などの位置に現れる節を考えます。

また、同じ倍音に対応する節が複数存在することもあります。高次の倍音になるほど節の位置に対する許容範囲も小さくなり、少し位置がずれるだけで発音しにくくなる場合があります。

ハーモニクスの楽譜表記にも注意が必要です。

音符の上に小さな○を付けてハーモニクスを示す方法があります。また、菱形、いわゆるダイヤモンド形の音符を使い、軽く触れる位置を示す方法もあります。人工ハーモニクスでは通常の音符と菱形音符を組み合わせ、押弦する位置と軽く触れる節を区別する記譜法があります。音楽記譜法の資料にあるハーモニクス表記でも、この区別を確認できます。

しかし、自然ハーモニクスでは、実際に鳴る音を記譜する方式と、指で触れる位置を記譜する方式などが存在します。

したがって、「○が付いていれば必ずこの場所」「菱形なら必ず実際に鳴る音」というように、記号だけから一律に判断することはできません。

現代作品では作曲者独自の特殊奏法記号が使われる場合もあります。楽譜の冒頭などに奏法説明や凡例がある場合は、その作品の指示を優先します。

ハーモニクスが鳴りにくいときの確認点

ハーモニクスがきれいに発音しない場合、最初に確認したいのは左手の接触圧です。通常の音を弾く感覚で指板まで押し込んでしまうと、倍音ではなく通常の押弦音になってしまいます。

次に、節の位置を確認します。特に高次の倍音では、触れる位置が少しずれただけでも発音しにくくなることがあります。

さらに、左手だけでなく弓の速度、荷重、弦との接点も調整します。節の位置が合っていても、右手の条件によって倍音が明瞭に立ち上がらないことがあります。

人工ハーモニクスの場合は、基音側の指が十分に押さえられているか、節側の指が強すぎないかという2点を分けて確認します。

グリッサンドとトリルの弾き方

グリッサンド(glissando)は、左手の指を弦から離さず、押さえた状態で指板上を滑らせ、音程を連続的に変化させる奏法です。楽譜では「gliss.」と略記されることがあります。

開始音から終了音へ向かって指を滑らせることで、その途中の連続的な音高変化も聞こえます。2つの音符の間を直線や波線などで結んで示す場合があります。

通常のポジション移動でも左手は指板上を移動します。しかし、通常のシフティングでは移動途中の音を積極的に聞かせない場合があります。

一方、グリッサンドでは、移動している途中の音程変化そのものが音楽的な効果になります。開始音と終了音だけでなく、「その間をどう移動したか」が聞こえる奏法と考えると違いが分かりやすいでしょう。

グリッサンドと関連する言葉にポルタメントがありますが、用語の使用法やニュアンスには文脈による違いがあるため、完全な同義語として扱わないほうがよいでしょう。

また、通常の押弦ではなく、ハーモニクスを出す程度の軽い圧力で弦へ触れながら指を滑らせる「ハーモニクス・グリッサンド」もあります。

この場合、指が移動しながら複数の節を通過するため、倍音列に属する音が次々と現れる独特の効果になります。

人工ハーモニクスの指の間隔を維持したまま手全体を移動し、ハーモニクス音そのものをグリッサンドさせる方法もあります。

一方、トリル(trill)は、主音とその上の隣接音などを素早く交互に演奏する装飾奏法です。一般的には楽譜上で「tr」などと示されます。

基本的には、基準となる下側の指を安定させ、上側の指を素早く上げ下げします。

速く動かそうとして上側の指を必要以上に高く持ち上げると、そのぶん移動距離が増えます。また、弦へ強く叩きつけようとすると手全体が硬くなりやすくなります。

そのため、必要最小限の動きで交互音を作ることが重要です。

練習では、いきなり高速のトリルを作るのではなく、ゆっくりしたテンポで2音を均等に交互発音します。動きが安定してから徐々に速度を上げることで、指の独立性や脱力を確認しやすくなります。

トリルは単純に「できるだけ速く2音を繰り返す」ことだけが目的ではありません。作品や時代によって、開始音や終止方法などの演奏慣習が異なることがあります。そのため、実際の曲では楽譜と作品の様式を確認する必要があります。

現代的な奏法では、通常音とハーモニクスを素早く切り替えるなど、音色の変化を目的としたトリルが使われる場合もあります。

チェロで使われるそのほかの特殊奏法

チェロには、ここまで紹介した奏法以外にも、弓を当てる位置、弓の使い方、弦への接触方法などを変えることで、さまざまな音色を作る奏法があります。

ただし、「特殊奏法」という言葉の範囲は文脈によって変わります。スピッカートやトレモロのように、チェロの演奏で広く使われている一般的な弓奏技法まで含めて説明されることもあれば、現代音楽などで用いられる特殊な音響効果だけを指すこともあります。

スル・ポンティチェロ

スル・ポンティチェロ(sul ponticello)は、駒の近くを弓で弾く奏法です。楽譜では「sul pont.」などと指示される場合があります。

通常より駒に近い位置で弦を振動させることで、高い倍音成分が目立ち、硬質で鋭い音色になりやすい特徴があります。

同じ音程を弾いていても、弓を当てる位置を変えるだけで音色が大きく変化することを理解しやすい奏法です。

スル・タスト

スル・タスト(sul tasto)は、指板寄り、または指板上を弓で弾く奏法です。

スル・ポンティチェロとは反対方向へ接点を移し、通常より柔らかく、丸みのある音色を作ります。楽譜では「sul tasto」などと指示されます。

スル・ポンティチェロとスル・タストを比べると、左手で同じ音程を押さえたままでも、右手の接点によって音色を変えられることが分かります。

コル・レーニョ

コル・レーニョ(col legno)は、通常使う弓毛ではなく、弓の木部を利用する奏法です。

木部で弦を叩く「col legno battuto」などがあり、通常の弓奏とは異なる打撃的な音響効果を得られます。

ただし、木部を弦へ接触させるため、弓を傷める可能性があります。実際に行う場合は、使用する弓への配慮が必要です。

スピッカート

スピッカート(spiccato)は、弓を弦上で跳ねさせながら発音する奏法です。短く軽快な音を連続させることができます。

特殊な音響効果としてだけ使われるものではなく、クラシックのチェロでも広く使われる一般的な弓奏技法です。

そのため、「チェロの特殊奏法」という大きな分類では紹介されることがありますが、必ずしも現代的な特殊奏法という意味ではありません。

トレモロ

トレモロ(tremolo)では、弓を短く素早く往復させ、同じ音を急速に反復します。

速い反復によって、ひとつひとつの弓の動きを明確に区切って聞かせるというより、持続的な緊張感や音響効果を作ることができます。

弓だけでなく、ピチカートで急速な反復を行う特殊なトレモロもあります。

左手ピチカートとBartók pizzicato

左手ピチカートでは、右手ではなく左手の空いている指で弦をはじきます。右手で弓奏を続けながら左手で別の音をはじくなど、複数の発音方法を組み合わせることもできます。

Bartók pizzicatoでは、弦を強く引き上げて離し、指板へ当てることで、通常のピチカートよりも打楽器的な音を作ります。

どちらも「弦をはじく」という点では通常のピチカートと関係していますが、使用する手や弦の動かし方が異なります。

打楽器的な奏法

現代作品では、チェロの胴や弦などを叩き、打楽器のような音を出す場合もあります。

ただし、どこをどのように叩くのか、手を使うのか別の方法を使うのかといった条件は作品によって異なります。そのため、作曲者の指示や楽譜の凡例を確認する必要があります。

また、チェロの表板やニスなどを損傷する可能性がある動作には注意が必要です。特殊な音を出すことより、楽器を傷めないことを優先しなければならない場面もあります。

奏法の違いを「発音の仕組み」で整理する

さまざまな奏法を覚えるときは、名称だけを並べて暗記するよりも、どのように弦を振動させているかで整理すると理解しやすくなります。

ビブラートでは、弓奏を続けながら左手によって音程を周期的に変化させます。主な課題は、余計な力を入れずに幅と速度をコントロールすることです。

ピチカートでは、弓ではなく指で弦をはじきます。右手の指の使い分けや、arcoとの切り替えが必要になります。

重音では、2本の弦へ弓を同時に接触させます。左手の2音の音程と、右手の弓の角度を同時に整える必要があります。

3音・4音の和音では、左手で複数の音を準備しながら、右手で複数の弦を適切なタイミングで移動します。

自然ハーモニクスでは開放弦の節へ軽く触れ、人工ハーモニクスでは押弦した音を新しい基音として別の指で節へ触れます。

グリッサンドでは押弦した指を滑らせることで、開始音から終了音までの連続的な音程変化を聞かせます。

トリルでは、2つの音を左手の指で素早く交互に切り替えます。

このように整理すると、特殊奏法の多くは「まったく新しい音の出し方」というより、通常奏法で使っている左手や右手の条件を変化させたものだと分かります。

初心者が混同しやすいポイント

ビブラートは「手を震わせる奏法」ではなく、音程の周期的な変化をコントロールする奏法です。チェロ本体を意図的に揺らす必要もありません。

ピチカートは人差し指だけに限定されません。中指、親指、場合によっては左手も使います。

重音では、必ず2本とも左手で押さえるわけではありません。開放弦を含む重音もあります。

3音や4音の和音が楽譜に書かれていても、通常の弓で全音を長時間同時に持続するとは限りません。

ハーモニクスは「指板の高い位置を軽く押さえる奏法」ではありません。弦の倍音に対応する節を正確に軽く触れることが重要です。

自然ハーモニクスと人工ハーモニクスでは、基音の作り方と左手の使い方が異なります。

また、「フラジオレット」はハーモニクスとまったく別の奏法ではなく、弦楽器ではハーモニクスを指す用語として使われます。

グリッサンドと通常のポジション移動では、移動中の音程変化を音楽的効果として聞かせるかどうかが大きな違いになります。

こうした違いを理解しておけば、楽譜で初めて奏法記号を見たときにも、「何を変えればその音になるのか」を考えやすくなります。

まとめ

チェロには、ビブラート、ピチカート、重音・和音、ハーモニクス、グリッサンド、トリルをはじめ、多くの奏法があります。一見すると別々のテクニックに見えますが、どれも弦の振動、左手の音程、右手の発音というチェロの基本的な仕組みとつながっています。

ビブラートは、単に指先を震わせるのではなく、前腕などの動きを指へ伝えながら音程を周期的に変化させる奏法です。楽器全体が大きく揺れる場合は、ネックを握りすぎていないか、弦に沿った方向へ動けているかを確認します。

ピチカートでは人差し指がよく使われますが、中指や親指、左手を使う場合もあります。目的や音色によって指を使い分けるため、「必ずこの指」というひとつの正解だけがあるわけではありません。

重音では2本の弦へ弓を均等に接触させる角度が重要です。3~4音の和音では、チェロの駒の湾曲を考慮し、低音側から高音側などへ弓を素早く移して和音として聞かせることがあります。

ハーモニクスやフラジオレットでは、弦を強く押さえるのではなく、倍音に対応する節へ軽く触れます。自然ハーモニクスと人工ハーモニクスでは左手の使い方が異なり、記譜法にも複数の方式があるため、楽譜ごとの指示を確認することが重要です。

グリッサンドは指を滑らせながら連続的な音程変化を聞かせ、トリルは2音を素早く交互に演奏します。スル・ポンティチェロやスル・タストでは弓を当てる位置を変え、コル・レーニョでは弓の木部を利用するなど、右手側の条件を変える奏法もあります。

速さや力より先に奏法の仕組みを理解することが、新しい技術を練習するときの重要なポイントです。

通常の音程、左手のフォーム、弓の基本が不安定な状態で無理に速度を上げると、余計な力みが定着しやすくなります。ビブラートならゆっくりした往復運動、重音なら各音を単独で確認する練習、ハーモニクスなら正しい節と接触圧を探す練習、トリルなら遅いテンポで均等に動かす練習から始めると、それぞれの仕組みを確認しやすくなります。

痛み、しびれ、極端な疲労が出る場合は、力で解決しようとして反復しないことも大切です。ビブラートでチェロ全体が大きく揺れる、左親指が痛む、重音で左手が固まるといった状態が続く場合は、自己流の動きを固定する前に実際のフォームを確認してもらうとよいでしょう。